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かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
…俺といて?
アニメは評判通り面白くて、結局深夜まで観入ってしまった。
「面白れぇなこれ。次の話でもう最新話に追いつく……、千冬?」
「…ぐぅ……」
「寝てんのかよ…」
背後の千冬に話しかけても、返ってきたのは寝息だけ。
どうりで、途中から返事が無いと思った。
「こんなとこで寝るな、ベッド使え」
「………うん…?」
「千冬、ベッド」
「………ん…」
千冬を支えて、まずは背後のベッドにもたれかけさせる。
脱力した人間は重い。俺は千冬の家で、何度か千冬に運んでもらったことがあるけど、…千冬って、そんなムキムキでも無いのに、どこにそんな力があるんだ?
「っよいしょっ…と。はぁ。……うわっ、」
脚を持ち上げ、ベッドの上に乗せ、布団をかけてやろうとした瞬間。
ベッドから伸びてきた手に、体ごと引きずり込まれた。
「…っふ、ゆ…!」
「……ぐぅ…」
「本当に寝てんのか!?マジかよ?…はぁ。」
千冬の家と違って、俺の部屋のベッドはシングルサイズ。
男二人で寝るにはかなり狭ぇ。
さっきまでずっと俺を抱きしめたままだったから、抱き枕だと思ってんのかな。
まあ、こうやってくっついてれば、狭いベッドでも寝れなくはねぇ…けど…。
「………近っ…」
顔が千冬の胸元に押し付けられ、少し息を吸うだけで、胸の中に千冬の匂いが充満する。
すぐ近くで聞こえる寝息と、いつもより熱い体温。遠慮なく抱きしめる腕の強さ…。
顔を上げると、綺麗な顎のラインと、ゴツっと突き出た喉仏が目に入る。
なんだろう。
いつもの優しくてかわいい千冬とは少し違う、…男らしさ、みたいなものを感じてしまう。
トクトクと、鼓動が速まるのを感じつつも、そっと、目の前の千冬の体に触れてみた。
柔らかい布越しに伝わる、千冬の体温。
呼吸に合わせて微かに上下する、硬い筋肉。
「…腹筋、…結構ある…ん、だな…」
なんだか、頬が熱くなる。
触れてはいけないものに、触れてしまっているような、妙な背徳感。
…この腹筋の触り心地を知っているのは…、
俺だけ、なの…かな…。
ゆっくり指を滑らせると、千冬の腹筋がピクッと動き、慌てて手を引っ込める。
…何、やってんだろ、俺。
身体中に、一気に熱が巡った。
「……ぅ、ん…」
千冬の気怠げな呻き声が、やたら色っぽい。
ドキドキと心拍数が上がっていく。
「…いおり…せん、ぱ…?」
「千冬、ご、ごめん…勝手に…っ、」
掠れた低い声に名前を呼ばれ、胸の奥がぎゅっとする。
謝りながら、顎を引いて、俯くようにして顔を隠した。
「……、…たい……です…」
「え……?」
…タイ?
鯛?
千冬のよく分からない発言に、再び顔を上げる。
綺麗な顔は、よく見えない。
そして、また静かな寝息だけが聞こえてくる。
…どうやら、今のは寝言だったらしい。
「…はぁ……。」
ため息をつき、千冬に触れた手を、自分の胸元で握り込んだ。
動画を観てる時に千冬が言っていた、「全部が欲しい」という言葉の意味を、ぼんやり考える。
千冬は俺に、何を求めてるのかな…。
答えのない問いを考えているうちに、俺も千冬の胸の中で、心地良い眠りについていった。
*
──ヴー、ヴー、ヴー、
スマホのバイブ音。
重い瞼を薄く開くと、窓の外はすでに明るくなっていた。
何時だ?
