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反則です
しおりを挟む昼時の学食はなかなかの混み具合だった。
後期授業の初日だから、ちゃんと来てる奴が多いんだろうな。
「混んでますね。座れるかな…」
「バラバラでなら座れそうだな」
「えっ」
食事の注文列に並びながら食堂内を見渡す。
カウンター席もテーブル席も満遍なく埋まっていて、二人で座るのは難しそうだ。
テーブルが空くのを待ってもいいが、飯を食うだけなら、ポツポツ空いているカウンター席を選んだ方が早ぇだろう。
「僕は、伊織先輩と…」
「あ、列進んだぞ。千冬は何食うんだ?」
「…。……先輩と、同じのにします」
「日替わり定食な」
食堂のおばちゃんに注文を伝え、料理を受け取る。
もともと奢る約束だったから、支払いはもちろん、俺持ち。
トレーを持ったままカウンター席の方へ移動していると、横のテーブルから腹をポンと叩かれた。
「よお!伊織。遅かったやん?」
「うおっ?あ、カゲヤン!?マンティスもいんじゃねぇか」
「…ちっす」
俺を呼び止めたのは、カゲヤンこと、影山岳斗(かげやま・がくと)。エセ関西弁の細マッチョ。
隣には、マンティスこと、坂巻倫(さかまき・りん)もいる。普段口数は少ないが、趣味の話は永遠と喋る奴。
二人とも俺と同じ工学部で、俺の学部の友達といえば、この二人と、あともう一人。
「マロは?」
「あ、伊織だあ」
尋ねた直後、水の入ったプラコップを手に現れた、白川真紘(しらかわ・まひろ)。あだ名はマロ。
常にほわほわしていて寝てるのか笑ってるのかよく分からない糸目。
「え、三人はなんでここに居んだ?」
「え~?カゲヤンのLINE見てないのぉ?」
「見てねぇ」
「通りで、既読2しか付かん思てんな。じゃあなに?伊織はなんでいるん?」
「伊織…、再履か?」
「そ。再履。お前らが俺を裏切った『情報技術概論』」
「あ~それか~!まあ座り!」
「いつも寝坊する伊織が悪いんだよぉ?」
相席を促され、千冬を振り返る。
「千冬、こいつらと一緒の席でもいいか?」
「えっと…、伊織先輩の友達…ですよね?僕も同席していいんですか?」
逆に千冬に尋ねられ、三人の顔を見ると、キョトンとした表情。
「…リアル顔面国宝?」
「ピンク髪のSSR…」
「ビジュ良おっ!?」
なるほど、そうなるか。
「こいつは、雨宮千冬。法学部の1年。俺の──」
「うわっ、早よ座りぃや千冬クン!よう見して!?」
「千冬っち、すっごい美形だねぇ?モデルとかアイドルとかやってる?」
「…作画が違う」
「俺の話聞けよ」
俺を無視して千冬に食い付く三人。
近くのテーブルから余っている椅子を拝借して、千冬を座らせる。
基本4人掛けのテーブルだから、千冬はテーブルの短い辺の席、お誕生日席ってやつだ。
角を挟んだすぐ隣に、俺も腰掛ける。
「ていうか、どういう知り合い!?共通点なに?なんで一緒にいるん?」
「千冬はバイトが一緒なんだよ。それに、お前らと違って、俺と授業受けてくれたんだよ」
「僕も『情報技術概論』取ってるんです」
「へぇ~。伊織、今日は起きれたんだぁ?」
「……ま、まぁな…」
後輩に起こしてもらったなんて言ったら、絶対ぇネタにされる。
現に三人は、俺が起きれたことに、「雪が降る」だの「槍が降る」だのコソコソ話していやがる。
そんな三人を横目で見ながら、大切なことを思い出した。
千冬に、今朝の礼を伝え忘れていた。
「千冬、」
他の三人に気付かれないように、テーブルの下で、そろっと、千冬の腿をつついた。
千冬が大袈裟にビクンと跳ね、びっくりした顔で俺を見た。若干顔が赤い気もする。
……くすぐったかったか…?
「あの、千冬…」
手は千冬の腿に添えたまま、体を傾けて顔を近づける。
千冬が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
千冬の顔が綺麗すぎるせいか、それとも、改めて、自分のだらしなさを情けなく感じたせいか、俺も顔がじんわり熱くなる。
「朝、起こしてくれて、ありがとな。…その……千冬がいてくれて、良かった」
気恥ずかしさから顎を引いてしまい、上目遣い気味に千冬を見る。
千冬の腿に軽く触れたままの手も、じわじわと熱を持った。
「~っ、……」
千冬は両手で顔を隠すと、そのまま項垂れる。
え?
大丈夫か?
「っ…、…こんなとこで…、反則です……」
「…?」
手の下で、何かモゴモゴ言っている。
よく分かんねぇけど、体調が悪いわけじゃなさそうだ。
伝えるべきことは伝えた、と体を戻し、メシの続きをしようと箸を持つ。
そこでやっと、三人がじいっと俺と千冬を見ていたことに気付いた。
「あー…、これは…?」
「なるほど…」
「千冬氏、心中お察し致す」
は?
何がだよ?
「千冬っち、よ~く分かったよぉ。良かったらマロお兄さんとインスタ交換しよぉ?力になるよぉ」
「……俺も千冬氏を応援しよう」
「え、…ええ!?」
マロとマンティスが、俺を押し退けて千冬に近付く。
カゲヤンは俺の背中をバシバシ叩いた。
「伊織、お前、ほんっまに、おもろいなぁ~!」
「はあ?おい、食事中なんだから叩くなアホ」
続いて、カゲヤンも千冬と連絡先交換をし、俺には全く意味がわからないまま、四人は何か通じ合ったらしい。
なんで俺が仲間はずれにされんだよ?
泣くぞ?
「伊織も3限、向こうだろ?」
「おう」
「じゃあそろそろ時間だねぇ」
「千冬クン、あとで写真おくったるわ!楽しみにしとき!」
「は、はいっ…!ありがとうございます!」
「写真?」
「伊織は早く食器片付けて?もう行くよぅ?」
「ああ、すまねぇ」
「じゃあね、千冬っち」
「またな」
「ほな!」
三人に続いて俺も食器を持ち立ち上がる。
すると、服の裾を引かれた。
「千冬?」
「伊織先輩、」
振り返ると、千冬が俺の裾を握ったまま立っていて、キラキラと輝く焦茶の瞳で、嬉しそうに俺を見つめた。
「ごはん、ご馳走様でした」
「ああ、本当は外で食べさせてやるつもりだったんだけどな。すまねぇ」
「いいえ、伊織先輩の素敵なお友達とも知り合えて、本当に嬉しいです」
「……素敵、か…?」
思わず小さく笑う。
「素敵」なんて言葉が似合う奴らでもない気もするけど、仲の良い友達を褒められて、嬉しくなる。
「はい。あの…、次は、伊織先輩が食べたいもの、教えてください」
「え?」
千冬が整った顔を近づけ、耳打ちする。
「今度は、二人きりで食べましょう?……俺の部屋で、ね」
「っ、」
耳に熱い吐息がかかり、思わず耳を片手で塞ぎ、千冬を見る。
千冬はイタズラが成功した子供のように、さぞ楽しそうに微笑んで、俺に小さく手を振った。
「ではまた。次はバイトで会いましょうね」
「……お、おう…。また、な…」
俺も小さく手を振り返し、千冬に背を向ける。
耳にはまだ千冬の声と、熱さが残っているようで、なんだか妙にくすぐったかった。
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