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かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
僕でいっぱいにしたい
映画後は、ショッピングモール内のカフェで休憩。
流石に8人で座れる席はなくて、映画館の前列組、後列組の4人ずつに別れてテーブルについた。
「伊織先輩は何にしますか?」
「…違いがわかんねぇ」
千冬が俺にメニューを見せてくれるけど、そこに並ぶカタカナの羅列に、早々に選ぶのを諦めた。
というのも、女性陣の希望で入ったこのカフェは紅茶の専門店。
メニューには茶葉の名前が並ぶが…、紅茶には全く詳しくない俺にとっては、魔法の呪文一覧でも見ているような気分だ。
「千冬と同じので」
「ふふ。伊織先輩は、ミルクティー飲めますか?」
「おう」
「分かりました。マロ先輩と成実さんは?」
千冬が注文をしてくれて、しばらくするとテーブルにはティーカップが四つ並んだ。
コーヒーとは違う、軽やかで華やかな香りが広がる。
店内には、学校帰りの学生達の姿も多く、人の話す声と、心地良いBGMが混ざり合い、朗らかな雰囲気に満ちていた。
「ところで伊織、さっきのは何ぃ?」
「え?さっき?」
成実さんがお手洗いで席を外した瞬間、マロが眉間に皺を寄せて俺に尋ねた。
「公共の場で何してんのって聞いてるのぉ。そういうのは、二人きりのときにしなよねぇ~。千冬っちだって、困っちゃうよねぇ?」
「………伊織先輩は、無自覚なので…」
「何の話だよ?俺が何かしたのか?」
俺が責められているらしいのに、俺は参加できないまま会話が進んでいる。
おいマロ、説明しろよ。
心の中で悪態をつきながら、カップの中の紅茶にミルクを注ぐ。
ティースプーンでかき混ぜれば、紅茶の優雅な香りと、まろやかなミルクの香りが鼻腔をくすぐった。
「はぁ…。千冬っち、よく耐えてるよ、本当…。伊織はいつもこうなんだねぇ?」
「でも大切ですから」
「わぁっ、男前だぁ。柚月ちゃんの脚に鼻の下伸ばしてるカゲヤンに聞かせてやりたいよぉ…」
「ふふ。僕は伊織先輩の全部が欲しいんです。だから急ぎません」
「え?」
「確かにねぇ。ハートが大事だよねぇ~」
「はい」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
机に手をつき、慌てて立ち上がった。
キョトン顔の千冬と、半分呆れ顔のマロが俺を見る。
今、千冬…、「全部が欲しい」って、言ったよな…?
あの話だよな!?
それにしてはマロの反応が、リアクション薄過ぎるというか、…「ハート」??
「そ、それ、どういう意味だ?」
「それって?」
「その、『全部が欲しい』って…」
「………」
「……僕も、お手洗い行ってこよーっと…」
ぱちぱちと瞬きをする千冬。
マロが静かに席を立ち、二人だけになったテーブルに沈黙が流れた。
「…この前、俺に言った、よな…?同じこと…」
「はい。言葉の通りの意味ですよ」
恥ずかしがる様子もなく、穏やかに微笑む。
あまりにも落ち着いた声で言われて、俺の変な焦りも徐々に鎮まっていく。
自分が立ったままだったことにも気づき、若干の恥ずかしさを感じながら、腰を落とした。
「…僕は毎日、寝ても覚めても、伊織先輩のことで頭がいっぱいなんです」
「……へ…?」
千冬が、カップの中の紅茶にミルクを注ぎ入れる。
店のスポットライトが千冬の白い頬に、まつ毛の影を映した。
「だから、伊織先輩の中も、僕でいっぱいにしたい」
「……うん…?」
琥珀色の液体の中に、白いドレスが広がる。
「先輩が、僕のことしか考えられなくなるように…。先輩が、毎日僕を思い出して、恋しくなるように…。」
細長い指が、銀色のスプーンで優しく紅茶を撫でる。
混ざり合った二つの液体は、どちらの色も失って、境目が分からないほどに溶け合っていく。
「先輩の、心にも体にも…、僕を刻みつけて、僕しか見えないようになってほしい」
静かにスプーンを置いた千冬が、ゆるりと煌めく瞳で、愛おしげに俺を見つめた。
形の良い唇は甘く色付いている。
「僕がいないと…、息さえも…できなくなっちゃえばいいのに」
最後の呟きは、深夜に一人で歌う鼻歌のようにさりげなくて、不明瞭だった。
なんて言ったんだ?
宝物を見るようにうっとりと細められた目が、俺を縛る。
その瞳はどこか仄暗くて、妖しく揺らめいていた。
「え…っと……、」
よく分からない謎の緊張感に身体が少し強張る。
貼り付く喉で、無理矢理唾を飲み込むと、俺は今言われたことを頭の中で反芻した。
………けど…。
「…、つ、…つまり………、どういう…こと…だ……?」
「ふっ、ふふふ。あははは!」
目を白黒させ恐る恐る尋ねた俺に、千冬は子供みたいに無邪気に笑い出した。
締め切った部屋の窓が開かれ、爽やかな春風が勢いよく吹き込むように、場の空気が一気に緩む。
「ふふ、そうですね…。つまり、先輩が、もっと僕を好きになってくれたら嬉しいなあってことです」
「へ、へぇ……?…はぁ…」
花が咲くように笑い、陽だまりのように柔和な声で話す千冬に、気の抜けた返事をする。
千冬は普段から歌詞を書いているから、こんなポエム的な言い回しをするんだろうか?
俺が理解するには……ちょっと難しい。
抽象的ではあるけど、つまり、「全部欲しい」というのは、…え、えっちのことでは無かった…らしいことは、よく分かった。
深く息を吐くと、身体の力が抜けた。
いつの間にか、肩に力が入っていたんだ。
「話終わったぁ~?」
「ええ。すみません、マロ先輩」
「真紘、荷物持ってくれてありがとぉ」
マロカップルが揃って席に戻り、話題は自然にさっき観た映画の話になる。
変に悩んでた俺、アホだったな…。
大体、千冬は、恋愛ごとに慣れない俺に、「ゆっくりでいい」って言ってくれていたんだ。
そんな急に、身体が欲しいなんて言うわけねぇじゃん。
カップの中のミルクティーを一口飲む。
ミルクの優しい味が、喉を潤した。
「はぁ…」
向こうのテーブルで、カゲヤンの楽しそうな笑い声が聞こえ、思わず非難するような目で見てしまう。
カゲヤンの下半身思考を、鵜呑みにした俺が悪かった。
しかし、俺を無駄に悩ませた諸悪の根源は、アイツだと主張したい。
俺の視線に気付いたカゲヤンは、そんな俺の心中などつゆ知らず。
今日の映画で、サブヒロインがやっていたハートマークを手で作り、俺にニッと笑いかけた。
…うぜぇ…。
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