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かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
連絡先教えて
水曜日の夕方。イートインを利用していた最後の客が店を出ると、ふぅ、とため息が漏れた。
使用済みのマグカップが置かれたテーブルで、カップの中を覗き見る。
中身は空っぽ。綺麗に飲み干されている。
「…良かった…」
「ふふ、良かったですね」
「ぅわっ!?、…聞いてたのかよ」
俺の肩越しに顔を覗かせ、自分ごとのように嬉しそうな笑みを浮かべる千冬。
今日も可愛らしく整った顔で、制服の白シャツと黒のエプロンを品よく着こなしている。
「美味しそうに飲んでくれてましたよ」
「……なら、よかった、けどよ…」
ぶっきらぼうに呟くと、千冬は俺を見つめたまま小さく笑った。
今の客に提供したコーヒーは、俺が初めて客用に淹れたコーヒーだった。
「いつもと味が違う」なんてクレームが来ないか、ちょっとドキドキしていたが、それは杞憂に終わった。
…良かった。
「そうだ、伊織先輩。今週の金曜、シフト入ってないですよね?夜、うちに来ませんか?」
「おー、行く」
「やった!ハロウィンですし、一緒にお菓子パーティしましょうよ」
「いいけど。菓子パーティって、なんか、かわいいな」
「…、タコパでもいいです。餃子でも鍋でも…」
「え?ハロウィンなのにか…?」
あれ?
急にどうしたんだ?
隣の美形のバツの悪そうな横顔に、首を傾げる。
別に菓子でもたこ焼きでも、誘ってくれたなら行くけど。
「あ、それか俺ん家来るか?この前電話で約束したろ?」
「っ!い、行きたいです!」
「じゃあそうしようぜ。そんで、タコパな。甘いもんも塩っぱいもんも入れようぜ」
「はい!楽しみですっ」
えへへ、と笑う千冬。嬉しい時に子供っぽく笑うとこ、かわいい奴だな、と思う。
千冬の笑顔にほっこりしていると、また店のドアが開き、来客を告げるベルが鳴った。
「俺行ってくるわ」
「ありがとうございます。僕は机、片付けておきますね」
千冬に机の片付けを任せ、カウンターまで戻る。
並んでいたのは、二人組の女性客だ。
スタイルのいい金髪ロン毛と、小柄で可愛らしい感じの子。
「いらっしゃいま……ん?」
「あ…うそ…、睦月伊織?」
「佐藤柑奈(かんな)…?」
「うわー!マジで?中学ぶりじゃん!」
ハイテンションで話しかけてきた金髪ロン毛の女は、同じ中学の女子だった。
当時、俺がたまに遊んでいた友人の元カノで、こう見えて、重度のガンダムオタクだ。
そして、自分と趣味が合う男としか付き合わないと豪語していた。
「え、何?何でこっちいんの?」
「大学こっちだから」
「うそ!待って、もしかして同じ大学!?」
話を聞くに、どうやら同じ大学だったらしい。柑奈は外語学部で、普段は三浦(みうら)キャンパスに通っているらしい。
「知らなかったな。あ、とりあえず注文聞くわ。中で飲むか?」
「そうする!カフェラテ2つね。ユズもそれでいいよね?」
「うん。ありがと、柑ちゃん」
ユズと呼ばれた子は、控えめに俺を見上げた。肩までの柔らかい茶色の髪に、ピンクのインナーカラーがよく合っている。
背が低いから、上目遣いになる仕草が小動物のようだ。
その時、すぐ近くで千冬の声がした。
「…伊織先輩の、お知り合いですか?」
「千冬っ、」
いつの間にか俺の横に立っていた千冬。
全然、気付かなかったわ…。
千冬は、アイドル顔負けの綺麗な笑顔で二人に微笑みかけた。
「初めまして。雨宮千冬です。伊織先輩と何のお話をしてたんですか?」
「わ、…ガチ顔整いじゃん…」
「あ…」
カウンターの端に手をかけ、その手を俺の身体の前までさりげなく滑らせるようにして、俺とカウンターの間にするりと割り込む。
そうか。
俺とレジを代わって、俺にコーヒーを淹れる役割を回してくれようとしてるんだな。
俺は千冬先輩の意向を汲んで引き下がり、エスプレッソマシンを使って、慎重にカフェラテを淹れていく。
…うん、上出来だろ。
「テーブルには、僕が運びます」
「え?」
「とっても上手に淹れられてます。さすが、僕の伊織先輩です」
「お、おう…?」
優しく目を細め、よく分からない褒めの言葉と引き換えに、俺からコーヒーを取り上げる。
コーヒーをトレイに乗せてカウンターを出ていく千冬。
…千冬って、仕事好きだよな…。
千冬の背を追うように、カウンターからテーブルの方を覗くと、柑奈が楽しそうに千冬と話していた。
なんとなく聞こえる声から、柑奈とユズさんは、同じ軽音サークルのバンド仲間らしいと知る。
ふと、ユズさんの方と、目が合う。
「……?」
何か言いたげな視線に首を傾げていると、綺麗な笑顔を貼り付けた千冬が、俺とユズさんの視線の間に入りこむようにして、テーブルから戻ってくる。
「…どうかしたんですか?」
「…いや、別に…?」
どうかしたのか、は俺のセリフだけどな。
なんか、千冬の笑顔、怖い感じすんぞ…?
それからまた夕方のラッシュタイムに差し掛かる。
店長の水森さんも手伝いに出てきてくれて、3人で接客に追われる。
布巾を片手にテーブルの片付けに出ると、柑奈が俺に手招きした。
「何だよ?今忙しいんだけど」
「ね、連絡先教えて」
「あ?」
「って、ユズが言ってる」
「ちょっ、柑ちゃん…っ!」
顔を赤くしたユズさんが柑奈に弱々しく抗議する。
それから、俺を見て、もじもじしたまま口を開いた。
「私…、高橋柚月(ゆずき)っていいます…。あの…、えっと…私…」
じわじわと赤くなっていくユズさん、もとい柚月の頬に、つられて俺もちょっと照れる。
え?なんだこれ…。
女子のこんな態度は、ドラマかアニメでしか見たことがねぇ。
これは、…大体アレだろ?アレ。
俺としては、人生2度目の経験になる奴だ。
柚月の耳元で、ピンクの髪の束がサラリと肩を滑る。
それを見て、あの日の千冬を思い出す。
俺を、…好きだと、言った、あの日の千冬。
これは多分、
その…、
こ、告白………
「か、影山くんのことが、気になってて…!協力っ、してくれませんか…っ!」
「………」
「…ブッ…!」
腹を抱え、声を殺して笑う柑奈を軽く睨む。
俺には恋人がいるので。
そう言う準備をしていた自分が、ちょっと恥ずかしかった。
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