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かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
ガキちゃうねんし
週明けの月曜。
午後の授業も終わり、バイトに向かったマンティスを除いた三人で、アパートに向かって歩いていた。
「そんでな、俺が戻ったら伊織と千冬クンが食堂のど真ん中で抱き合っとってん」
「だから抱き合ってねぇっつってんだろ」
「周りの女子はキャーキャー騒いどるし、でも蕎麦は食わんと伸びちゃうやん?せやから俺はとりあえず食うといたわ」
「あははは!カゲヤン、メンタル強すぎぃ」
「やって、こいつらのイチャコラを見せつけられんの、今に始まったことちゃうからなぁ。そら慣れるわ」
「い、いちゃこらなんて、してねぇだろ!」
カゲヤンがマロに話しているのは、この前の学食での話だ。
柚月とカゲヤンを合わせた日。
あの後、俺は千冬と学食を出てしまったから、二人がどうなったのか知らない。
カゲヤンから送られてきていたメッセージも、授業の課題に関する質問で、柚月については何も言っていなかった。
「………そ、そういえばよ…。その後は…どう、だったんだよ…?」
「伊織の蕎麦?ちゃんと食うたで?」
「違う!あの時、もう二人いただろ?」
「二人ぃ?」
「あー、柑奈チャンと柚月チャンな!あの二人が伊織の残した蕎麦食うてくれたわ」
「蕎麦はいいんだよ!蕎麦から離れろ」
「なんやねん、えらい必死やなぁ」
つ、疲れる…。
遠回しに上手く聞くって、どうやるんだ?
こういうの、俺苦手なんだよ…。
「柑奈ちゃんと柚月ちゃん?女の子ぉ?」
「せやねん。伊織の地元の同級生とか言うとったな?」
「柑奈がな。中学の同級生」
「そそ。えらい美人でスタイルええ子やったなあ。話もおもろかったし」
「そっちはどうでもいいんだよ。ゆ、柚月の方は?どうだったんだよ…?」
「柚月チャン?んー、あんま喋らんかったからよう分からんけど…、ちっこい子やったなぁ?」
「………」
「…伊織ぃ、ぼくの読みと勘が当たってるなら、これはちょっと時間がかかりそうだねぇ?」
マロの糸目から微かに覗く瞳が、楽しげに俺を見た。
はぁ、とため息が出る。
何やってんだよ柚月…。
そんな俺を見て、マロが俺の背中をポンと叩いた。
「ねえねえ。今さぁ、ぼくの彼女がこっち来てるんだよねぇ。だから、みんなで遊びに行かない~?」
「え?」
「マロの彼女!会うてみたいわ!」
「うんうん。なるちゃんも喜ぶと思う~。あ、でも男ばっかのところに、女の子が一人だけだとかわいそうかもぉ~」
「そうか?痛ったッ!」
俺の呟きに、マロから無言の張り手が入る。
は?なんで攻撃されんだよ?
「……他に一緒に来てくれそうな女の子、いると良いんだけどなぁ~?伊織?」
「はぁ?知らねぇよ、そんな……あ」
「あ、心当たりあるのぉ?」
「うわっ…、マロ、お前…すげぇな」
「…心当たり、あ・る・の?」
「ア、アリマス!」
「良かったぁ!じゃあ伊織から声かけてみてくれなぁい?それでまた連絡ちょうだい。じゃあ、ぼくこっちだから。ばいばーい」
「分かった、連絡する」
「また明日な~」
すげぇ…。策士、マロ…。
いつもふわふわした雰囲気のマロだけど、今日ばかりは知将・白川真紘と呼ばざるを得ない。
「マロの彼女、伊織は見たことあるん?」
「あー、写真で見たな」
「マロにめっちゃ似へん!?」
「え?そうだったか?」
「似てるて!マンティスなんか『作画が一緒』言うとったで?」
それもよく分かんねぇけど。
隣でヘラヘラ笑うカゲヤンをチラリと見る。
「なぁ、…お前はさ、彼女とか欲しい?」
「は?なんやねん急に」
「……別に。ほら、好きなタイプとか、聞いたことねぇなって思って」
「………」
さっきまで調子よく話してたカゲヤンが黙り込む。
珍しく口を閉じて、顎に手をかけ、真剣に考えている様子。
「……せやなぁ…」
「カゲヤン?」
太陽の光を吸い続けたようなライトブラウンの瞳が、俺を捉えた。
「………伊織」
「え?」
「伊織みたいな感じ、結構好きかもしれへんな」
俺みたいな女って…、どういうことだ?
