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かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい2
彼氏の写真
大学祭から2週間。
──ピロン♪
通知音に気付き、俺は机の上に置きっぱなしにしていたスマホの画面に目をやった。
送信者の名前は、ハル。千冬の弟の春樹だ。
期待と緊張で胸が鳴った。
「…ハル?どうかしたんですか?」
「えっ?…あ、いや…」
「僕に隠し事ですか?」
「違ぇって。…ちょっと、…動画…じゃなくて!えっと……ゲ、ゲーム!このゲームの必勝法、聞いてたんだよ」
隣でゲームのコントローラーを握る千冬が尋ねてきたから、俺は慌ててテレビ画面に視線を戻した。
テレビの画面は、レースゲームが終わったところ。俺の操作していたキャラクターがゴーカートの上で悔しがる横で、千冬の操作していたキャラクターは一位を取って喜んでいた。
「千冬、これすげぇ強ぇからな」
「…弟たちとしょっちゅうやってましたからね」
「俺もそんな弱くねぇと思うんだけど、一度も勝てねぇじゃん」
「…まぁ…、コースのギミックとかショートカットとか、覚えゲー要素もありますしね」
「確かにな」
それにしても千冬は操作が上手い。
器用というか…、集中力が違ぇ。
千冬にも言った通り、俺は、このゲームで一度も千冬に勝てたことがない。
仮にも俺は先輩で、しかも恋人だろ?
なのに容赦しないって、どういうことだよ?
「…千冬って免許持ってるか?」
「車の免許ですか?持ってませんよ」
「…フンッ」
ニマリと口の端を上げる。
公道上では俺が負けることはまだなさそうだ。
そんな俺を、千冬は綺麗なアーモンド型の目をぱちくりさせて見てから、可愛らしく微笑んだ。
「かわいいですね、伊織先輩」
「は?」
──ピロン♪
千冬の妙に甘ったるい声の、脈略のないコメントに眉間に皺を寄せていると、再びスマホが鳴った。
今度はカゲヤンからだ。
こいつのメッセージはどうでもいいが、気付いてしまったから、一応確認する。
〈山が呼んどるで?〉
意味不明なメッセージに、ここにはいないカゲヤンに思わず呆れ顔になった。
「彼女ができて浮かれ過ぎてるか…、とうとう頭おかしくなったか……」
「カゲヤン先輩ですか?」
「おう。あ、」
千冬にスマホの画面を見せようとしたところで、追加のメッセージが届いた。
〈もう12月やで!?来週空いとる?スノボ行こうや!〉
「スノボか。千冬、スノボ行かねぇかってカゲヤンが言ってる」
「伊織先輩、滑れるんですか?」
「去年マロに教えてもらって、ちょっとな。マロは地元が長乃の北の方だから、普通にできるんだとよ」
「………」
スマホの画面から目を逸らし、去年のことを回想する。
雪国出身のマロ以外は3人ともスノボ初心者で、俺は足が一枚の板に固定される謎のスポーツに悪戦苦闘した。
動画とかで見る分には簡単そうなのに、実際は立つだけでも一苦労だった。
もっとも、カゲヤンは数時間でコツを掴み、2日目には中級者コースを攻めていて、その後も部活の友人なんかと何度も遊びに行ったらしい。
……俺はあの二日間で、ゆっくり降りるようになるのが精一杯だったけどな。
「千冬はやったことあんのか?」
「ないですね。厚海は雪もほとんど降らないですし、雪のスポーツは馴染みがないです」
「へぇ?なら、俺が教えてやろうか?」
「え!は、はいっ!………ぁ、」
「?」
「スノボってことは…、…リフト……」
「ん?何か言ったか?」
一瞬瞳を輝かせたと思ったら、みるみる表情が曇る。
なんだ?
俺が初心者レベルでイキってるのがもうバレたのか?
