Missing You

17CARAT

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馬鹿になるくらい

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「皆さん、すごく喜んでましたね」

「そうだね~
花束作りも楽しんでくれて良かった」

「零さんもすごく楽しそうでしたよ」

「え?僕?」

「お花の手入れをしているときもそうですけど、今日花束を作っているときも生き生きしているように見えました」

「本当?へへ、なんか恥ずかしいな」


運転しながら照れ臭そうに笑う

その横顔を見ていると胸が苦しくなる



「零さんはこの仕事が天職かもしれませんね。ぴったりです」

「……」




あれ?

予想外のリアクションだ




さっきまでの笑顔が消え、驚いたように目を見開いている





「…零さん?」

「…

…え?あっ

あはは、ごめんね。ちょっと思い出しちゃって」

「?」

「前にもね、 "零は花屋が天職だね"って、僕に言ってくれた人がいたんだ」

「あ……そう…だったんですね」


もしかして


零さんに
そんな顔をさせる人って


「僕はお花が好きだし、お客さんとお話することも大好きだから
そう言ってもらえるとすごく嬉しいんだ。

今も、向日葵ちゃんが言ってくれたことが嬉しかった。ありがとう」


いつもの柔らかい笑顔が私に向けられているようだけど



その目は

あのときと同じ





"僕は黄色のスターチスが一番好きなんだ"












そっか




私、その人と同じことを言ってしまったんだ




嬉しいような悲しいような









「そういえば、さっき向日葵ちゃんも花束作ってたよね」

「あ…すいません。女の子たちに誘われるまま、やってしまいました」

「どうして謝るの?
お花の組み合わせも綺麗だったし、束ね方も上手だったよ。手先が器用なんだね」

「いえ!全然です!私なんて、全然」

「向日葵ちゃんは明るくて気さくで優しいし、人と関わるお仕事に向いてそう。お花屋さんに限らずね。

カフェのバイトでも、接客が得意なんじゃない?」

「あー…得意、ではないですね。
最初は緊張してたくさん失敗してましたよ。
それでも
最近は少し余裕が出てきて、前より楽しくなってきました」

「初めてのことは緊張するよね」

「零さんも緊張しましたか?働き始めの頃」

「もちろん!
お客さんが来る度にドキドキして、慌てて何度もお水を零したり注文を間違えたり」

「そうなんですか?意外です」

「今はもう慣れたからそんな失敗もなくなったけどね。昔は本当に酷かった~

向日葵ちゃんも、働く楽しさがわかってきたならよかったね。楽しいと頑張れるから」





.






.






.








