15 / 33
大好きです
しおりを挟む「…千冬、」
「あ、先輩。お粥、食べますか?」
「…おう」
「温めるので、少し待っててくださいね」
目が覚めてリビングに行くと、時刻は既にお昼。
千冬は部屋着のまま、ノートパソコンの前で何か作業をしているところだった。
「すげぇ寝た…」
「体調が悪い時は、寝るに限りますよ。熱は計りましたか?」
「熱は下がった。おかげさまで、体も軽いし、頭痛もねぇし。喉がちょっと痛ぇなってくらい」
「それは良かったです」
ダイニングの椅子に座り、キッチンに立つ千冬の背中を見る。
…さっき怒らせちまったこと、謝らねぇと…。
「そうだ。僕から、水森さんに連絡しておきました」
「…え?」
「感染症では無さそうですけど、念の為、水曜のバイトは休むようにって言ってました」
「あ、ああ…。そっか、分かった」
「あと、カゲヤン先輩たちにも連絡してあります」
「え?何を連絡すんだよ?」
「伊織先輩が明日休みますって」
「は?いや、熱下がったら行くつもりだったけど…」
「ダメですよ!ぶり返したらどうするんですか。明日は、うちにいてください」
「うち?」
「はい。僕がしっかり面倒みます」
「………」
俺はやっぱりガキだと思われてんのか…?
それか捨て犬か何かか……。
「はい、伊織先輩」
「あ、さんきゅ。わぁ、美味そう…!」
千冬が、俺の前と、自分の前に皿を置く。
美味そうな香りに、目の前のたまご粥に意識が奪われる。
ほかほか湯気をたてる器の中は、やさしい黄色と白。
刻んだネギもトッピングされていて、食欲をそそる。
「いただきます!」
「ふふ、どうぞ」
「……あ~、美味ぇ……沁みる」
「喜んでもらえて良かったです」
見た目通りの優しい味が、弱った俺の胃を労わってくれる。
幸せ…。
「あ、」
数口食べた後、俺はスプーンを置いた。
千冬に、ちゃんと謝るために。
「千冬…。さっきは、怒らせてごめん」
「え?」
「千冬にはすげぇ迷惑かけてるのに、それなのに、俺、変なわがまままで言って、もっと迷惑かけた」
千冬の手を掴んだ自分を思い出すだけで、恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
「言い訳、だけど。俺、熱出すなんて久しぶりで、ちょっと、参ってて…。無意識にやっちまった、っつうか…」
「無意識…」
「とにかく、ごめん!」
その場で深々と頭を下げると、千冬が小さく笑うのが聞こえ、頭を上げる。
「怒ってないですよ。僕の方こそ、ごめんなさい」
「いや、千冬は悪くねぇだろ。ほんと、ごめんな」
「伊織先輩も、そんなに謝らないでください。ほら、お粥が冷めないうちに、食べてください」
「おう…!ありがとな」
千冬に謝れて、胸の中までスッキリする。
良かった。
たまご粥も、さらに美味しく感じんな。
「俺、千冬とはこれからもいい友達でいてぇからさ。またなんか嫌なことあったら、言ってくれな?」
「友……、」
今度は千冬のスプーンがピタッと止まった。
「伊織先輩は…、僕と…友達でいたいんですね…」
「おう。千冬が良ければ、だけどな」
そこを確認されると恥ずかしいな。
照れ臭ぇ。
「一昨日、千冬の話聞いてて思ったんだよ。友達って、最強なんじゃねぇかって」
「最強、ですか」
「おう。ずっと仲良くできるだろ?」
「……」
「彼女ができたときは一緒に喜んでやるし、もし千冬がフラれたときは、傷心旅行にでも付き合ってやるよ」
ふふん、と得意げに笑って、たまご粥を口に運ぶ。
本当に美味ぇ。
「それは…素敵ですね」
「だろ?彼氏彼女はくっついたり別れたりってあるけどよ、男同士の友情は、『別れ』ってねぇもんな」
「そうかも、ですね…。」
千冬がとうとうスプーンを置く。
「………でも、」
悩ましげに長いまつ毛を下げ、視線を落とす。
微かに震える声が、言葉を続ける。
「友達には、…その先が、ありません」
「…え?」
俺も手を止める。
千冬の、雰囲気が違う。
千冬は意を決したように顔を上げると、真剣な目で俺を見つめた。
ドキリと心臓が跳ねた。
「俺は、その先が欲しいです、伊織先輩。」
「その、先…?」
「手を握ったり、抱きしめたり。……キス、したり……」
「キ…、」
「伊織先輩の、全部が欲しいんです」
………。
え?
「ちょ、ちょっと待て、…俺が…何だって?」
聞き間違いかと思った。
話の流れが、上手く掴めない。
抱きしめたり、キス……?
全部が、ほし…い…?
