『ラズーン』第二部

segakiyui

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4.視察官達(1)

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「ユーノ!」
 扉を開けたとたん、視界に飛び込んできた光景にアシャは声を上げた。
「何をやってる」
「着替えてる」
 むっつりした顔で答えて、ユーノはチュニックを被った。腕を伸ばす際に包帯の下の傷口に痛みが走ったのか、軽く眉をしかめる。
「ばか、まだ無理だ」
 アシャは慌てて手にしていた盆を近くの机に置いた。朝食にと準備されたスープとパンだ。
「、だって…!」
 一瞬声を飲み、じれったそうにことばを続けるユーノに近づき、アシャは厳しく言った。
「どれほどひどい傷だったのか、わかってるのか。……生きてた方が不思議なんだぞ」
(ほんとうに、無茶ばかりする)
 眉をしかめてユーノを見ると、ちらりと一瞬視線を上げたユーノが苦しそうに顔を背け、唇を噛んだ。うつむいてしばしの沈黙、やがて、
「サルトみたいになるのはごめんだ」
 ぽつりと低くつぶやく。
「サルト?」
 アシャにとっては聞き捨てならない名前の一つ、確かユーノの前の付き人だったはず、と思い返した。
「突然家に戻ったとかいう」
「戻っていない」
 アシャの顔を見返さないまま、ユーノはベッドから離れて窓辺に近づく。差し込む日差しで顔を洗おうとでもするように身を乗り出しながら、
「ボクの身代わりになった」
「…」
「その時、やっぱり怪我をしてて、十分に治りきっていなかった……ううん、完全に回復させようと珍しくゆっくり時間をかけて休んでいた」
 なまっちゃったんだよね、きっと。
 小さく笑う声は冷たい。
「カザドが狙ってたのを忘れていなかったのに、ちゃんと休めるまで待つはずもなかったのに」
 襲われた時、自分の身も守れなかった。間抜けたことに剣もベッドに備えてなかった。
「転がって逃げて、逃げて、でも逃げ切れなくて」
 もうこれまでかと身を竦めた矢先、サルトが飛び込んでカザドの剣を受け止めた。
「ボクなんかのために、盾になって」
 本望なんだってさ。
「本望ですって。付き人の本分です、って」
 窓になお強く乗り出したユーノが目を細める。その頬に涙は伝わっていない。だが微かに震える指先が、怒りを堪えて窓枠を握り締めている。
「…くそくらえっ…」
 激しい語調で吐き出されたことばは苦くて厳しかった。
「ボクのために死ぬのが本望なはず、ないだろ。ボクのために死ぬのが、付き人なはず、ない」
 なのに。
 なのに。
「……ボクのためなら、死なないで、ずっと生きて、側、に」
(くそくらえ)
 ユーノの切ないことばにアシャはぶすりと唸る自分の内側の声を聞く。
 だからユーノは付き人を拒むのだ。だからユーノはいざとなったら、アシャが自分を捨てて生きのびてくれなどと願うのだ。
(本望じゃないか)
 おそらく、そのサルトという男は心底ユーノに仕えたのだろう。唯一の主として認めていたのだろう。
(そんな相手のために、命を懸けることができたら)
 日差しの中、しばらく寝込んでいたせいでなお華奢になってしまったように見えるユーノの後ろ姿に、苛立たしさと悔しさを感じる。
(これほどの想いを向けられたなら)
 アシャだってすぐにユーノの盾になってみせる、機会さえ与えてくれたなら。
 だがユーノはそんなアシャの気持ちを全く気づいていない顔で続けた。
「ボクは、ボクを大事にしてくれる人が苦しむのは嫌だ」
 ましてや、ボクのためなんかに死ぬのはまっぴらだ。
「……俺やイルファの腕があてにならないのか?」
 僅かに振り返った視線に、ようやく自分の番を感じてアシャは溜め息をつく。
(なのに、これだ)
 アシャをサルトほどの距離に近づける気さえないらしい。
「…そんなことはないよ」
 ユーノはうっすらと赤くなった。
「ただ、カザドが『運命(リマイン)』と組んでる……多勢に無勢なら、のんびり休んでられる場合じゃないってこと」 
 淡々と応じて、再び何かを探すように遠くの空を見上げる。
 そうして普通に振る舞っているのもかなり苦しいはずだ。三日大人しくしてはいたが、傷は治りきっていない。化膿していないだけ幸いだった、それだけだ。熱はまだ下がっていないし、回復していないのは食欲の戻りが悪いのでもわかる。レスファートの懇願に渋々じっとしていたが、どうにも耐え切れなくなったというところだろう。
(仕方ない)
 アシャは吐息をついた。言い聞かせて頷く相手でもない。
 さりげなくスープに白い粉を落とし入れる。すぐに溶けて粉が見えなくなったスープを軽くかき混ぜ、
「わかったから、こっちへ来て座れ。ちゃんと食べる、そう約束したはずだな?」
「う、ん」
 ゆっくりと窓際を離れたのは、食欲がないだけではない、そんな動きさえまだ早くこなせないのだ。
 危うい足取りで近づいてくると、ユーノは崩れるようにベッドに腰を落とした。呼吸が弾んでいるのを必死に堪えてごまかそうとする。
(がたがたの体のくせに)
 だから、こういう手も使わざるを得ない。何食わぬ顔で薬入りのスープを差し出す。
 溜め息をついて、ユーノが中身を掬って一さじ一さじ呑み込んでいく。
「ん…おいし…」
 満足そうな甘い声が零れた。
「マノーダって料理がうまいんだね」
