【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐

文字の大きさ
10 / 33

尽くしたいタイプです

しおりを挟む

千冬が案内してくれた温泉は、海の見える露天風呂。


「うわぁ~…癒されんなぁ…」
「気持ちいいですよね。僕も、家族とか友達とかと、よく来てました」


ピークタイムを避けたとは言え、やっぱり連休中の観光地となれば、それなりに人は多い。
海は見えにくいけど、人の少ない場所に座り、壁に背を預け、石でできた縁に頭を寝かせる。

体を温めるやわらかいお湯。
眩しい青空に目を瞑ると、温泉の湯気を含んだ風が、濡れた肌を撫でる。
とぽとぽと、お湯が絶え間なく流れる音と、鳥の鳴く声、風の音。


「あ゛~~~………」
「……伊織先輩、オッサンぽいです」
「もうオッサンでいいわ…。この時のために生きてきたまであんな…」
「ふふ、そうですか」


ちゃぷん、と隣で千冬が動いた音がする。
遅れて、お湯が波を作り、体が受け止める。


「一人暮らししてっと、湯に浸かるってあんましなくねぇか?」
「僕はしますよ」
「え?マジかよ。浴槽洗うの怠くねぇ?」


頭を起こして隣を見ると、千冬は俺とは逆に、壁に腹を向けて、縁に肘をついて頭を乗せていた。
湿ったピンクの髪が、いつもより濃い色に感じる。


「お風呂に浸かるの、好きなんです。僕は好きなことだったら、面倒とか思わないタイプなので」
「そうなのか?」
「はい。音楽も好きだし、お風呂も好きだし…。あと、好きにな人にも、尽くしたいタイプです」
「す、…、へ、へぇ?」


温泉で上気した頬と、しっとりした綺麗な肩。
幸せそうな微笑みを、俺に向ける。
その笑顔は、はちみつが溢れるかのように甘い。

また鼓動が高鳴るのを感じて、俺は空に視線を戻し目を閉じた。


「僕のご飯が好きだと言われたら、毎日作ってあげたいし、お風呂に入るのが好きだって言うなら、僕が毎日いれてあげます」


千冬の優しい声が心地いい。
恋人に愛を囁くような、甘やかすような声。

頭に乗せていた冷たい濡れタオルをずり下ろし、顔を隠す。
なぜか、顔も体も、全身が熱ぃ。
そろそろ上がったほうがいいのかも知れねぇな。


「僕、重い…ですか…?」


切ない声に、胸がぎゅっとなる。

…これって、千冬の、彼女との話…だよな。


「恋愛相談したいなら、人選ミスってんぞ」


残念ながら、俺は恋愛のことなんて全く分かんねぇ。
彼女もいたことねぇし。


「でもまあ、千冬のことが好きな奴なら、千冬になんかしてもらえたら、嬉しいんじゃねぇの?…ていうか、その好きな人とやらに、直接聞けよ」


千冬の、恋人。
千冬の口から聞いたことはねぇけど、十中八九いるだろう。
そう思わせることが今までも何度かあったし、今だってその人を思って、俺に相談してる。

…ちょっとだけ、なんかつまらないような、気はすっけど…。


「…俺、そろそろ上がるわ」
「なら、僕も」


千冬は、一緒にいて、楽しいし。
なにより、心地いい。

だから…、今はなんか悩んでるみてぇだけど、幸せになってくれたら、俺は嬉しい。

…と、思う。


「風呂上がりの一杯、飲もうぜ?」
「はい!そうしましょう」


そこまで考えて、原因不明のこのモヤモヤには、とりあえず蓋をする。

今は旅行中だ。
目の前のことを楽しもう。


「あっちに、サイダー売ってますから、サイダーで…」
「はぁ?温泉の後はコーヒー牛乳だろ」
「…伊織先輩。ここのサイダーは、飲まないと後悔しますよ」
「え?そんな美味ぇの?それとも、わさび味とかのご当地系か?」
「ふふん。なんと140年の歴史があります」
「は…?140年?明治から!?」
「しかもかつては宮内省御用達です」
「宮内省…!?……そんなすげぇの…?」
「…ぷっ、あはは!はい、『四ツ矢サイダー』です!」
「うっわ、騙された!」


千冬に案内された先には、どこのスーパーでも買えるであろう、四ツ矢サイダーがビンで売られていた。


「僕は昔から、ここに来るとお風呂上がりにはサイダーを飲むので、伊織先輩とも一緒に飲みたくて」


ちょっと幼い顔で笑う千冬。
その頭をポンポンと撫で、サイダーを2本、購入する。


「いいんですか?」
「千冬のプレゼン力に負けたからな」


ふふ、と笑う千冬に一本渡し、ビンを、カチンと合わせる。


「「乾杯」」


グッと喉に流れる炭酸。

ほてった体に、冷たく弾ける感覚が気持ち良い。


「確かに美味ぇな」
「ふふ、ありがとうございます」


こうやって、千冬と一緒に温泉入って、サイダー飲んで、笑って。

それが、すげぇ嬉しいし、楽しい。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】俺の顔が良いのが悪い

香澄京耶
BL
顔が良すぎて祖国を追い出されたルシエル。 人目を避けて学院で研究に没頭する日々だったが、なぜか“王子様”と呼ばれる後輩ラウェルに懐かれて――。 「僕は、あなたそのものに惚れたんです。」 重くて甘い溺愛攻め × こじらせ美形受 ※イラストはAI生成です。

地味な俺は、メイクしてくるあいつから逃げたい!!

むいあ
BL
___「メイクするなー!帰らせろー!!」___ 俺、七瀬唯斗はお父さんとお母さん、先生の推薦によって風上高校に入ることになった高校一年生だ。 風上高校には普通科もあるが、珍しいことに、芸能科とマネージメント科、そしてスタイリスト科もあった。 俺は絶対目立ちたくないため、もちろん普通科だ。 そして入学式、俺の隣は早川茜というスタイ履修科の生徒だった。 まあ、あまり関わらないだろうと思っていた。 しかし、この学校は科が交わる「交流会」があって、早川茜のモデルに選ばれてしまって!? メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)

拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。 ✻✻✻ 2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件

ゆきりんご
BL
【重い感情を隠している年下敬語攻め×自己肯定感低い年上受け】 イリアスは職場で「優秀で顔もそこそこ良くて頼りになる上司」を演じているが、本当は自信がない。付き合っていた相手に振られることが続いてさらに自信をなくした。自棄になろうとしていたところを、気になっていた部下に止められて、成り行きで体の関係を持つことになり……?

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

処理中です...