喉の奥がひくつく。
「俺は、伊織先輩のことが、好きです」
「……す…っ」
「友達じゃ、…足りません」
呼吸が止まる。
手の力が抜けて、床に落ちたスプーンが、カランと音を立てた。
「好きで、好きで…、もう、抑えられる自信がないです」
「……、」
「声が聞きたい、顔が見たい、触れたい、抱きしめたい、キスしたい」
胸がぎゅっと締め付けられる。
長いまつ毛に縁取られた瞳が揺れ、俺の体温を上げた。
「もう、…限界、なんです……」
熱烈な告白に、身体中が燃え上がるように熱くなった。
心臓は早鐘を打ち、頭は真っ白。
「え、そ、……」
呼吸が浅くなって、口から出るのは意味のない言葉だけ。
気持ちが追いつかないし、言葉の意味はわかるけど、理解しきれない。
こういう時、なんて言ったらいいのかなんて、全然分かんねぇ……!
「…友達以上に、なりたいです」
「そ…、か………」
耳まで赤くして、上目遣いに俺を見る千冬。
どう、しよう……。
分かんねぇ。
分かんねぇけど、千冬は真剣だ。
だから俺も、貼りついた喉で、言葉を選びながら、慎重に答える。
「千冬の気持ちは、…分かった。でも、正直、よく分かんねぇ。だって俺、恋愛なんかしたことねぇし……」
断ったら、千冬との縁が切れるんだろうか。
受け入れたら、友達じゃいれなくなるんだろうか。
「千冬のことは、好き、だ。でも、その…、だ、抱きしめたいとか…、キ…キスとか……は、考えたこと、ねぇし…」
言いながら、顔がみるみる赤くなるのが分かる。
「それに、そういう関係は…、もしかしたら、ずっと…続かないかもしれねぇし…、」
目の奥がツンとする。
呼吸が、早くなる。
もう頭はぐちゃぐちゃだ。
「そしたら、千冬と、…一緒にいることなんて、で、できなくなるし……」
頬に涙が伝う。
悲しいのか、苦しいのか、なんの涙なのか、分からねぇ。
分かんねぇことばかりだ。
「伊織先輩…」
呼ばれて顔を上げると、優しい焦茶の瞳と目が合った。
千冬は手を伸ばして、俺の涙を拭う。
「困らせてしまって、ごめんなさい」
「~っ…」
「あの……、…先輩は、友達以上のことをすることと、いずれ別れるかもしれない不安と、どっちが嫌で泣いてるんですか?」
柔らかい声。
小さい子供に諭すように、ゆっくり俺に確認する千冬。
俺の方がよっぽど余裕がなくて、恥ずかしい。
でも、千冬の声で、頬だけじゃなく、心まで撫でられるような感覚がして、少し気持ちが落ち着いた。
「わ、かんねぇ…、どっちも、…怖ぇ、かも…」
情けないほど、弱々しい声が出る。
言いながら、また視線が落ちていき、涙が目の淵から溢れそうになる。
「それなら、どっちも怖くないって思えたら、…僕と、付き合ってくれますか?」
「…え…?」
鼻を啜りながら、再び千冬を見上げた。
千冬は、赤い顔のまま、緊張した面持ちで、俺の視線を受け止める。
「僕が、証明してみせます」
「証、明…?」
「はい。怖いことは、何もないって、伊織先輩に証明します。…どうですか?」
最後にふわりと笑う千冬。
千冬の意図は全く読めない。
それなのに、千冬の笑顔を見て、処理落ちしそうな頭を取り残して、口が勝手に答えていた。
「………わか、った……」
「ありがとうございます、伊織先輩」
千冬はゆっくり瞬きをして、口元に綺麗な弧を描く。
栗色の瞳は、小さな星を宿したようにキラキラ輝いた。
「…大好きです」
やっと解き放たれた言葉。
千冬の真っ直ぐな言葉に、ゴクッ、と唾を飲み込んだ。
俺は、涙で熱くなった頭と目で、ただ呆然と千冬を見つめた。
76
あなたにおすすめの小説
【完結】俺の顔が良いのが悪い
香澄京耶
BL
顔が良すぎて祖国を追い出されたルシエル。
人目を避けて学院で研究に没頭する日々だったが、なぜか“王子様”と呼ばれる後輩ラウェルに懐かれて――。
「僕は、あなたそのものに惚れたんです。」
重くて甘い溺愛攻め × こじらせ美形受
※イラストはAI生成です。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
地味な俺は、メイクしてくるあいつから逃げたい!!
むいあ
BL
___「メイクするなー!帰らせろー!!」___
俺、七瀬唯斗はお父さんとお母さん、先生の推薦によって風上高校に入ることになった高校一年生だ。
風上高校には普通科もあるが、珍しいことに、芸能科とマネージメント科、そしてスタイリスト科もあった。
俺は絶対目立ちたくないため、もちろん普通科だ。
そして入学式、俺の隣は早川茜というスタイ履修科の生徒だった。
まあ、あまり関わらないだろうと思っていた。
しかし、この学校は科が交わる「交流会」があって、早川茜のモデルに選ばれてしまって!?
メイクのことになると少し強引な執着攻め(美形)×トラウマ持ちの逃げたい受け(地味な格好してる美形)
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
弟と妹より劣る僕が自信家を演じてたら、部下にバレた件
ゆきりんご
BL
【重い感情を隠している年下敬語攻め×自己肯定感低い年上受け】
イリアスは職場で「優秀で顔もそこそこ良くて頼りになる上司」を演じているが、本当は自信がない。付き合っていた相手に振られることが続いてさらに自信をなくした。自棄になろうとしていたところを、気になっていた部下に止められて、成り行きで体の関係を持つことになり……?
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる