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かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
もっと欲しい
しおりを挟むその後の千冬は、やたらと俺に構いたがった。
「ふー、ふー。はい、伊織先輩?あーん」
「自分で食えるけど…」
「口、開けてください?」
可愛らしく小首をかしげる千冬に、仕方なく口を開く。
近所のスーパーで買い出しを終えた後、千冬が手際よく数種類のたこ焼きを焼き上げ、いざ食べようとしたら、「僕がやります」と箸を取り上げられてしまった。
口に入れやすいように半分に割られたたこ焼きが、ちょうどいい温度で舌の上で蕩ける。
「あ、今の美味ぇ!明太子?」
「はい。お餅とチーズも入ってますよ」
「それは間違いねぇよな」
「ふふ。次はこっちです。はい、あーんしてください」
千冬は、俺に与えたたこ焼きの、もう半分を自分で食べて満足そうに微笑む。
家に着いた時に見せた、泣きそうな千冬はいなくなっていて、安堵する。
「ていうかお前、今日4限まであるって言ってなかったか?早かったな」
「休講になったんです。伊織先輩に連絡しましたよ?」
「え、見てなかった。悪ぃ」
「そうだろうなと思いました。はい、あーん」
「あん。うまっ。これは?」
「ジャーマンポテトです」
「めっちゃ好きだわ」
「……、良かったです」
美味い料理に、口の端が上がる。
俺の言葉に反応して、千冬は何か言おうとしたが飲み込んで、でも嬉しそうに笑った。
「二葉キャンパスに着いたら、ちょうどマロ先輩とマンティス先輩とすれ違ったんです」
「ああ」
「その時に、お二人が『伊織先輩が浮気してる』って話してたのが聞こえてしまって…」
「っはぁ!?……あ」
確かにあの二人は、今日の別れ際にそんなことを言ってふざけていたことを思い出す。
「話もよく聞かずに食堂に駆けつけてしまったんです。…さっき、お二人からフォローの連絡が入っていました」
そう言って見せてくれたスマホ画面には、冗談だということを弁明した上で、「カゲヤンの命は助けてやってほしい」と書かれている。
…そういえばカゲヤンはあの後どうなったんだろうか。
柚月は上手く話せたのか?
「…僕、…勘違いしてたみたいで…、ごめんなさい」
しょんぼりと俯くピンク頭を、少しの同情と共に見つめた。
恋人が浮気してる、なんて聞いたら、確かに落ち着いてはいられねぇよな。
俺だって、千冬が誰かと好き合ってるなんて聞いたら……、すげぇ、悲しい。
「ちょっとびっくりしたけど、謝ることねぇよ。俺こそ、なんか、ごめんな?…あ、そうだ」
思い出したついでにスマホを取り出す。
ロック画面には、カゲヤンからメッセージが通知されていた。
「一件だけ、メッセージ送ってもいいか?千冬の誤解が無いように、筋通しときてぇんだよ」
「?、はい、どうぞ…?」
なるべく早い方がいいだろう。
善は急げって言うしな。
カゲヤンからの連絡は後回しにして、柚月にメッセージを打つ。
文章が下手な俺が、悩みながら文面を考えていると、横から次のたこ焼きが口に運ばれてくる。
「先輩、あーん」
「あん、…ん?」
「スイーツたこ焼きです。チョコレートですよ」
「これもいいな。千冬の作るもん、全部美味ぇわ」
「ふふ。前も言いましたけど、僕は伊織先輩のためなら毎日でもご飯作りますよ?」
「おー、いいなそれ」
「えっ…」
メッセージはこんなもんでいいだろうか?
普段よく絡む奴としかやり取りをしないから、あまり仲良くない人へのメッセージは、ちょっと書きにくい。
しかも相手は女子だ。
慣れねぇ。
ようやくメッセージを送り終え、顔を上げると、千冬はなんだか嬉しそうにニヤついていた。
「メシ中なのに悪ぃ。終わったから」
「いいえ、大丈夫です」
「………なんでニヤけてんだ?」
「ニヤけてないですよ?」
俺に指摘されても認めず、にっこりと笑う千冬。
…無自覚なのか?