「ああ、ナストもそこに惚れたらしいな。三日手放しでのろけられていたから、どんな料理がどううまいか、俺でも説明できるぐらいだ」
「ふふ…っ」
 どこか寂しく響く声で笑って食事を終えたユーノが、ふわ、と小さなあくびを漏らした。
「あ…れ…」
「どうした?」
 素知らぬ顔で尋ねる。
「ん…どうしたのかな……」
 ユーノはとろんとした顔で瞬きした。
「なにか………急に……ねむく…」
「っと」
 ふゆふゆと倒れ込んだユーノの体を、アシャは柔らかく支えた。肩にユーノが頭をもたせかけてくる。首筋をくすぐる髪に、アシャは薄く笑う。
「役得だな」
 本当ならそのまましばらく抱き込んでいて温もりや吐息を楽しみたいところだが、傷によくないのは重々承知、くうくうと気持ちよさそうな寝息をたてだしたユーノを、未練がましくゆっくりとベッドに横たえる。
「いくら俺の腕が良くてももたんだろ?」
 独り言は使った薬の性質の悪さに対する言い訳だ。
「まあ恨んでくれても全く構わんが」
 それだけ俺にこだわり執着してくれるということだからな、とにっこりしかけて、はたと自分の願いの屈折に気づく。
「ああ、いや、そうじゃなくてだな」
 できればサルトのように、自分の命を任せて悔いない相手とか。いやもっとはっきり言ってしまえば、唯一自分の全てを開こうとする相手とか。
「…ん」
「つまり俺は」
 お前が欲しいということだ。
 低く囁いて、軽くユーノの額を指で突く。
 伏せた瞼が青白い。唇がうっすら開いている。眠っている表情は当たり前の少女の顔、それを見つめているうちに、アシャは思わず知らずユーノの花嫁姿を想像している自分に気づいて苦笑する。
(ミネルバが知ったら、さぞかし嗤うだろう)
 ラズーンでは、アシャは腕のたつ剣士として、冷静な医術師として、その並ならぬ美貌で、かてて加えてその特殊な称号(クラノ)で知られている。彼を追い回す女性は後をたたなかったが、誰一人生涯の相手として選んだことはない。女性が欲しくなかったわけではない、それよりも厳しい選択が常に頭の隅にあったからだ。
 ついた二つ名が『氷のアシャ』、どれほど物腰柔らかく笑顔は甘くとも、人の心の情熱は持ち合わせぬ者としても、アシャはよく知られていたのだが。
(その俺が)
 これほど一人の娘を守りたいと思っている。側に居ることさえ望まれていないのに、その指先の一つでも傷つけられることに我慢できない怒りが湧く。見つめられることも滅多にないのに、視界の端に入ればいいなどと、自分のどこにこれほど殊勝な気持ちが封じられていたのだろう。
 特別な称号(クラノ)を持っていても、その命が人とは違っていても、心は心に呼応して誰かを求めてしまうのか。
「……」
 ユーノは邪気なく眠り続けている。
(今なら何も気づかない)
 そう、何をされても、気づかないだろう、深い眠り。
 そうっとうやうやしく頭を下げていく。
 温かで尊いこの宝石に敬意を表するだけだ、狡さも欲望もない、そう己をごまかしながら。
「ユーノ…」
 お前を少し、くれ。
「おーい! 飯だぞ、アシャ!」
 突然、部屋の外からイルファの浮き立った声が轟いた。
「……」
 触れそうな肌を目の前にアシャは固まる。それでも名残惜しく、離れ難く俯いていたが、
「アシャーっ!」
 響き渡る大声は苛立ってなお大きくなる。
「……はぁ」
 体を起こしつつ、がっくりと項垂れた。
「アシャぁああ!」
「今行くっ!」
 どうせこういうことになるんだ。
「行けばいいんだろっ、行けばっっっっ!!!」
 神々は俺に何の恨みを抱いている。
 アシャはきりきりしながらユーノの側を離れた。

(…甘い……息…)
 ユーノはぼんやりまどろみながら考えている。
(誰……? ……頬に……微かに……でも……ひどく近くに……そっと…)
 抱きとめられている、そんな温もりを感じて眉をひそめる。
 そんなことがあるはずはない。だが、打ち消す心を揺らすように温もりは静かに熱を増していく。
 その温もりにもし名前をつけるとしたら。
(ア…シャ…)
 そっと呼んで、夢の中、ユーノは慌てて口を両手で押さえる。同時にずきりと両腕と腹に灼熱感が走り、体を強張らせた。
(あ……つ……っ…)
 口を覆った手をそろそろと降ろし、体の両側へ力を抜いて投げ出してじっとする。だが、痛みは絶え間なくユーノの神経に牙をたててくる。
(ん、…ん……っ)
 唇を噛む。呻くことさえ焼けた金属の棒を押し当てられたような痛みに繋がり、呼吸を喘がせた。
(でも……寝てるわけには…いかない…)
 熱いうねりの同心円が幾重にも体を浸していって、意識を陽炎のようにぼやけさせる。遠い場所から逃げようのない圧迫感を伴っためまいが、緩やかにけれど確実に、繰り返しユーノの感覚を砕いていく。
(気を……失い……そうだ…)
 痛みに閉ざされた闇の中で、ユーノはなおも抵抗を続ける。眠っていても体のどこかは起きていてくれるはずだ。だが、今迫ってくる闇はユーノの全てを眠り込ませてしまうような危うさに満ちている。
(違う…こと……考えなくちゃ……何か……違う……こと…)
 空間が大きく揺れた。感覚全てが揺さぶられる。歯を食い縛る。底のない泥沼に呑み込まれていく意識は、脆く頼りなく、確保する先から崩れていく。
(違う……こと…)
 汗が額を滑り落ちていく感覚が僅かに戻る。
(汗…かいて、る………あ、うっ!)
