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かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
羞恥心は持っててくれ
柚月と、ついでに柑奈とも連絡先を交換すると、二人は俺と千冬に手を振って店を出て行った。
客の波も落ち着き、シフトの時間が終わって控え室で着替えていると、千冬が、やや焦ったような様子で俺を呼んだ。
「伊織先輩っ、」
「なんだ?」
「………この後、…僕の家に、来ませんか」
どこか必死さを感じさせる栗色の瞳が、俺を伺うように見つめる。
千冬が理由も言わず、ただ家に誘うというのは珍しい。
それに、なんだか急な誘いだ。
「あー…」
誘ってくれたからには遊びに行きてぇけど、残念ながら、明日提出のレポートが終わってない。
単位を落として進級が危ぶまれることは避けたい俺は、素直に断ることにする。
「行きてぇけど、レポートやんねぇとなんだよ。…悪ぃな」
「…、……わかり…ました」
素直に謝ってはみたけど、千冬は不服そうで、ジトっとした目で視線を逸らした。
断っただけで、何をそんな拗ねてんだよ?
子供か?
「あ、金曜だけど、千冬は何時に授業終わんだ?」
「4限までです…」
「じゃあ5時でどうだ?二葉公園で待ち合わせで」
「……はい」
「俺は3限で終わるから、先に買い物して適当に材料揃えとくな。千冬は、手ぶらで来いよ」
「…ありがとうございます…」
「……千冬が俺ん家来てくれんの、なんか、…楽しみだな。へへ」
金曜のことを話してるうちに、ちょっと口元が緩んでしまう。
へにゃっとだらしなく笑ったまま千冬を見ると、きゅるっとした瞳で俺を見て、少しだけ頬を赤くしてから、照れくさそうに「はい」と答えた。
なんだか機嫌も、直ってるように見える。
よかった。
*
そして、金曜の授業終わり。
「なぁ~、あの教授、女子と男子で扱い違いすぎん?エグいわ」
「『女子と男子』ていうか、『カゲヤンとカゲヤン以外』って感じかなぁ~」
「むしろ気に入られてるだろ」
「はぁー、そんなん要らんわー」
いつものメンツで教室を出た後は、適当な雑談をしながら教室を出てキャンパス内の坂を下っていく。
普段ならここでバイトに向かうところだが、今日の俺には別の仕事があった。
「あれ?伊織、今日はバイトないのぉ?」
「…今日は無ぇ」
「え、マジ?ほな、俺ん家来る?この前のホラゲ実況、続き観ようや!」
「悪ぃけど、この後、千冬と約束あんだよ」
「はー、出たわ。隙あらば惚気んのやめろや」
「俺とアニ研に行く気になったか?」
「行かねぇよ、何でだよ」
マロとマンティスはこの後、部活に行くが、カゲヤンは、時間を持て余していることは事前に調査済みだ。
カゲヤンの肩を控えめにつつく。
「そ、それでも、ちょっと、時間あるから、…一緒に学食で、軽く食わねぇ…?」
「おー、ええよ」
「……伊織ぃ、まさか浮気~?」
「千冬氏に殺されるぞ。カゲヤンが」
「はぁ?なんだよ突然?」
揶揄うように笑うマロとマンティスと別れ、カゲヤンと学食に向かう。
ちなみに、学食にはすでに柑奈と柚月がいる。
柚月はカゲヤンに片思い中だが、実は知り合いですら無いらしい。
だから今日は、偶然を装って2人を出会わせるのが目的だ。
「え、えーっと、…俺が、席探してくるから、適当に買ってきてくんね?」
「はぁ?探すも何もガラガラやん。どこでもええやろ。一緒に買い行こうや」
「い、いや…俺は…」
「あ、伊織ーー!」
俺のグダグダな演技力の底が見え始めた時、柑奈の元気な声が響いた。
学食にいた他の生徒達も、チラリと柑奈の方を見る。
「誰?伊織の知り合い?」
「そ、そう!うわー、偶然だ、ナー!」
カゲヤンを引き連れ、柑奈と柚月のいるテーブルに近付く。
溌剌とした笑顔を向ける柑奈とは対照的に、柚月はカゲヤンと目が合うと、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
柑奈が適当に自己紹介なんかをしながら、場を繋ぐも、一向に柚月の顔は上がらない。
おい、頑張れよ…!
