Missing You

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「お待たせ~ 向日葵ちゃん」


配達の準備を終えた零さんが私の方へ駆け寄って来る


「美咲さん電話してたから、今のうちに出発しちゃおう」

「大丈夫なんですか?」

「いつものことだから平気!

さ、どうぞどうぞ。乗って?」

「えっあっ…すみません」


助手席のドアを開けてくれたので、ペコッとお辞儀をして車に乗り込む


零さん紳士だなぁ

女性の扱い、慣れてるのかな…


自分で想像したくせにチクチクと胸が痛む



「よいしょ」

「……」

「ん?」

「……

…わっ!?


れ、零さん!?なななな何を…!」



ぼんやりしていて気づくのが遅れたけど

運転席に座ったはずの零さんが
私に覆いかぶさるようにして接近していた



「うん?
シートベルトをしようと思って」

「…

へ?シート…ベルト…」

「シートベルトしないと危ないでしょう?見つかったら逮捕されちゃうよ」

「あ…あぁ!シートベルト!そ、そうですね、危ないです」


どうやら零さんは
私のシートベルトを代わりにしてくれようとしたらしい

だからこんな至近距離なのですね



「はい。で~きた」

「…ありがとうございます」

「いえいえ。

それじゃ、出発するね」



自分のシートベルトも締めて、エンジンをかけて、ハンドルを握る

全ての動作が格好良いなぁ…なんて見惚れているうちに
車が動き出した




「お花の配達ってどんなところに行くんですか?」

「今日はコンサート会場、食堂、あとはお友だちの誕生日会をするって人のところにも行くよ~」

「誕生日会って…そんな個人的なことでも配達を頼めるんですね」

「基本的にはどんな依頼でも引き受けるんだ。
配達する僕も色んな出会いがあって楽しいよ」


目を細くして笑う零さんは本当に幸せそう





お花が好きで
この仕事が好きで

お花を通して、相手の幸せを願うんだ


誰かが喜んでくれることが自分の幸せだなんて


「…素敵ですね」

「そうでしょう?お花屋さんって素敵な仕事なんだ」


お花屋さんが素敵な仕事なのもそうだけれど

零さんが素敵なんです



自分の仕事に誇りを持って
人との出会いを大切にして

それを思い浮かべながら、あんなに優しい笑顔になれるのだから





_



まず初めにコンサート会場の入り口に大きなお花を飾り

次に食堂へ開店祝いのお花を届けた



『ありがとうございます~ こんなに立派なお花』

「あはは、僕は配達しただけですよ。

このお花を注文してくださった方がすごく嬉しそうにお話していて、僕まで嬉しくなっちゃいました」

『喜んでました?嬉しいわぁ。昔からの友人なんです』

「ご友人がお店の開店を喜んでくれるって素敵ですね。
本当におめでとうございます」

『ありがとうございます。ハンサムなお兄さんにもお祝いしてもらって得したわね~ふふ』


嬉しそうに笑う店長さん

一緒になって笑う零さん


なんて平和な空気



『あ、そうだ。
お兄さん漬物好き?』

「はい。好きです」

『じゃあ、うちの漬物を持って行ってちょうだい。お土産に』

「え!いやいや、そんな。お気遣いなく」

『そんなこと言わずに持って行ってくださいよ。ね?美味しくできたから是非食べてほしいの』

「んー…でも」

『味見程度ですから。ね?』

「……頂いてもいいんですか?」

『もちろん!
待っててね。今用意して来ますから』


店長さんは軽快な足取りでお店の中に入り
その後すぐ、漬物がたっぷり入った容器を持って戻って来た



『さぁさぁ、どうぞ』

「わっ 重たい」

『こっちはお姉さんの分ね』

「え!?
私は、その、」

『遠慮せずに持って帰って?そしてその漬物でご飯をたくさん食べてください』

「あ…う、あの…」


焦って零さんの方を見ると
笑顔で頷いていた


「…すみません。ありがとうございます」

「美味しく頂きますね。
今度はお仕事でなくプライベートでお邪魔します」

『本当?ふふ、嬉しい。楽しみにしてますね』

「それでは失礼します。ありがとうございました」


零さんの隣で一緒に頭を下げ、重たい漬物の容器を抱きしめるようにして車に乗り込んだ



「いや~良い人だったね」

「はい!すごく!

