文字の大きさ
大
中
小
40 / 46
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
浮気性な恋人
着替えを済ませると、マンティスが、俺と千冬にわざわざ詫びを入れに来てくれた。
千冬には伊達眼鏡を渡す。せめてもの変装用らしい。
「別に気にしてねぇよ」と言おうとしたのに、マンティスが妙に畏まった態度で、しかも斜め上の配慮をするから、俺たちは思わず笑ってしまった。
ふざけ合って、許し合う。こういうのはいつもお互い様ってことにしてやろう。
アニ研の教室を出たあと、山岳部の屋台で豚汁と肉巻きおにぎりを食べた俺たちは、午後のステージショーを観覧していた。
「剣道部、おもしれぇな」
「あ、あれ、マロ先輩じゃないですか?」
「あはは!ほんとだ!薙ぎ倒されるフリ、上手すぎんだろっ」
最初は真面目な演舞で凛とした空気を作っていたのに、BGMが変わった途端、音楽に合わせたチャンバラ劇のようなものが始まった。
セリフは一切無いものの、効果音と小道具を上手く使い、会場が笑いに包まれる。
「あー、でもやっぱ、所作がかっこいいよなあ…。特にあの主将とかさ、体つきがもう違うもんな。断トツで一番かっけぇ」
「………」
「なぁ?千冬もそう思わねぇ?」
千冬の返事が聞こえなくて、隣を見る。
綺麗な横顔は、なんだかつまらなそうに、ジトっとした目でステージを見ていた。
「…どうした?」
「……」
声をかけると、不機嫌そうな顔で俺を見る。
さっきまで楽しんでたのに…。
何を急に拗ねてんだ…?
「……千冬?」
「……この前僕には…、…かわいいって…」
「え?」
唇を尖らせ、聞かせる気もないくらいに、小さな声で何かをつぶやく。
千冬の言葉は、派手なBGMと、会場の笑い声で、当たり前にかき消されてしまう。
「…何でも無いです」
千冬の拗ね顔は治らないまま、一言だけ言ってまたステージの方を向いてしまう。
なんなんだよ?
剣道部のステージが終わると、次は軽音部だ。
最初に演奏するバンドが、ギターやベースを首から下げ、アンプの調整をしている。
メカニック感、やっぱいいな…。
「柚月、あんなちっせぇのに、ああいうゴツいベース弾くんだろ?かっけぇよなあ」
「………そうですね」
「俺はエレキのメカ感もカッコよくて好きだけどな。バンドマンって、やっぱ一度は憧れるよなぁ」
「……………ふぅん…」
なんだ。
千冬の不機嫌が治らねぇ。
ステージを見るジト目レベルはぐんぐん上がっていく。
「なぁ千冬、急にどうし………あれ?千冬…、あそこ見ろよ」
「…どこですか?」
ステージの下手側にいる集団を指し示す。
出演の順番待ちをする軽音部員達が、バンドごとに固まって控えている。
その端に、見知った二人組。
「柚月さんと、柑奈さん…と……、男の人?ですね。…でも、…揉めてる?」
「だよな。ちょっと行ってみようぜ?」
ベースを抱えておどおどしている柚月と、ギターを傍らに座り込んでいる男。そしてその男を睨みつけている男装姿の柑奈。
今から仲良く演奏するようには、とても見えない雰囲気だ。
「だぁーから…、だいじょーぶらってえ…」
「はぁ?そんな酔ってて無理に決まってんじゃん。バカなの?」
「か、柑ちゃん…っ、」
「うっせぇ…な、いーだろ、べつにーぃ」
「柑奈、柚月。大丈夫か?」
「伊織くん、千冬くん!」
二人の元に近づくと、アルコールの匂いが鼻を掠めた。
柑奈が呆れ顔で男から俺に視線を向ける。
その眼力に萎縮する。
男装中だからか、余計に怖ぇ…。
「バンドメンバーがなぜか本番前に酔い潰れてんの。信じらんない」
「つぶれてねぇわー……」
「…くっ、こんなの、運営にステージ乗るなって言われるに決まってんじゃん!」
「んー、ちょっと…ねむぅ……でばんきたら、おこして……」
「…クソッ」
柑奈が舌打ちして、柚月は唇をギュッと結んだ。
ステージでは他のバンドが演奏を終え、次のバンドに交代する。
「ユズ、二人だけで出るよ」
「……うん…」
怒りと悲しさを内混ぜにした表情で、柑奈が俯く柚月にそう伝えた時。
千冬が、酔って眠る男の前に静かにしゃがみ込んだ。
「すみません。ギター、お借りしてもいいですか」
「え……」
「千冬くん…?」
相手への敬意を払った、丁寧なお伺い。
酔っ払いは夢か現実かの判別がつかないような状態で、「うん…?」と、辛うじて肯定と取れるような反応をした。
「ありがとうございます。…柑奈さん、柚月さん。僕と一緒にステージに上がってもらえますか?」
「ほ、本気…?」
「メンバーの失態を、千冬くんに埋めてもらうわけには…」
目を見開く柚月と、眉間に皺を寄せバツの悪そうな顔をする柑奈。
千冬は男からギターを拝借すると、照れくさそうに小さく微笑んだ。