「…なぁ、伊織は二人と食えばええんちゃう?俺は…用事思い出したわ、帰るな」
「ちょ、ちょっと待って!ちょーっとだけ、時間くれ!ほら、蕎麦でも買って来いよ!」
「はぁ?」
「いいから!頼む!」
俺の不審なほど必死な食い下がりに、渋々蕎麦を買いに行くカゲヤン。
カゲヤンがいなくなると、やっと柚月は顔を上げた。
目には涙が溜まり、気の毒なほど赤い顔だ。
「ご…ごめんなさ…い、き、緊張、しちゃっ、て…」
「…お前なぁ…」
「ユズ…、ずっと練習してたじゃん?頑張って!」
柑奈が隣の席で柚月の背中を撫でる。
俺も柚月の横にしゃがみ込み、持っていたハンカチを渡してやると、柚月は弱々しく礼を言った。
俺たちが柚月を宥めていると、学食にいた生徒達が、にわかにざわめく。
「えっ、なんか…アイドル…?知ってる?」
「いや、知らない。でも超イケメン…!」
「うちの大学の人?ピンクの髪なんていた?」
「うわ、こっち来る!顔ちっさ!…なんか……不機嫌そうじゃない…?」
何かコソコソと囁く声が聞こえるが、俺と柑奈は、カゲヤンが戻ってくるまでに柚月を励ますのに必死だ。
俺たちに鼓舞され、やっと柚月が涙を拭って、「が、がんばる…っ!」と顔を上げた、その時。
「伊織先輩。何してるんですか?」
「えっ?」
頭上から降ってきたのは、千冬の硬い声。
視線を上げると、淡いピンク髪の綺麗な顔が、俺を見下ろしていた。
「ち…千冬?何でここに…?」
頭にハテナを浮かべていると、千冬が恭しく俺の手を取って、優しく立ち上がらせる。
反対の手は俺の腰に添えて、そっと引き寄せられた。
甘い栗色の瞳は、はちみつがこぼれ落ちるように、とろりと細められ、俺を見つめた。
「先輩に早く会いたくて、来ちゃいました」
周りの生徒達から、静かな黄色い悲鳴が聞こえた…気がする。
指を絡められ、腰を引き寄せる力は、更に強くなる。
もう身体は、千冬の腰にぴたりとくっついてしまっている。
は、恥ずかしいん、だけど…。
「お、おい…、放せよ…」
「どうしてですか?」
「は、お前…!人前で、へ、変にくっつくなって、言ってんだよ…!」
「何が変なんですか?」
ピンクの髪をふわりと揺らして首を傾げる。
その笑顔は少女漫画から飛び出してきた王子様のように、甘くキラキラと煌めいている。
そんな爽やかな笑顔に反して、腰も手も、絶対に放さないと言うように強く拘束されている。
ああもう!
なんだよ今日の千冬!
手ぶらで来いとは言ったけど、羞恥心は持っててくれよ…!!
「あ!千冬クンやん!」
「あ、カゲヤン先輩」
「………で、何してんねん?こんなとこで抱き合って」
「抱き合ってねぇよ!」
千冬がカゲヤンに気を取られた隙に、千冬の腕から抜け出す。
俺に言われた通り、蕎麦を買ってきてるカゲヤン。
いい匂いに食欲が刺激されたのか、柑奈と柚月に断って、ちゃっかり席に座るって蕎麦を啜り始めた。
…こいつも結構、神経図太いよな…。
「伊織の蕎麦も買うてきたで?食わへんの?」
「伊織先輩は、今から僕とタコパなんです。すみませんが、もう連れて帰りますね」
「はぁっ!?」
「えっ!そうなん?」
驚く俺とカゲヤン。
どうすんだよ、この三人だけ置いてけぼりにして…!
焦る俺に、柑奈がニッと笑って手を挙げた。
「伊織っ、大丈夫!任せて。ありがとね」
明るい笑顔で、手を振られる。
俺はカゲヤンに「悪ぃ、蕎麦の金は今度払う、」とだけ言い残し、千冬に手を引かれるまま学食を出た。
「伊織先輩の家、連れてってください」
さっきまでの笑顔は嘘みたいに消え、ムッとした表情の千冬が、唇を尖らせて俺に言う。
握る手の力が、いつもより強ぇ。
なんか…、怒ってる……?
なんで?
食材は何も買ってねぇけど、とりあえず俺は、言われた通り千冬を家へ案内することにした。
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