黒髪のショートカットとか…?
言葉の意味を真剣に考えていると、カゲヤンがニヤっと笑って俺を指差した。
「今、俺にときめいた?」
「…はぁ?」
「あはは!冗談やって、気にすんなって!俺は可愛い子やったら、誰でもウェルカムやしな」
綺麗に並んだ白い歯を見せて、爽やかに笑うカゲヤン。
なるほど、可愛い系が好きなのか。
柚月に教えてやろう。
「それより伊織は千冬クンと上手いことやっとんのかいな?あんなアッツアツの抱擁見せつけられるくらいやし、余計な心配やと思うけど」
「抱擁じゃねえって…。ったく。…まあ、楽しく、してる…」
言いながら、少し頬が熱くなる。
友人に恋人の話をするのは、俺は気恥ずかしい。
でも、今、千冬とこうやって付き合っているのも、カゲヤンのおかげでもあるしな…。
そこで、ふと、この前の千冬の言葉を思い出した。
あの、「全部が欲しい」という言葉。
この話の流れなら、カゲヤンの意見も聞きやすい…し。聞いてみよう。
「……ちょっと、気になることがあって…」
「ほぉ?なんやねん」
「千冬が、…俺にどうしてほしいのか…、何を求めてるのか、…よく分かんねぇんだよ」
「へぇ?なんか直して欲しい言われてんの?」
「いや、直すとかじゃなくて…」
隣を歩く、背の高い男を少し見上げる。
「……お、俺の、…全部が…欲しいって」
「ブッ…!」
「うわ、急に噴き出すなよ。汚ったねぇな」
「うっさいわボケ、伊織が急にぶっこんでくるからやろ」
手の甲で口元を拭いながら、俺を横目に見る長身細マッチョ。
そんな憐れむようなドン引きなような目で見んなよ。
こっちは真面目に聞いてんのによ…。
「全部って言われても分かんねぇよ。具体的に言ってくれねぇと」
「……伊織、ほんまに分からへんの?」
「え?お前分かんの?」
「………『全部が欲しい』なんて、そりゃあ……」
カゲヤンが言い淀み、少し気まずそうに視線を逸らす。
唇を突き出し、先ほどよりずっと小さな声で、続けた。
「えっち、したい…っちゅうことやろ…」
カゲヤンの言葉に、自分の耳を疑った。
え…?
え……っち…?
「……………え、……うえええ!?」
「何驚いてんねん。ガキちゃうねんし、そんくらい分かるやろ」
「は、だって、俺と千冬は、お、男同士、だし…」
「うっわ…。なんか千冬クンが可哀想になってきたわ…。不憫すぎて泣けてくるまであるなぁ…」
カゲヤンがごちゃごちゃ言ってるが、俺はそれどころじゃねぇ。
は?
え、え、えっ…ち…!?
「まあ二人でじっくり話し合ったらええやん。なんかあったら、いつでも話聞いたるからな?」
「………お、う…」
「ほな、俺こっちやわ。また明日な~」
颯爽と自分のアパートに消えていくカゲヤンを、ただぼんやり見る。
多分、手は、振り返した…、はず。
立ち尽くし、自分の体を見下ろす。
右手を胸の真ん中に置き、腹まで撫で下ろしてみる。
柔らかさも、凹凸もない、かと言って筋肉も特にない。
普通の男の体だ。
「……ガチでか…?」
耳元に蘇る、千冬の熱っぽい声。
──僕に、全部…くれませんか…?
顔が熱い。
耳も熱い。
何もつかめなかった右手を力無く下ろし、ゆっくり、足を動かす。
地面を歩く感覚もよく分からないまま、俺は自分のアパートへ帰って行った。
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