【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐

文字の大きさ
3 / 33

ここから通ったらどうですか?

しおりを挟む

「うま!千冬って料理できんだな」
「簡単なものだけですけど」


謙遜する千冬だが、食卓に出されたカルボナーラとコンソメスープは、どちらも文句なしに美味い。


「てっきり千冬は、自炊しねぇタイプなのかと思ってた」
「え、なんでですか?」
「いつもコンビニで弁当買ってたから」
「あー…」


千冬が買う物は、大体弁当か惣菜。その場で温めを頼まれ、レンジ待ちの間に雑談していたのを思い出す。


「……忙しい時は、出来合いのものが…楽なので」
「忙しいって、さっきの部屋のやつか?」
「そう、ですね」
「あれって何なんだ?動画配信?」


千冬のフォークが止まる。
口を引き結び、俺をジッと見つめた。

なんだ?聞いちゃいけねぇことだったのか?

また怒りモードの千冬が出てくるんじゃねぇかとちょっと身構えると、千冬がパスタに視線を戻し、控えめに言った。


「歌、……です」
「歌?」
「…曲を作って、歌って、動画投稿してるんです」
「え…、マジで?『歌い手』ってやつ?」
「はい」
「すげぇな!聴いてみてぇ。YouTubeとか検索したら出てくんのか?」


驚いた。まさか千冬にそんな特技があったとは。
俺が興奮気味に言うと、千冬は頬を赤くして、フォークでパスタを弄りながら答える。


「……『フユ』って名前で、投稿してます」
「へぇ!『フユ』、か」


早速、スマホで検索する。
「フユ」は、ありきたりな名前な気がするけど、検索窓に入力してみると、サジェストに「フユ 歌ってみた」「フユ オリジナル」「フユ ボカロ」「フユ 初春の月」などと出てくる。
「フユ オリジナル」を選び検索する。
1番上に表示された動画は、今年の3月末の動画だ。これが1番人気ってことなんだな?
再生回数は、500……


「500万!?」
「!、びっくりした」
「え、お前、もしかして、すごい奴!?有名人??」
「有名…って程じゃないと思いますけど…、」
「いや500万はすげぇだろ」
「そこまで伸びてるのは、それだけです。他のは、だいたい10万前後ですし…」
「……」


視線を逸らしたままチビチビとスープを飲む千冬を、気持ち遠くに眺める。

10万だって十分すげぇだろ。
ていうか、こいつがどうして、こんなマンションに住んでいるのか、ようやく分かったわ。


「ちょっと、信じらんねぇけど…」
「嘘は言ってません」
「疑ってるわけじゃねぇよ。びっくりしたって言いてぇだけ」


目の前の「有名な歌い手」が作ったカルボナーラを一口、口に運んでから、その動画を再生する。

曲のタイトルは、「初春の月」。
画面に映し出されるのは、オーバーサイズのグレーのパーカーを着て、ギターを持つ手元のみ。
静かなピアノの旋律と、ギターの音が耳に心地よく流れ始めた。

その瞬間、千冬にスマホの電源ボタンを押され、再生が中断される。


「ちょっ、ちょっと待ってください!」
「あ?なんだよ」
「これ聴くんですか…!?今!?」
「だってお前の代表曲だろ?」
「そ、そう…です、けど…っ!」


耳まで赤くして、なんなら若干目は潤んでいる。
全世界に公開しておいて、何を恥ずかしがってんだよ?俺への嫌がらせか?


「とにかく、この曲は、やめましょう」
「はぁ?」
「『歌ってみた』とかにしてください。伊織先輩の知ってる曲もあると思いますから」
「はぁ。まあ…いいけどよ」


アーティストって気難しい生き物だな。
千冬に言われた通り、「フユ 歌ってみた」で検索し直し、適当に選ぶ。
流行に疎い俺でも耳にしたことがある、有名な曲の前奏が流れる。


「なんか……緊張します」
「ネットに公開してるのにか?今更だろ?」
「……伊織先輩に聴かれるのが、緊張するんです」
「ふぅん?」
「お皿片付けるので、食べ終わってたらください」
「おう、さんきゅ」


普段、動画投稿しかしてないなら、リアルな反応を目の当たりにするって、確かに緊張するもんなのかもしれねぇな。
残りの一口を口に入れ、千冬に皿を渡すと、動画から歌声が流れ始めた。


「うわ、上手っ…、ていうか……」


流しに立つ千冬を再び見る。
千冬の歌声は、普段の千冬のイメージとは全く違う、甘く切ない低音ボイス。
心地良い響きなのに、胸の奥を優しく揺さぶられるような、不思議な魅力がある。
思わず聴き入ってしまい、再生が終わると同時に、千冬に話しかけた。


「千冬、すげぇな。これ本当にお前?」
「……ありがとうございます」
「これだけ上手いなら、人気なのも納得だわ」
「上には上がいますから、僕はまだまだですよ」
「そうか?」
「…でも、伊織先輩に褒められるのは、嬉しい、です」


席に戻った千冬が、照れながら微笑む。可愛らしい笑み。
動画の一覧を見ていくと、サムネイルで見る限り、どの動画も顔を映しているものはない。
匿名で活動してるから、あの部屋のことも、秘密にしたかったのか。