「僕、浮気性な恋人を、何としても独占したいんです」
「浮気…?」
「……」
戸惑う柚月と、それを聞いて、悪ノリするように口の端を上げる柑奈。
俺も柚月と同じく、この展開についていけていない。
エレキギターのストラップを首にかけた千冬の背中を、ただただ呆然と見ていると、一瞬だけ振り返った千冬が、俺を見て、甘く目を細めた。
「柑奈さん、出番まで何分ありますか?」
今手にしたばかりのボルドーのギターを構え、柔らかな弦をはじくと、ペグに手をかける。
「柚月さん、GかEの音ください」
「う、うん」
「うちの出番はあと15分くらい。曲目は知ってるよね?イントロは私の4カウントで」
「はい。アウトロは僕が合図していいですか」
「オッケー」
アンプなしでギターを鳴らしながら、俺を置き去りに、三人の打ち合わせが進む。
何の話なのか、俺にはさっぱり分からない。
ステージの音と観客の手拍子を遠くに聞いていると、実行委員のスタッフが俺の肩を叩いた。
「すみませんが、ご観覧はステージ前の観覧エリアでお願いします」
「え、…あ、はい……」
俺が視線だけ残したままその場を離れようとすると、打ち合わせに集中していた千冬が慌てて振り返り、俺の手を掴んだ。
いつも可愛らしいピンク髪の後輩は、栗色の瞳を意地悪く細め、ニッと笑った。
「伊織先輩。『断トツで1番カッコいい』のは誰なのか、後でもう一度教えてくださいね?」
「………え、」
「次の出演者さんは、こちらでスタンバイお願いします」
「はーい!」
スタッフの声に、千冬たちは慌ただしく立ち去る。
俺も先ほどのスタッフに再度注意され、観覧エリアに戻された。
え…?
千冬が歌うのか?
あいつエレキできんの?
てか、こんな大勢の前で歌うつもりか?
………大丈夫なのか、それ…?
頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、柑奈達がステージに登場した。
先ほどまで男装姿だった柑奈は、長い金髪をポニーテールにしている。
そして、柑奈と柚月の間にたったギターの男は、黒髪に、黒縁眼鏡姿。
「……ん?…誰?」
俺の独り言は、その後の派手なギター音に食われる。
空気を痺れさせるエレクトリックな音が、会場の注目を一点に集めた瞬間、柑奈のカウントで疾走感溢れるイントロが始まる。
みんなで観に行った、あの映画の主題歌だ。
流行りの曲だけあって、会場は一気に沸き立った。
ギターの黒髪眼鏡は、俺をすぐに見つけ、挑発するように目を細める。
…間違いなく、千冬だ。
俺と目が合うと、ギターを掻き鳴らす黒髪の美形は、形の良い眉をゆるりと上げた。
綺麗な口元から赤い舌がチラリと覗き、上唇の左半分だけを撫でる。
その所作に、一部の客から歓声が湧いた。
「あいつ……っ、」
ロック調の激しさと、ポップながらどこか不穏でファンタジックなメロディー。
千冬の甘く優しい声がマッチする、「フユ」の曲とは全く違う雰囲気だ。
歌い出しと共に、千冬が眼鏡の奥でニヤリと笑った。
初めて聴く、千冬の噛み付くような低い声。
それは歌が進むにつれ、激しさを増す。
「わ……、すっ、ご……」
呟きながら、ゴクンと唾を飲み込んだ。
こんなの…、こんな千冬…、知らない…。
興奮で顔が熱くなる。
動悸も、速くなっていく。
「このボーカル、歌上手すぎない!?」
「わかる!本家超えてるよね!?」
「眼鏡で見えにくいけど、顔めっちゃ整ってない?えぐっっ!」
「ギター弾く手ヤバいから見て!ガチでメロすぎる」
近くの女性客達の悲鳴にも近い興奮の声。
それを打ち消す、千冬の吠えるような歌声。
狂気が滲む愛の歌詞を、千冬は自分のもののように楽しんで歌っている。
激しく歌うだけじゃない。
声のザラつきを残したまま息を抜いたり、ふと色気のある声を混ぜたり。
サビに差し掛かると、千冬のがなり声に会場が今日一番の一体感と盛り上がりを見せた。
強い声には、怒気ではなく、色気と切なさが垣間見え、聴く人を虜にさせる。
「………かっこ、よすぎ…だろ…」
光る首元の汗。
怠そうに頭を振る仕草。
ギターから顔を上げる度に俺を捉える鋭い眼光。
全てが、心臓が痛くなるくらいカッコよかった。
千冬しか見えなくなった俺は、とうとう最後には、「もう俺の負けです」、「降参です」と脳が訴え、直視できず視線をステージ下に彷徨わせていた。
割れんばかりの拍手。
三人の即席バンドは大成功を収めた。
「え、ステージ飛び降りた!?」
「何何何ッ!?ヤバい!アツい!」
喝采の中、小さなどよめきが上がり、それは徐々話に近付いてくる。
「嘘!?こっち来るっ!」
「ひゃああ、ガチでビジュが良いッ」
ほとんど俯きながら拍手をしている俺の耳に、女性客たちの興奮の声が聞こえた。
その声に続き、周りが一段と煩くなる。
