文字の大きさ
大
中
小
5 / 46
着てほしいのか?(※加筆有)
遅めの朝食を摂った後、俺達は大型商業施設が立ち並ぶ駅北へ来た。
「泊まりに必要なものって言っても、部屋着くらいだよな」
そう言って、衣料品店に入る。恐らく日本最大手の、ファストファッションの店。部屋着を買うならここだよな。
昨日の急な泊まりでは、千冬が、家にあった新しい下着と歯ブラシを俺のために下ろしてくれて、部屋着は千冬のものを貸してくれた。
「下着と歯ブラシは買って返すとして、次からはあるものを使えばいいし…、あと、昨日世話になった分の礼も何かしてぇけど」
「え、いいですよ、そんな」
「これからも世話になるんだから、ちゃんとしときてぇの。…つっても、メシ奢るくらいしか思いつかねぇけど。千冬は、なんか希望あるか?」
「うーん…、希望、ですか…?」
下着をカゴに入れ、そのままルームウェア売り場へ行く。
秋口の店内は、すでに冬仕様のウェアが様々並んでいるが、買うものは決まっている。
自分の部屋でもよく着ている黒いスウェットを無造作にカゴに入れた。
買い物終了だ。
「千冬?」
振り返ると、千冬は少し離れた場所で他のルームウェアを見ていた。
何かのコラボなのか、フードに動物の耳がついたモコモコした服が、数種類置かれている。
まさか千冬の自分用じゃねぇだろうし…。
「あ、彼女用か」
なるほどな~。
千冬、ああいうの、彼女に着てほしいタイプなのか。
千冬の性癖が垣間見えた気がして、思わず口の端が片方上がる。
ジッと服を見ている千冬に、後ろから声をかけた。
「それ、着てほしいのか?」
「ぅ、えええっ!?」
「ぷっ!驚きすぎ、ハハハ」
顔を赤くして目を見開く千冬。
そんな反応が面白くて吹き出す。
「き、き、着て、くれるんですか…?」
「え?そうなんじゃねぇの?お前が頼めば」
「………」
ごくりと唾を飲み込み、またモコモコのルームウェア達に向き合う千冬。
戦地に赴く男かってくらい真剣な眼差しで笑える。
千冬の彼女ってどんな人か知らねぇけど、今の千冬を見せてやりてぇな。
「じゃ、じゃあ…、これ…買っても良いですか……?」
「おう?好きにしろよ。俺も会計してくる」
千冬は羊の白いルームウェアを手に持ち、俺とレジに向かう。
たまにこっちをチラチラ見てくるから、「お前の性癖をバカにするつもりはねぇから安心しろ」という思いを込めて、ニッと笑い返す。
千冬には目を逸らされてしまったから、ちゃんと伝わってるかは分からねぇけど。
服屋の買い物が終わると、あとは日用品も少し買って、時刻は15時。
「今日もまた泊まっていきますよね?」
「あ?あー、明日から授業だもんな。でもいきなり二泊は流石に迷惑だろ?今日はこのままアパート帰るわ」
「えっ!」
「え?」
「…あ、えっと、…そう…ですか」
なんだか納得してなさそうな千冬の態度に、ピンとくる。
さっき、「メシ奢る」って言ったから、楽しみにしてたのか?