…というか
関係のない私までお土産を頂いてしまって良かったのでしょうか」

「店長さんが向日葵ちゃんにも食べさせたいって思ったんだから良いんだよ。
向日葵ちゃんがその漬物を食べて美味しいって喜んでたら、きっと店長さんも嬉しいはず」

「そうですね…全力で感謝して食べます!」




それからしばらくすると
また次の目的地に到着した




「この辺のお家なんだけど…

住宅街に入ったら全然わからないね。みんな同じような家ばっかりで」

「零さん、住所見せてもらってもいいですか?」

「うん」


住所の書かれた紙を受け取り、周りを見渡す


「あ~
こっちの道ですね。もっと奥です」

「え?そうなの?」

「はい。この辺わかりにくいんですよ」

YX「へぇ~

向日葵ちゃんすごいね。この辺詳しいの?」

「はい。友だちの家がこの近くなので」

「そうなんだね~
向日葵ちゃんがいてくれて助かったなぁ」

「…へへ
お役に立ててよかったです」



仕事の邪魔をしているだけのような気がしてたから、道案内だけでもできて良かった


零さんが喜んでるし
すごいねって褒めてもらったし

嬉しくて顔がニヤける



「安心してついて来てくださいね!零さん
私がしっかり案内しますから」

「うん!ありが…

あっ
待って!向日葵ちゃん」

「へ?」

「前!危ない!」


零さんの忠告を聞いてる途中で

バカな私は余所見をしたまま、曲がり角を直進



そこに偶然

本当に偶然

すごいタイミングで



トラックが猛スピードでやって来た





「!」





自分が轢かれそうになってるというのに
頭の中は変に冷静で

"そんなに急いで一体どこに行くんだろう"なんてことを考えていた







「……」

「…わぁ、

びっくりしたね向日葵ちゃん」

「……」

「向日葵ちゃん?大丈夫?」

「…だ…だいじょぶ、です」

「大丈夫じゃなさそうだね。

ここにいると危ないから、少し移動しようか」

「はい…すみません」



トラックの前に飛び出した私
その腰を抱き寄せて助けてくださった零さん

不謹慎だけど、逞しい腕にときめいてしまった



「助けて頂きありがとうございました」

「ううん、全然。無事でよかったよ」

「あ!そういえばお花は」

「こっちも無事だよ~
すごいでしょ?1つも落とさなかった」


私の所為でお花がダメになってたらどうしようかと…
無事で何より


そして、得意げな零さんはやっぱり可愛い



「お花が無事でよかったです。大事な商品を危険にさらしてしまい、本当にすみませんでした」

「向日葵ちゃん」

「はい」

「今度からはもっと気をつけなきゃダメだよ?曲がり角は特に、いきなり飛び出したら危ない。

向日葵ちゃんの命はとても大切で
この世に一つしか無いんだから」

「……」


いつものふにゃふにゃ笑顔ではなく

真面目な表情で
真っ直ぐな瞳



「…はい。すみませんでした。
気をつけます」



胸がぎゅーっと苦しくなって

なぜか、涙が出そうになった



「あっ

叱ったわけじゃないよ?怒ってるわけでもないんだ。僕はただ、向日葵ちゃんが怪我でもしたら大変だなって思って」


零さん慌ててる?

私が泣きそうな顔をしてるから、誤解させてしまったみたい


「…ふふ、わかってます。
ありがとうございます零さん」









.





.





.




「ご注文の品をお届けに参りました」

『わぁ、いっぱい!』

『めっちゃ綺麗』

『突然の注文だったのに、こんなに素敵なお花…ありがとうございます』

「喜んでいただけてよかったです」


誕生日会をする家にお花を届け
代金を受け取って帰ろうとしたとき

女の子たちの会話が背後から聞こえてきた




『これだけあればサプライズ成功しそうだよね』

『うん!絶対びっくりする』

『あ、花束も作っちゃう?』

『それも良いね!』

『でもどうやって?私そんなセンス無いけど』

『私も無理。不器用だし』

『えぇ、私もちょっと…』

『じゃあやめる?』

『うーん…花束あげたら喜びそうだけどね。うちらじゃ上手く作れないし』

『練習しとくべきだったね』




「……」



隣を歩く零さんの足がピタッと止まった


「…向日葵ちゃん、僕」


ですよね。そうだと思いました


「花束ですよね?」

「えっ」


私が先読みして答えると、こちらを見て目を丸くする

自分がわかりやすいという自覚が無いのだろうか。そんなところも可愛らしい


「どうしてわかったの?」

「零さんならそう言うだろうなぁと思いまして」

「すごいね向日葵ちゃん!超能力みたい」

「あはっ、そんな大したことじゃないですよ」


零さんは困ってる人を放って置けないタイプで
自分の力でどうにかなることなら時間も労力も惜しまない

そんな人だろうなと思ったから


「私は大丈夫ですよ。時間的にも余裕がありますし、零さんが花束を作るところも見てみたいです」

「本当?
じゃあ…ちょっと寄り道」


安心したように笑って
今来た道を引き返す



「あの、すみません」

『はい』

『あれ?』

『もしかしてお金足りませんでしたか?』

「いえ。そうじゃないんです。
偶然皆さんのお話が聞こえてきて…

僕で良かったら、お手伝いしましょうか?花束作り」

『え!』

『良いんですか?予約とかしてないんですけど』

「はい、大丈夫です」

『どうする?やってもらう?』

『んー…
追加料金っていくらくらいですかね』

「あはは、お金は頂けませんよ。これは僕の独断ですから」

『え!?うそ』

『ということは…タダで?サービス?』

「はい」

『わぁ!すごーい!』

『やったー!』

『本当に良いんですか?後で偉い人に怒られたりしませんか?』

「ご心配なく。

店長が僕の立場なら、きっと同じことをすると思いますから」
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