足元に、誰かの影が落ちた。
「伊織先輩」
「え……」
今、ここにいるはずのない千冬の声が、頭の上に聞こえる。
恐る恐る、クラクラするほど熱い顔を上げた。
目の前には、肩で息をする、黒髪眼鏡の、超絶美形。
「ハッ、顔真っ赤。…ね、来て?」
「……う、」
イタズラっぽく笑った千冬に、返事をするより先に手を引かれ、黄色い悲鳴が上がる人混みを駆け抜け、広場を抜け出した。
感想 0
あなたにおすすめの小説
【完結】君を上手に振る方法
社菘「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
俺にだけ可愛い幼馴染みの本性は、甘くて重い
月城雪華高校二年になって少ししたある日。
幼馴染みの聖(ひじり)が女子に呼び出された。
蓮弥(れんや)は瞬時に「ああ、告白されるのか」と理解する。
しかし基本的に「断ったよ」と報告してきて、傍にいてくれる。
これからもこうした関係が続くんだろうな、と漠然と思っていた時、蓮弥に告白してくる下級生の女子が現れた。
唐突だった事もあり、相手のことをよく知らないため「まずは友達から」と断ったものの、なぜかその日を境に聖から避けられるようになって──
癒やし系攻め×クーデレ系受けによる、青春の一幕のお話。
✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼
当作品は「ノベマ!」に投稿しているものですが、あちらは全年齢向けです(番外編でR‐15なお話を投稿するかも)
アルファポリスでは、本編後の番外編としてキス〜セッ久までの経過、途中で初めて(?)のデート編も書きます\アクマデヨテイデス/
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteriCM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話
さるやま◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り
攻め→→→→←←受け
眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。
高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。
有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
オメガ嫌いのアルファと、嘘つきなオメガ
万里路地裏の小さなイタリアンカフェ&バー『AMBRA(アンブラ)』をワンオペで営む宮瀬琥珀(38)は、世間からベータと思われているが、実は「いつか運命の番に会える」と信じ続ける健気なオメガ。
ある日、親友のオメガ・柚希の紹介(旦那の黒塚マネージャーの推薦)で、天才的な腕を持つ若い料理人・佐伯航一郎(24)を雇うことになる。
しかし、店に現れた航一郎こそ、琥珀が三十八年間待ち続けた「運命の番(アルファ)」だった。あまりの衝撃にときめく琥珀だったが、航一郎が放った最初の言葉は「俺、オメガが死ぬほど大嫌いなんです」という強烈な呪詛。
過去のトラウマからオメガを激しく憎む航一郎を前に、琥珀の恋心は出会ってわずか五分で粉砕される。だが、彼の料理人としての才能を守るため、そして彼が抱える深い傷を察した琥珀は、「俺はベータだ」と人生最大の嘘をついて彼を雇い入れることを決意する――。
👥 主要キャラクター紹介
🐱 宮瀬 琥珀(みやせ こはく) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(極端にフェロモンが薄く、周囲からは『ベータ』だと思われている)
職業: カフェ&バー『AMBRA』の店長兼オーナー
性格: 口は悪いが曲がったことが大嫌いな男気溢れる性格。
🐺 佐伯 航一郎(さえき こういちろう) / 24歳・アルファ
属性: アルファ(焦げたビターチョコレートのような、非常に強くて極上のフェロモンを持つ)
職業: 『AMBRA』の新人料理人
外見・性格: 身長185cmオーバー、黒いライダースが似合う鋭利で彫刻のようなイケメン。無愛想で冷徹、周囲を拒絶する「野良犬」のような目をしている。
🦊 柚希(ゆずき) / 38歳・オメガ
属性: オメガ(大手飲食グループの統括マネージャー・黒塚と番っている)
職業: 専業主婦
外見・性格: ふんわりとした栗色髪のタレ目。いくつになっても愛嬌があり、マイペース。
ポジション: 琥珀の十代からの悪友で、数少ない「オメガの親友」。琥珀の前では一切気取らず、毎度キレのあるのろけ話を投下していく良き相棒。