でも時間が微妙だし、千冬だって今日は一人でゆっくり休んだ方が良いと思うけどな。
昨日、あんなとこで寝てたみてぇだし。
「千冬、明日の1限の後って他に授業あるか?」
「いいえ?2限は何も取ってなくて、あとは午後の授業だけです」
「じゃあ、1限終わったらメシ食い行こうぜ」
「!は、はい!」
パッと顔を輝かせる千冬に苦笑する。
かわいい後輩だよな、ほんと。
*
千冬の家に寄り荷物を回収して、玄関前で千冬に「ありがとな」と再度お礼を伝える。
「駅まで送りますよ」
「いいって、ガキじゃねぇんだから」
「…でも…、」
「お前、ほんと世話焼きなんだな。バイトもすげぇ面倒見てくれるし、昨日今日もずっと世話されてた気ぃするし」
「え?…あ、僕…、しつこかった、ですか…?」
眉を下げてた千冬が、自信なさげに俺に尋ねる。
「そんなことねぇよ。ありがとな」
「なら、良かったですけど…」
「でも、あんま気ぃ遣わなくていいからな。バイトも授業も一緒だし、来週から4ヶ月は週一で泊まらせてもらうことになるし…。」
そう言いながら、縁って不思議なもんだな、と思う。
最初はただのバイト先の客だった千冬が、つい先日、新しいバイト先の先輩になって、そして昨日は、とうとう「匿名で活動してる人気の歌い手」なんて秘密まで知っちまった。
「まぁ、なんだ?その…、これからも、仲良くやれたら、嬉しい…からさ」
「…!」
急激に近づいた千冬との距離を思いながら、素直な気持ちを口にする。
ちょっと恥ずかしい。
「じゃ、また明日な。それから来週からも、よろしくな」
「はい!」
「あと、今日はちゃんとベッドで寝ろよ?」
「はい。そうします」
ふふ、と笑う千冬に手を振り、千冬のマンションを後にする。
なんだか濃い一晩だったとぼんやり思い返す。
千冬は悪い奴じゃねぇから、どれだけ仲良くなっても嫌な気はしねぇけど。
明日も、千冬と会う。
明日は千冬に、何を食わせてやろうかな、と思いながら、俺はこっそり頬を緩めた。
感想 0
あなたにおすすめの小説
【完結】君を上手に振る方法
社菘「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
俺にだけ可愛い幼馴染みの本性は、甘くて重い
月城雪華高校二年になって少ししたある日。
幼馴染みの聖(ひじり)が女子に呼び出された。
蓮弥(れんや)は瞬時に「ああ、告白されるのか」と理解する。
しかし基本的に「断ったよ」と報告してきて、傍にいてくれる。
これからもこうした関係が続くんだろうな、と漠然と思っていた時、蓮弥に告白してくる下級生の女子が現れた。
唐突だった事もあり、相手のことをよく知らないため「まずは友達から」と断ったものの、なぜかその日を境に聖から避けられるようになって──
癒やし系攻め×クーデレ系受けによる、青春の一幕のお話。
✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼
当作品は「ノベマ!」に投稿しているものですが、あちらは全年齢向けです(番外編でR‐15なお話を投稿するかも)
アルファポリスでは、本編後の番外編としてキス〜セッ久までの経過、途中で初めて(?)のデート編も書きます\アクマデヨテイデス/
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteriCM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
オメガ嫌いのアルファと、嘘つきなオメガ
万里路地裏の小さなイタリアンカフェ&バー『AMBRA(アンブラ)』をワンオペで営む宮瀬琥珀(38)は、世間からベータと思われているが、実は「いつか運命の番に会える」と信じ続ける健気なオメガ。
ある日、親友のオメガ・柚希の紹介(旦那の黒塚マネージャーの推薦)で、天才的な腕を持つ若い料理人・佐伯航一郎(24)を雇うことになる。
しかし、店に現れた航一郎こそ、琥珀が三十八年間待ち続けた「運命の番(アルファ)」だった。あまりの衝撃にときめく琥珀だったが、航一郎が放った最初の言葉は「俺、オメガが死ぬほど大嫌いなんです」という強烈な呪詛。
過去のトラウマからオメガを激しく憎む航一郎を前に、琥珀の恋心は出会ってわずか五分で粉砕される。だが、彼の料理人としての才能を守るため、そして彼が抱える深い傷を察した琥珀は、「俺はベータだ」と人生最大の嘘をついて彼を雇い入れることを決意する――。
👥 主要キャラクター紹介
🐱 宮瀬 琥珀(みやせ こはく) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(極端にフェロモンが薄く、周囲からは『ベータ』だと思われている)
職業: カフェ&バー『AMBRA』の店長兼オーナー
性格: 口は悪いが曲がったことが大嫌いな男気溢れる性格。
🐺 佐伯 航一郎(さえき こういちろう) / 24歳・アルファ
属性: アルファ(焦げたビターチョコレートのような、非常に強くて極上のフェロモンを持つ)
職業: 『AMBRA』の新人料理人
外見・性格: 身長185cmオーバー、黒いライダースが似合う鋭利で彫刻のようなイケメン。無愛想で冷徹、周囲を拒絶する「野良犬」のような目をしている。
🦊 柚希(ゆずき) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(大手飲食グループの統括マネージャー・黒塚と番っている)
職業: 専業主婦
外見・性格: ふんわりとした栗色髪のタレ目。いくつになっても愛嬌があり、マイペース。
ポジション: 琥珀の十代からの悪友で、数少ない「オメガの親友」。琥珀の前では一切気取らず、毎度キレのあるのろけ話を投下していく良き相棒。