いいだろ別に、今くらいカッコつけたって。
「あ、千冬、そろそろバイト行かねぇと」
「…そうですね。支度しましょうか」
千冬がゲームや机の上の片付けを始めた隙に、スマホを片手にトイレに入る。
鍵を閉めると、扉の前に立ったままスマホを開いた。
確認したかったのは、先ほどシュンから届いた通知。
〈顔あんま見えないけど、右の青いエレキが兄貴だよー〉
そんなメッセージと共に送られてきたのは、一件の動画。
学祭のあのステージで、千冬が難なくエレキを弾きこなしたのは、演奏経験があったかららしい。
なんとなく、千冬本人に「その時の動画を見せて」と言うのが恥ずかしくて、恥を忍んでハルとシュンにお願いしたんだ。
動画を再生する前に、音が出ないように音量を確認する。
それから一呼吸置いて、緊張する指先で動画を開いた。
「うわ…」
写っているのは、暗い体育館の中、スポットライトで照らされたステージと、その上でバンド演奏する4人の生徒。
1年前の、千冬の高校での後夜祭のステージの様子。
舞台の上手にいるネイビーのギターを持つ黒髪が、高校生時代の千冬だ。
「…千冬…、…」
すげぇ…、かっこ、いい…。
その言葉は口に出さずに飲み込んだ。
心臓は鼓動を速め、同時に、画面の端に映る観客の後ろ姿に、悲しいようなつまらないような、複雑な感情も抱く。
「地毛は、ストレートなんだ…な……」
変なモヤモヤは顔を振って振り払い、今は動画の中の千冬に集中する。
赤いクラスTシャツに、サラサラの黒髪をスポットライトで輝かせながら、エレキを掻き鳴らす千冬。
細長い指が細やかに動き、手の甲に筋が浮く。
たまにボーカルやベースに向けて顔を上げるが、その幼い面影の中には、危なげな色気を感じてしまう。
胸が煩いくらい高鳴り、顔が熱を持つ。
学祭の時のあのステージと、教卓の中でキスをした千冬が、記憶の中で勝手に蘇った。
あの時の熱も、苦しげな呼吸も。
キスの間、俺の網膜を焦がした、欲に濡れた栗色の瞳も……。
「………」
頬がじんと熱くなる。
動画の中の千冬から目を離さないまま、無意識のうちに唇に指を当てていた。
あの日以来、千冬とキスしてない。
…そういえば、キスはいつも千冬からする。
だから、千冬がしようとしなければ、それが無くなるのは当然だ。
──欲しいときは、伊織先輩から。言ってください。
あの時、黒髪の恋人は俺にそう言った。
千冬とのキスは、気持ちいいし、好き…、だ。
でも、わざわざお願いしてまで、してもらうことでもないような……。
──ピロン♪
「ん?シュン…?」
考えに耽っていると、今度は春樹の双子の春丞からメッセージが届いた。
〈おまけの写真だよー。約束通り、伊織サンの秘蔵写真も送ってよねー?〉
メッセージと変な動きをする犬のスタンプに続いて送られてきた写真に、俺は息を止めた。
「……か、」
写っていたのは、自宅の部屋でブレザー制服を着崩し、畳の上で胡座をかき、畳に広げた譜面を難しい顔で見ながら、エレキを抱える千冬。
サラサラの黒髪は前髪がヘアピンで留められていて、白く、まろいおでこが見えていた。
形の良い眉と、伏せられた長いまつ毛。綺麗な平行二重の甘い瞳が真剣に楽譜を見下ろしている。
綺麗な横顔なのに、唇は少し突き出していて、それは拗ねている時の千冬の所作と同じだった。
「……これは、なんか……なんか……」
胸の奥が、切ないくらいきゅん、きゅん、とした。
「かわいい」「かっこいい」、どちらの言葉でも表せない、苦しいほどに衝動的な気持ちを、強く掻き立てられる。
スラックスからだらしなく出ているシャツと、緩めたネクタイ。綺麗な首筋。
熱中する、栗色の瞳。
幼げな可愛さに覗く、妙な色っぽさに、よく分からない胸の締め付けが止まらない。
…この白い額に…、触って、みたい………。
その時、背中のドアがノックされた。
「伊織先輩?大丈夫ですか?」
「!、お、おう。写真…じゃなくて、動…、ス、スマホ…、ゲーム!」
「ええ?ゲーム?」
「えっと、とにかく大丈夫だから!」
「伊織先輩の荷物も用意しましたから、大丈夫ならそろそろ出ましょう?」
「おう、すぐ行く」
画像を保存して、ぎゅっと目を瞑る。
ライブ中の千冬も、ギターの練習をする千冬も、無性に愛おしく感じた。
ていうか…、こっそり彼氏の写真をもらうなんて……俺、…変態っぽいか………?
自分の行動を急に客観視して、少し恥ずかしくなる。
この後、千冬を直視できるのか、ちょっと心配になりながら、俺はスマホをポケットにしまってトイレを出た。
「あ、伊織先輩。行けますか?」
「お、おう!」
「……なんか、顔赤くないですか?」
「は、はぁ?んなわけねぇだろ?」
「……」
「あ、ゲームが、…ちょっと、白熱した…から?」
「……伊織先輩、」
「千冬!もう行こうぜ?来週のスノボ代、稼がねぇと!な?」
「はぁ…」
焦って話題を切り上げる俺を、千冬はジトっとした目で見ながら、何か言いたげに、渋々玄関ドアを開ける。
ひんやりした外気に、顔の熱が冷まされていった。
12月らしい、冷たく澄んだ空気に、去年のスノボ旅行を思い出す。
今年は、千冬も一緒だ。
「千冬、スノボ楽しみだな?」
「…はい。そうですね」
「あ、そうだ。帰りにネックウォーマー買ってっていいか?去年無くしちゃったんだよ。千冬、選んでくんねぇ?」
「!、いいですね、行きましょう」
旅行に思いを馳せていたら、いつの間にか頬が緩みまくっていた。
そんな俺を見た千冬は、煌めく瞳を優しく細める。
幸せだ。
スノボ旅行、楽しみだな。
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