身体を動かそうとして、何かにぶつかる。
……千冬だ。
「あー…、そうだった」
寝落ちした千冬にベッドに引きずり込まれ、一緒に寝たんだった。
ずっと俺を拘束していた腕は、今朝になってようやく解放されたようで、今は、重たい腕だけが俺の肩の辺りに乗せられている。
「スマホ…、」
まだすやすやと寝息を立てる千冬を起こさないように、腕を身体から下ろす。
うつ伏せになり、肘をついて上半身を軽く起こしてから、バイブ音の音源を探す。
「あった。……マンティスから、電話…?」
ベッドから身を乗り出し、床に落ちているそれの画面に、マンティスの名前を見る。
手を伸ばして、指先だけで拾い上げ、ベッドの上に身体を戻す。
応答の緑のアイコンをタップしようとした瞬間。
スマホが手から抜き取られた。
「出ないで。…俺といて?」
「あ、…」
寝起きの掠れた声。
昨日に引き続き、また、ぎゅうっと身体を抱きしめられる。
カーテンの隙間から射す光が、目の前の千冬の端正な顔を照らす。
薄く開いた栗色の瞳は、日の光に不釣り合いなほど、蠱惑的で、色っぽい。
「おはようの、キスは?」
「えっ」
「して…いい?」
「し…、……ぃ、ぃ……」
恥ずかしくて、少し上にある千冬の顔から目を逸らす。
シーツと服が擦れる音に、そっと目を閉じると、唇に、優しいキスが降ってくる。
触れるだけ。
だけど、長く。
ちゅ、と控えめなリップ音だけ残して、千冬の唇が名残惜しそうに離れていった。
体温がじわりと上がる。
「おはよ、先輩?」
「……はよ、」
赤い顔で千冬を見上げると、千冬は甘い瞳で俺をじっと見つめた。
それから俺の口元に視線を落とし、微かに唇を開く。
何か言うのかと、千冬の言葉を待っていると、千冬は目を瞑り寝返りを打った。
腕を広げて仰向けになり、片手で目元を隠している。
「あー…。幸せ、だけど…、…キッツ……」
ぼやくような言葉で、最後の方は上手く聞き取れなかった。
でも、何だか苦しげな声がした気がして、心配になる。
またゴロンとうつ伏せになり、肘をついて千冬の方を覗き込んだ。
「ちふゆ…?」
心配な気持ちが顔に出て、情けなく眉が下がる。
千冬は指の隙間から俺の方をチラリと見て、またぎゅっと目を瞑った。
「…っ、…かわいい……」
「ん?何て言った?大丈夫か?」
「…はぁ…」
ため息をついた千冬は、上半身を起こす。
もう一度、ふぅ、と大きく息を吐いてから、俺を振り返った。
「…念の為、確認ですけど」
「おう?」
「僕…、先輩に変なこと、してないですよね?」
「変なこと?…特に思い当たらねぇけど…」
「……なら、いいです」
口の端を綺麗に上げて笑顔を向けた千冬は、そのままベッドから降りる。
俺も起きよう。
身体を滑らせ、足からベッドを降りた。
「寝落ちしちゃって、ごめんなさい」
「あ、ああ、別に…構わねぇよ」
まだ少し熱い頬に手を当てる。
水でも、飲もうかな。
バイトは午後からだし、今朝はゆっくりでもいいよな…。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出しながら、千冬に尋ねる。
「シャワー使うか?着替え持ってきてんだろ?」
「持ってます。ありがとうございます」
「風呂、こっちな」
「ふふ、ありがとうございます」
千冬を狭いバスルームに案内して、俺は昨日の片付けをする。
朝は何を食おうかな。
いつもならトーストかお茶漬けだけど、今日は千冬がいるから…。
──ピンポーン
「…誰だ?」
昨日の片付けを終えたところで、インターフォンが鳴る。
その辺のタオルで手を拭いて玄関ドアを開けると、大きな荷物を持ったマンティスがいた。
「伊織、電話出ろ」
「あー悪ぃ。てか第一声それかよ。どうした?」
「ああ。マロから学祭の実行委員の仕事を押し付けられた。手伝ってくれ」
「えー面倒くせぇ…。なんでマロはやんねぇの?」
「地元の彼女が押しかけてきたらしい」
「ああ。地元、長乃(ながの)だっけ?急に来たのか?」
「うむ。それで、この荷物を…」
「伊織先輩すみません、僕シャツを忘れちゃったみたいで…、」
玄関でマンティスの相手をしていると、シャワー上がりの千冬が黒のタンクトップ姿で出てきた。
首からタオルをかけ、濡れたピンクの髪をガシガシと拭いている。
タンクトップから綺麗に伸びた腕は、バランスよくついた筋肉がしなやかに動く。
「あ、マンティス先輩。こんにちは」
千冬は俺の横に立つと、俺の背後から腕を伸ばし、ドアのフレームに手をつく。
狭い玄関なんだ、わざわざ来なくてもいいのに。
千冬が微笑みかけると、不自然な沈黙を挟み、マンティスは顔を逸らした。
「………邪魔したな」
「え?」
「これは貸しだからな。じゃ」
口早にそれだけ言って、バタン、とドアを閉められる。
は?
なんで貸し?
「…よく分かんねぇけど…ま、いいか。で?千冬、シャツねぇの?」
「あー、ありました。勘違いでした。ふふ」
「ならいいけどよ。千冬は朝メシ何食いたい?」
「僕が作りますよ。先輩もシャワー行ってきてください」
「おー。さんきゅ」
鼻歌まじりに、小さなキッチンに向かう千冬を振り返る。
その後ろ姿は、やっぱり、この部屋には似合わないほど綺麗だ。
俺は着替えとタオルを持ってバスルームに向かう。
…千冬の朝メシ、楽しみだな。
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