野球×幼なじみ×マネージメント=?

春音優月

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第六話 シンプルな答え

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 部活を引退し、受験真っ只中の高校最後の秋。

 授業後に図書館で勉強してから家に帰ると、引退したはずの野球部のカバンを背負った大輝とはちあわせた。もうすぐ冬になるのに、まだこんがり焼けたままの大輝。

 息抜きのレベルを越えて、しょっちゅう部活に顔を出してるみたいだけど、勉強は大丈夫なのか心配になる。就職するなら別だけど、ほとんどの人が進学に向けて毎日勉強してるのに。

「また部活に顔出してたの大輝、勉強は大丈夫?」

「俺、推薦決まりそう。スポーツ推薦でって誘ってくれてるとこがあるんだ。ここからは離れることになるけど、野球続けたいし、行こうと思う」

「え! すごい、よかったね! おめでとう」

 大輝が誘われてるという大学は確かにここから通うのは難しい距離だから、もしも入学するなら下宿しかない。ずっと野球をがんばってきた大輝がそれを認められたのは、もちろん私も嬉しい。  

 だから、すぐに私も一緒に喜んだけど、次に生まれてきたのは、祝福とは別の気持ちだった。

 大輝が、ここを離れる。
 生まれた時からずっと一緒だった大輝が、遠くに行っちゃうんだ......。
 祝福してあげなきゃいけないのに、こんなのただのワガママでしかないけど、さみしい。大輝が遠くに行ってしまうのは、さみしい。

 物理的にだけじゃなくて、すでに進路を決めた大輝とまだ決まらない私とではあまりにも差を感じて、余計にさみしくてつらい。

「どうかした?」

 思わずうつむいてしまった私の顔をのぞきこんできた大輝に、あわてて笑顔を作る。

「......ううん、大輝はすごいなと思って。
私も一応大学に進学する予定だけど、特にやりたいことがあるわけでもないし......。大輝はいつもしっかり結果を出すけど、私は相変わらず何もないもん」

 野球部のマネージャーを続けたことは後悔してないし、充実した三年間だったと思う。入って良かったとは思っている。  

 だけど、小さな頃から好きな野球を続けて、大学までしっかりと道を繋げた大輝とは違って、相変わらず私は空っぽだ。あんなに必死だった三年間が嘘みたいに、部活を引退してしまえば、何もない空っぽのまま。

 特にやりたいことがあるわけでもないし、はっきりとした進路も決まってない。とりあえずみんな行くし、親が行けって言うから、大学受験するだけ。それだけ。

 好きなことを続けて、しかもしっかり結果を出した大輝に比べて、なんだか自分がすごく情けなく思えた。

「そうか? 俺は未紀の方がずっとすごいと思ってたけど。
試合に出れるわけでもないのに、一日も休まずに毎日がんばってた。しんどい時もあっただろうに、それってすごいことだと思う。小さい時から、未紀は一度始めたら絶対最後まで続けるよな」

 小学生の時の観察日記とか、何とかクラブの当番とか。そう言われて、ほとんどの人が飽きてやらなくなったようなことも、律儀に最後までやっていたことを思い出す。 

「でもそれって、やれって言われたからやってただけで、自分から進んでやってたわけじゃなかった。誰かに評価されるわけでもないのに、要領が悪いだけなんだよ」

 自主性がない。あなたは、本当は何がやりたいの?

 先生や親にいつもそう言われるけど、私はいつも答えに困ってしまう。だって、やりたいことなんて何もないから。

 昔から何かを決めることが苦手だった。
 誰かに決めてもらわないと、自分の進むべき道も分からない。情けないな......。

 だから、いつも自分で道を見つけることのできる大輝がうらやましくて、そうできない自分がくやしかったのかもしれない。きっと、そうだ。

「そんなのわかんねーじゃん。少なくとも俺は見てる。やりたくもないことを続けれる方が逆にすごくね? 俺は無理だ」

 真顔でそう言った大輝に、自然と涙がこみ上げてきて、気づいたらボロボロと涙を流していた。

 大輝の言葉は魔法みたいだ。  
 心にすっと溶け込んで、そこに明かりを灯してくれる。誰かと比べる必要なんてなくて、私のままでいいんだと自然に思わせてくれる。

「何で泣くんだよ!? 何か悪いこと言った?」  

 無言で涙を流していると、大輝が急に百面相しながらワタワタとあわてはじめる。
 それがおかしくて、泣きながらも声を出して笑ってしまった。泣き笑いしている私を見て大輝はますます混乱していて。悪いとは思ったけど、涙も笑い声もどっちもなかなか止まらなくて、結局落ち着くまでしばらくそのままだった。

「まだ進路決まってないなら、良かったら未紀も俺と同じ大学目指さない? スポーツ系以外にも色んな学部があるんだ」

「あ、うん、それは知ってるけど......。何で?
確かに大輝と一緒だったら、心強いけど......」  
 ようやく泣き止んだ私に、おだやかな声でそう言った大輝に首をかしげる。幼なじみだからって、大学まで一緒ってどうなんだろう。  一緒の大学だったら楽しいだろうし、別に特に深い意味はないかもしれないけど......。

「好きだから」

 色々考えていたのがバカらしくなるくらいに、大輝の答えはシンプルなものだった。それでいて、そのたった一言は私の心を揺さぶって、それからストンと心のあるべき場所に落ちた。  

 そっか、私は......。そうだったら、今までのモヤモヤした気持ちも妙に胸が騒ぐあの気持ちも全部納得できる。  

「うん。私も、好き」

 真剣な大輝の目に促されるように、気づいたらそう答えていた。普段の私からは信じられないくらい、少しも迷わなかった。

 野球部に入部した時みたいに、自然と体が動いていたんだ。

「え? マジで?」

 目をまるくした大輝にうんと頷くと、大輝は照れたようにそっかと笑った。

 大輝に言われたから気づくなんて遅すぎだけど、私は大輝のことが好きだったんだ。近くにいすぎて気づかなかっただけで、きっとずっと前から好きだった。 

 だから、あんなにも大輝が輝いて見えて、いつも先をいってしまう大輝に悔しさを感じたんだ。

 自分で気づくより先に告白されてしまうなんて、相変わらず大輝は、いつもいつも私の先をいってしまう。でも......。

 いつも追いつけないくらい先にいると思ってたけど、本当は待っててくれたんだね。

「だから、これからも一緒にいられたら嬉しい」

 大学のことはまだ分からないけど、大輝とはずっと一緒にいられたら嬉しい。これからはただの幼なじみじゃなくて、もっと別の関係になれたら嬉しい。

 そう思ったから、勇気を出して、そう言ったんだ。

    
        おしまい。
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