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王太子の事情
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しおりを挟む「それに気付いたわたくしは、殿下のお心を慰めるべく、催し物を提案したり、殿下にだけは許されない一般的な楽しみに、羨望を抱かずとも済むように、周りに根回ししたりして…でも、もう既に遅かったのです。殿下は、人に慰めを見つけてしまった。」
あの歌い手か。
「根回しをしたりする時点で、わたくしはこの鉄格子の鉄棒の一本となってしまった。そんなわたくしでは、殿下のお心を慰めることはできないことはわかっていました。」
「そんなことは…」
「いいえ。そうなのです。責めているわけではありません。人に温もりを求めることは、人として当然のことです。まして、殿下は母上様に抱かれたこともないと聞いております。人に惹かれる殿下を止めること自体が、そもそも無理なことだったのです。その殿下がお心を寄せた女性達を遠ざけたのも失策です。」
「遠ざけた?君が彼女達をどこかへやったのか?」
「いいえ。わたくしが知った時には、もう既に相当数の女性の処分が終わった後でした。わたくしとの婚約の条件に抵触すると、先走った大人達が手を回したようです。彼女達がどうなったのか、今、どうしているのか、それは、わたくしは存じません。ですが、そんなことを続けて良いはずもありません。人を犠牲にしないための条件が、人を傷つけては意味がありません。それで、」
それまで黙っていた、侍女らしい女性のベールを取った。
「マリア!?」
「この子を買いました。」
ベールを取られたマリアはおろおろと所在なさげにしている。
「あ…ロザリアさま、バラさないとお約束したはずでは…」
「殿下には知る権利があるのです。大丈夫。貴女を傷つけはさせないから。」
「どういう…こと、だ」
「彼女の実家は、没落しかけていました。あわや一家心中目前というところまで追い詰められていた所を、わたくしが、この子を買うことで持ち直しております。」
「買った…だと。私は、マリアを買い与えられたということか?」
「その通りでございます。」
冷ややかに淡々と述べるロザリアに掴み掛かりたい衝動に駆られたが、鉄格子の向こうとこちらでは手は届かない。
というか、もう、何も考えたくない。唯一、自分で選んだと信じていたマリアですら、自分のものだけだと信じていた、マリアへの私の気持ちすら、お膳立てされていた。
そういえば、マリアは、いつも私を否定せずに側に居てくれたが、ただそれだけだ。マリアから愛を囁かれたことは一度もない。私がひとりで盛り上がって突っ走っただけなのか。
「はは…なんて滑稽なんだ。私は、恋心すら操られていたのか。」
自分がバカらしくて嘲笑が出る。
「殿下。わたくしは、マリアを愛妾として認めてはどうかと、父上や陛下に進言していたのです。」
「え?」
「もちろん、マリアの気持ちを無視するようなことは許すつもりはありませんでした。その上で、マリアも納得するのならば、それが殿下の癒しになるのならば、それも良いと。ーーですが。それが通る前に殿下に捨てられてしまいましたので。」
「あ…あぁ…私は…」
「殿下。これでネタバラシもしましたし。わたくしの話は終わりですわ。最後に。」
「これで、殿下は忌まわしい王室から解放されたのです。暫くは不自由でしょうが、これからは、どうか、御自分を見つけてください。」
「さようなら。」
そう言って、ロザリアとマリアは去っていった。
もう、何も考えたくない。
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