「これやりながら、バイトもして、大学も行って…って、大変じゃねぇの?」
「好きでやってることですから、続けられてます」
「へぇ~、すげぇー。俺なんかバイトしかしてねぇのに、単位一つ落としちまったけどな」
「え?そうなんですか?」
「おう。後期の教養科目。月曜の朝イチだから、つい寝坊しちまうんだよな……」
「そ、それって、全学部共通の『情報技術概論』ですか?再履するんですか?」
「ああ、それ」
「僕も!僕もそれ、受ける予定です!」
「基本1年生が受ける講義だもんな。知り合いがいてよかった」


後期の授業は10月から。今日は9月末の最終土曜だから、早速、明後日から、この「情報技術概論」の再履修が始まる。
俺の周りの奴らはみんな無事に単位を取得しているから、俺は1人で、1年生に囲まれ講義を受ける。
正直、ちょっと恥ずかしいし、肩身は狭ぇ。


「まあ、問題は、朝起きれるかだけどな。二葉キャンパスから一ノ宮キャンパスまでの再履バスも出てっけど、そもそも月曜の朝イチっていうのが辛ぇんだよな…。寒い時期だし」


俺たちの通う大学は、学部によって2年生以降はキャンパスが分かれる。
工学部の俺は、2年生以降は二葉キャンパスだが、学部共通の教養科目は、一ノ宮キャンパスで講義だ。
つまり、月曜は毎朝、一ノ宮まで行かないといけねぇ。


「伊織先輩、朝弱いんですね」
「寒さにもな。布団から出たくねぇ」
「ふふ、なんか先輩っぽいです」
「それ褒めてねぇよな?」


やたら嬉しそうに笑う千冬を、わざと軽く睨んでやる。
他人事だと思いやがって…。

付けっぱなしにしていたテレビが、夜のニュースに切り替わる。時間は22時。いつの間にか、こんな時間か。


「千冬、明日は何か予定あんのか?」
「いいえ。伊織先輩は大丈夫ですか?」
「俺も特にねぇ」
「あ」
「ん?」


寝るにはまだ少し早ぇから、テレビの前のソファに移動しようと、席を立ったところで、千冬が声を上げた。
どうしたのかと千冬を見ると、千冬は口元を手で隠し、目を逸らす。


「…………」
「…なんだよ?」
「あの…、」
「おう?」
「…月曜は、ここから通ったら、どうですか?」
「………?」
「その、…月曜の、朝だけは……」


月曜の朝はここから通う…?
ここって、千冬のマンションってことか?


「こ、ここからの方が、一ノ宮キャンパス近いですし、」
「…おう?」
「せ、先輩が寝坊しないように、…僕が、起こしてあげられます…し、」
「……おう?」
「伊織先輩の荷物、置いたままにしてもらって良いですし、」
「………」
「あと、朝ごはんも作ります!だから…、」
「………」
「………っ」


赤い頬で、乞い願うような目で俺を見る千冬。
申し出はありがてぇけど……、


「どっちかっていうと、俺が頼む立場だよな?」
「え?」
「あ、いや…、もちろんありがてぇし、千冬が良いなら、そうさせてもらえると助かるけど…」
「!、じゃ、じゃあ…!」
「……いいのか?」
「はい!もちろんです!」


世話焼きな性格も、ここまでくると少し心配になるけど。
千冬がいいっていうなら、俺にとっては断る理由もねぇ。


「ありがとな、千冬。都合悪くなったらいつでも言ってくれよ」
「ふふ、はい、そうしますね」


満足そうに、少し照れながら笑う千冬を見て、俺の頬も緩む。

明日は、毎週の泊まりのために必要な物を買いに行く約束をして、台風の夜は更けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】俺の顔が良いのが悪い

香澄京耶
BL
顔が良すぎて祖国を追い出されたルシエル。 人目を避けて学院で研究に没頭する日々だったが、なぜか“王子様”と呼ばれる後輩ラウェルに懐かれて――。 「僕は、あなたそのものに惚れたんです。」 重くて甘い溺愛攻め × こじらせ美形受 ※イラストはAI生成です。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。 ✻✻✻ 2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。

地味な俺は、メイクしてくるあいつから逃げたい!!

むいあ
BL
___「メイクするなー!帰らせろー!!」___ 俺、七瀬唯斗はお父さんとお母さん、先生の推薦によって風上高校に入ることになった高校一年生だ。 風上高校には普通科もあるが、珍しいことに、芸能科とマネージメント科、そしてスタイリスト科もあった。 俺は絶対目立ちたくないため、もちろん普通科だ。 そして入学式、俺の隣は早川茜というスタイ履修科の生徒だった。 まあ、あまり関わらないだろうと思っていた。 しかし、この学校は科が交わる「交流会」があって、早川茜のモデルに選ばれてしまって!? メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件

ゆきりんご
BL
【重い感情を隠している年下敬語攻め×自己肯定感低い年上受け】 イリアスは職場で「優秀で顔もそこそこ良くて頼りになる上司」を演じているが、本当は自信がない。付き合っていた相手に振られることが続いてさらに自信をなくした。自棄になろうとしていたところを、気になっていた部下に止められて、成り行きで体の関係を持つことになり……?

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

処理中です...