上 下
22 / 44

22話 詰んでない?

しおりを挟む
「吉川潤は攻略が難しいって意味」
「うん……。たぶん私失敗しちゃったんだよね?」
「みたいだね」
「失敗したのに、どうして続いてるの?」
「来年の三月までなら、失敗しても何回でもやり直せる」

 悠真は何でもないことのように言う。けど、それってかなり重要な情報じゃない?

「えっ、そうなの?」

 もっと早く教えてくれたらよかったのに~。
 「うん」と頷いてから、悠真は話を続ける。

「ただ、失敗したらその分攻略する時間は減るから」
「一年間まるまる攻略にあてられるはずだったのに、失敗する度にどんどん短くなっていくんだね」
「そういうこと」

 車内を見渡してから、悠真はこちらにチラリと視線を向けた。

 そうなると、考えなしに失敗ばかりしてたらダメってことだよね。そもそも、もうバッドエンド迎えたくないけど。刺されたくないし……。

「失敗したら、その回にやってたことは全部なかったことになったの?」
「全部ではないよ。バッドエンドに関連する記憶だけ各キャラから消去される」

 なるほど。それで、潤くんと付き合ってたのもなかったことになってたんだね。

 そんなことを話していたら、いつも降りる駅名のアナウンスがかかる。

「これからどうする?」

 電車から降りて、改札口を抜けたところで悠真から話しかけられた。

「うーん……」

 どうするって言われても、すぐには考えられないよ。
 昨日あんなことがあったばかりだし。時間はどんどん減っていくんだから、そうも言ってられないんだろうけども。

「他の人を攻略するか。オススメはしないけど、吉川潤を再攻略するのもアリだね」
「ムリムリ。潤くんは絶対無理」

 良い感じだなと思ってたのに、いきなり刺されたんだもん。どんな選択肢を選んでも、刺される未来しか見えない。

「だろうね」

 私の答えを予測していたかのように、悠真は言った。

 あれ? でも、待って。

 あと少しで家に着くというところで気にかかることがあり、私は道端で足を止める。

「潤くんの好感度は上げないようにしようと思って、下がりそうな選択肢を選んだの。でもね、なんでか上がっちゃったんだ」

 悠真は不可解そうな顔をして、ハタと足を止めた。うーんとうつむいてから、悠真が顔を上げる。

「ふーんおもしれー女、ってやつじゃない?」

 悠真は無表情のまま、口を動かす。

「ええ……」
 
 良さそうな選択肢を選んでも、もちろん好感度が上がる。それで、ヤンデレになって刺される。
 明らかに不正解の選択肢を選んでも、なぜか好感度が上がる。こっちも、最終的に刺される、と。

 もう詰んでない? 
しおりを挟む

処理中です...