まあいいか。
「そうだ。マンティスがDVD貸してくれたんだよ。一緒に観ねぇ?」
「いいですね。観てみたいです」
ソファを置くスペースもない俺の部屋は、ビーズクッションに床座スタイル。
クッションから下りると、たこ焼きが乗っているローテーブルを避け、テレビの前へ移動する。
「確かこの辺に置いてたと思うんだけどな…」
四つん這いになり、ゲーム機や漫画が置かれたテレビ周りを雑に捜索する。
千冬に思い切り尻を向けている見苦しい姿勢だが、少しの間なので許してほしい。
「あった、これだ。…ガンダム…の映画、か?千冬、いいか?」
「っ、」
お目当てのDVDを見つけ、千冬を振り返ると、慌てたように視線を逸らされた。
…ガンダム苦手なのか?
「それか、ネトフリでもいいけど。千冬観てぇのある?」
その場に座り直し、モニターの電源をつけて、リモコンを操作する。
「えっと…、あ、それとか…」
「あー、これな。俺も観てみたかったんだよな。これにしようぜ」
「ふふ、はいっ」
千冬が示したのは、綺麗なグラフィックが話題の、人気アクションアニメだ。
カゲヤン達が話してたから、大体の内容は知っている。
千冬の嬉しそうな声に、俺ももう一度、千冬振り返って笑顔を向けてから、再生ボタンを押した。
早速プロローグが始まり、美々しい色彩と高精細なグラフィックが画面に広がる。
確かにこれは評判通りだと感心。
「電気消していいか?」
「はい」
部屋の電気を消し、プチ映画館気分で自分の席まで戻る。
クッションに座ろうとすると、千冬が下から俺の手に触れた。
「こっち。来てくれませんか?」
「え…」
思わず、見惚れてしまった。
たおやかな笑みを浮かべ、俺を見上げる千冬の瞳は、穏やかな夕映えのように美しい。
モニターの光で影を作る高い鼻も、光を映す艶のある白い肌も、弧を描く形の良い桜色の唇も、…全てがこの部屋に似つかわしくないほど綺麗。
その美麗なビジュアルは、画面の中の方が相応しく感じる程だった。
「僕の近くに…」
「…、」
千冬に見惚れ、立ち尽くした俺の手を優しく引く。
妖艶な悪魔に惑わされ誘われるように、俺の体は意思なく従い、その長い足の間に腰を落とした。
「ふふ、捕まえました」
「…ん、」
静かなのに、甘い響き。
千冬の腕が胸の前に回され、愛おしげに抱きしめられると、千冬の匂いと温度に包まれた。
夢から覚めるときのように、意識が徐々に千冬の体に向き、ドキドキと心臓が脈打ち始める。
テレビの音なんて、耳に入ってこない。
自分の鼓動を必死に鎮めようとしていると、耳元に千冬の息がかかって、また心臓が跳ねた。
「僕、伊織先輩が僕の恋人になってくれて、とっても幸せなんです…」
「……お、う…」
舌の上で甘く転がすような声が、すぐ近くで低く囁く。
顔が熱ぃ。
この声で言われたら、何でも「イエス」と答えてしまいそうだ。
「……なのに、もっともっと欲しいって、思っちゃうんです」
「もっと…?」
「はい」
掠れる声が、また俺の鼓動を速めていく。
ドキドキする胸を、千冬の腕の上から抑えたまま、肩越しに千冬の方を見た。
弱い光に照らされた薄桃色の髪は淡く輝き、月夜に浮かぶ桜のよう。
プロローグが終わり、テレビの音が消えた。
「…伊織先輩の、全部が欲しいです」
艶めくまつ毛がかかる栗色の瞳に、見知らぬ色が揺らめく。
澄み切った湖のような声。
なのに、言葉に乗った思いは、飲み込めないほど重く深いものを感じさせた。
「僕に、全部…くれませんか…?」
全部、…とは、どういう意味なんだろう。
恋に染まった唇が、甘えるように、俺の頬にキスをする。
千冬が欲しいというなら、与えてやりたい。
でも何を求められているのか…分かんねぇ。
返事に戸惑う俺を、千冬は、責めたり急かしたりする事はなく、ただ幸せそうに微笑みかけた。
俺の指に自分の指を絡め、俺の頭に頬をくっつけて、深くリラックスした吐息と共に呟く。
「大好きです」
「……俺、も」
そう答えるのが、今の俺にできる最大限の事だった。
画面の中では、アニメのキャラクター達が、オープニングテーマの小洒落たロック曲に合わせ派手に動いている。
俺は小さな疑問を胸の中に引っ掛けたまま、甘い檻の中で、千冬の体温に身を預けた。
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