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着てほしいのか?(※加筆有)
しおりを挟む遅めの朝食を摂った後、俺達は大型商業施設が立ち並ぶ駅北へ来た。
「泊まりに必要なものって言っても、部屋着くらいだよな」
そう言って、衣料品店に入る。恐らく日本最大手の、ファストファッションの店。部屋着を買うならここだよな。
昨日の急な泊まりでは、千冬が、家にあった新しい下着と歯ブラシを俺のために下ろしてくれて、部屋着は千冬のものを貸してくれた。
「下着と歯ブラシは買って返すとして、次からはあるものを使えばいいし…、あと、昨日世話になった分の礼も何かしてぇけど」
「え、いいですよ、そんな」
「これからも世話になるんだから、ちゃんとしときてぇの。…つっても、メシ奢るくらいしか思いつかねぇけど。千冬は、なんか希望あるか?」
「うーん…、希望、ですか…?」
下着をカゴに入れ、そのままルームウェア売り場へ行く。
秋口の店内は、すでに冬仕様のウェアが様々並んでいるが、買うものは決まっている。
自分の部屋でもよく着ている黒いスウェットを無造作にカゴに入れた。
買い物終了だ。
「千冬?」
振り返ると、千冬は少し離れた場所で他のルームウェアを見ていた。
何かのコラボなのか、フードに動物の耳がついたモコモコした服が、数種類置かれている。
まさか千冬の自分用じゃねぇだろうし…。
「あ、彼女用か」
なるほどな~。
千冬、ああいうの、彼女に着てほしいタイプなのか。
千冬の性癖が垣間見えた気がして、思わず口の端が片方上がる。
ジッと服を見ている千冬に、後ろから声をかけた。
「それ、着てほしいのか?」
「ぅ、えええっ!?」
「ぷっ!驚きすぎ、ハハハ」
顔を赤くして目を見開く千冬。
そんな反応が面白くて吹き出す。
「き、き、着て、くれるんですか…?」
「え?そうなんじゃねぇの?お前が頼めば」
「………」
ごくりと唾を飲み込み、またモコモコのルームウェア達に向き合う千冬。
戦地に赴く男かってくらい真剣な眼差しで笑える。
千冬の彼女ってどんな人か知らねぇけど、今の千冬を見せてやりてぇな。
「じゃ、じゃあ…、これ…買っても良いですか……?」
「おう?好きにしろよ。俺も会計してくる」
千冬は羊の白いルームウェアを手に持ち、俺とレジに向かう。
たまにこっちをチラチラ見てくるから、「お前の性癖をバカにするつもりはねぇから安心しろ」という思いを込めて、ニッと笑い返す。
千冬には目を逸らされてしまったから、ちゃんと伝わってるかは分からねぇけど。
服屋の買い物が終わると、あとは日用品も少し買って、時刻は15時。
「今日もまた泊まっていきますよね?」
「あ?あー、明日から授業だもんな。でもいきなり二泊は流石に迷惑だろ?今日はこのままアパート帰るわ」
「えっ!」
「え?」
「…あ、えっと、…そう…ですか」
なんだか納得してなさそうな千冬の態度に、ピンとくる。
さっき、「メシ奢る」って言ったから、楽しみにしてたのか?
でも時間が微妙だし、千冬だって今日は一人でゆっくり休んだ方が良いと思うけどな。
昨日、あんなとこで寝てたみてぇだし。
「千冬、明日の1限の後って他に授業あるか?」
「いいえ?2限は何も取ってなくて、あとは午後の授業だけです」
「じゃあ、1限終わったらメシ食い行こうぜ」
「!は、はい!」
パッと顔を輝かせる千冬に苦笑する。
かわいい後輩だよな、ほんと。
*
千冬の家に寄り荷物を回収して、玄関前で千冬に「ありがとな」と再度お礼を伝える。
「駅まで送りますよ」
「いいって、ガキじゃねぇんだから」
「…でも…、」
「お前、ほんと世話焼きなんだな。バイトもすげぇ面倒見てくれるし、昨日今日もずっと世話されてた気ぃするし」
「え?…あ、僕…、しつこかった、ですか…?」
眉を下げてた千冬が、自信なさげに俺に尋ねる。
「そんなことねぇよ。ありがとな」
「なら、良かったですけど…」
「でも、あんま気ぃ遣わなくていいからな。バイトも授業も一緒だし、来週から4ヶ月は週一で泊まらせてもらうことになるし…。」
そう言いながら、縁って不思議なもんだな、と思う。
最初はただのバイト先の客だった千冬が、つい先日、新しいバイト先の先輩になって、そして昨日は、とうとう「匿名で活動してる人気の歌い手」なんて秘密まで知っちまった。
「まぁ、なんだ?その…、これからも、仲良くやれたら、嬉しい…からさ」
「…!」
急激に近づいた千冬との距離を思いながら、素直な気持ちを口にする。
ちょっと恥ずかしい。
「じゃ、また明日な。それから来週からも、よろしくな」
「はい!」
「あと、今日はちゃんとベッドで寝ろよ?」
「はい。そうします」
ふふ、と笑う千冬に手を振り、千冬のマンションを後にする。
なんだか濃い一晩だったとぼんやり思い返す。
千冬は悪い奴じゃねぇから、どれだけ仲良くなっても嫌な気はしねぇけど。
明日も、千冬と会う。
明日は千冬に、何を食わせてやろうかな、と思いながら、俺はこっそり頬を緩めた。
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