「ふーん…
朝からデートして、花までプレゼントしてもらって

なんでそんな暗い顔?」

「…デートじゃないもん。
零さんは私がお花屋さんの仕事に興味があると思ってて、親切心で配達の様子を見せてくれただけだもん」

「でも花を貰ったのは事実だろ?よかったじゃん」

「…うん。
嬉しかった、けど」



あのときの零さんの瞳も

その表情から、大切な人への想いが伝わってきたことも


脳裏から離れないんだ







「はぁー…」



首を傾げる世呉を見遣り、机に俯せる



「好きな人から花をプレゼントされてそんなに暗い顔をする人、見たことない」

「……だって」

「片思いだから?」

「……」

「零さんに好きな人がいるかもしれないから?」

「"いるかも"じゃなくて絶対いる。

それも

普通の好きじゃなくて……何て言うか…その…
ものすごく大切な人」

「え?」

「…

零さんね、たまに切なげで悲しげな目をするの。

一見楽しそうに笑ってるんだけど
目の奥は悲しそうで。


あれはね
誰か大切な人のことを思い出して、"会いたいなぁ"とか思ってるんだよ。たぶん」



ものすごく大切で特別で

愛しい誰か





「考えすぎじゃ」

「ない」

「勘違い」

「でもない」

「変なとこ自信満々だな」

「……」

「とにかく、苦しいんだ?向日葵は」

「…うん」


叶わない恋だと知っていたけど


零さんと一緒にいても
瞳に映っているのは私ではない


その事実が予想以上に辛いんだ






「よしよし」

「…

何よ、その手は」

「んー?
和らげてやろうと思ってさ。その痛みを」


私の頭を撫でる手

どうやら慰めてくれているらしい


「ねぇ、世呉」

「うん」

「私バカだよね」

「うん?」

「こんな…苦しいとか辛いとか言いながら、どうせまた同じことを繰り返すんだよ」



何度も自分に言い聞かせるけど


これは叶わない恋で

零さんを好きでいても苦しいだけ


顔を合わせる度に零さんの想い人を意識してしまうくらいなら、いっそのこと会わない方がいいだろうし

見込みがないんだから早く諦めればいい



…そうわかっていても
コントロールできないのが恋というものらしいけどね

なんて面倒でなんて厄介



「バカだ、バカ。さっさと諦めればいいのに」

「まぁな。

でもさ
バカになるほど人を好きになるって、すごくない?素敵なことだと思うけど」

「…

…気持ち悪い」

「は?」

「世呉が"素敵"って…キャラじゃないじゃん。急にそんなこと言ったら怖いよ」

「あっそ。そんなこと言っちゃうんだ。もう知らね」


冷たい目で睨まれ、頭をバシッと叩かれた


「あ!世呉

ごめんって。待ってよ~」


席を立って帰り支度を始める世呉

その腕を掴み、全力で引きとめる


「何」

「この後暇?」

「忙しい」

「嘘でしょ。どうせ暇なんでしょ」

「失礼なやつだな」

「お願い!お花屋さんに用があるから、一緒に行こう?ね?」

「あぁ、花を受け取りに行くのか。

…なんで俺が?
1人で行けばいいじゃん。何なら帰りも零さんに送ってもらえばいい」

「…

…無理だよ。泣きそう」

「え?」

「今、零さんの顔を見たら…零さんの手からお花を受け取ったら…
我慢しきれなくて、泣いちゃいそうなんだもん」

「……」

「今はあの目を見れないの。でも、私が目を逸らしてたら零さんが心配するかもしれないでしょ?それで顔を覗き込まれたら…色んな意味で終わっちゃう。

だから、そうならないように世呉が何とかして」

「なんで俺が」

「友だちでしょ?助けてよ」


涙を堪えながら訴えると
世呉のため息が聞こえた


「わかった。行けばいいんだろ?」

「いいの…?」

「その代わり、今度ご飯奢って」

「うん!わかった!任せて」

「…ったく」


私のおでこを優しく小突いて
さりげなく私の荷物も持って行く

何だかんだ
世呉は優しい


「ねぇ、おでこ痛いんだけど」

「痛くしてない」

「…へへ」

「何笑ってんだ」

「ありがとう世呉。いつも、本当にありがとう」

「向日葵の世話をするのは俺の役目だからな」

「世話、って…子どもじゃないんですけど」

「似たようなもんだろ。俺がいないと零さんに会いに行くこともできないくせに」

「……」

「ほら行くぞ。赤ちゃん」


失礼な男
…と思ったけど

世呉が言ってることは事実なので反論できず


おとなしく、大きいお兄さんの後ろをついて歩いた








_____


____










「こんばんは」

「ん?
お~世呉くん。あ、向日葵ちゃんと一緒に来てくれたんだね」

「…こ、こんばんは」

「いらっしゃい。お勉強お疲れ様」




笑顔が眩しい
既に気絶しそう


「おい。早く言えよ」

「え」

「花を受け取りに来ました~って」

「あ、ぅ……む、無理」

「はぁ?」

「だ、だだ、だって…顔、見れない」

「……」

「どうかした?向日葵ちゃん」


世呉の後ろでコソコソしている私を見つめる零さん



ダメだ
今すぐ逃げたい


「……」


無言のまま後退りする私

それを見て頭に「?」を浮かべる零さん

呆れ顔の世呉



どうしよう
今の私、絶対変な人になってる



「すいません零さん
向日葵の花を受け取りに来たので、貰ってもいいですか?」

「そうだったね!

これだよ。ほら、予約って書いておいたから」

「ありがとうございます」

「はい、どうぞ。向日葵ちゃん」

「あっ…ぇ、えっと……ぅぅ」

「?」

「声ちっちゃ。何言ってるかわかんないし」

「ぅ…だ、だって、」

「零さん困ってるよ」

「え、」

「うん?」


それはダメだ

気味悪がられるのは仕方ないとしても(本当はそれもダメだけど)
困らせたり迷惑をかけるのは嫌


「……」


世呉の後ろに隠れたまま
そーっと手を伸ばして

何とかお花を受け取る


「ぉ…お、花…ありがとうございます。大切に、します」


吃ってしまってるけど
一応お礼を言うことができた


「こちらこそありがとう。喜んでもらえて嬉しいよ。

世呉くんにもお花選ぼうか?」

「あー…嬉しいんですけど、遠慮しておきます。俺じゃすぐ枯らしそうなんで」

「あはっ
それは大変だ」



あぁ…零さんの笑窪

可愛いくて
ドキドキする


やっぱり好きだなぁ




「…

世呉、そろそろ行こう」

「もう帰んの?」

「うん。暗いしお腹減った」


これ以上零さんの近くにいるのは危険。どんどん好きになって手がつけられなくなりそう


「確かに腹減ったな。

零さん、俺たち帰りますね。仕事頑張ってください」

「ありがとう。気をつけて帰ってね?」

「……」

「向日葵、挨拶しな」

「う、うん。

……ありがとうございました。…さ、さようなら」

「気をつけて帰ってね~」





暗い中でも輝く笑顔


爽やかな風が吹き抜ける







これはもう



既に、手遅れみたいだ



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