 ふいに激痛に意識が吹き飛ばされた。ガジェスの爪のように心に食い込んで、切れ切れになるまで引き裂いていく炎の感覚だ。体のどこにも力が入らない。溶けていく平面にぐったりと身を任せながら、暴走していく痛みを感じるのが精一杯だ。心のどこかが絶叫している。頬に熱いものが流れていく。閃光のように、溝虫(エグルガ)のように、意識をぼろぼろに食い千切っていく苦痛、苦痛、苦痛…。
「はっ…」
 激しく息を吐いて、堪えきれずにユーノを目を開けた。引きむしらんばかりに掴んでいた掛け物に気づいて、指の力を緩めようとしたが、再び襲って来た痛みに息を呑んで掴み直す。閉じた目の奥で光の玉が無数に砕けた。
「あ……あ…っ」
 思わず漏らした声は人の気配を感じなかったため、しかしそれに対して穏やかな声が応じた。
「大丈夫かい?」
「…っ!」
 いつもよりは数瞬、遅れた。だが痛みを凌ぐ危機感に攫われて、近くに置かれていた剣を掴んで引き寄せ、跳ね起きる。
「!!」
「だ…れ…っ」
 目の前にユーノと同い年ぐらいに見える少年が居た。息を弾ませながら誰何したユーノに、淡い色の髪の下で、人なつこそうな青い瞳を瞬いた。体を固くしつつ、
「僕、ハイラカって言うんだけど…」
 ためらいながら、心配そうに首を傾げる。
「ねえ、大丈夫かい、君。かなり苦しそうだけど」
(ハイラカ…)
 剣の柄を握りしめたまま、どこかで聞いた名前だ、とユーノは考えた。
「僕、何もしないよ」
 ハイラカが静かに続けた。
「剣って、扱ったことがないんだ」
 ユーノの目に、机の上に置かれた焼き物の水入れと器、枕元に落ちた濡れ手拭いが映る。
「…ひょっとして…君が……世話を……?」
「ああ」
 ハイラカは柔らかに微笑した。
「呻き声が聞こえたから……覗いたら、あんまり君が苦しそうだったから…つい、ね」
 そのまま近寄ってきて、ぐいと手を突き出す。
「改めて。僕はハイラカ・コジャン。よろしく」
 人を信じ切った無防備な態度、つられてユーノも剣を手から離した。差し出されたハイラカの手を握る。
「ひどい傷らしいね……熱がある。寝てた方がいいよ」
「う…ん」
 ユーノはのろのろと横になった。ハイラカは当たり前のように手拭いを拾い、水に浸して絞り直し、ユーノの額に載せてくれる。
「あり…がとう…」
「君の名前は?」
「……ユーノ…」
「ユーノ、か。いい名前だね、まっすぐで強そう」
 ハイラカのことばに苦笑する。
「君も旅をしてるんだってね。僕はこれからラズーンに行くところなんだけど、君は?」
「あ…」
 にっこり笑った相手の顔に、ユーノはダノマでのことを思い出した。そう言えば、ダノマからラズーンへ向かって旅立った者の名前もハイラカと言ったはずだ。
(じゃあ、この人も『銀の王族』…)
「あ、無理に言わなくてもいいよ?」
 ユーノの沈黙をハイラカは別の意味に解釈した。
「僕にはラズーンから遣いが来たんだ。若者達を何年かに一度、勉学のためにラズーンに招待しているんだそうだ。今まで聞いたことがなかったけれど、なるほどそうやって、中央の進んだ知識や技術を地方に伝えているんだね。僕がどうして選ばれたのかは知らない。でも幸運だったな。きっとすばらしい所なんだろう。使者の方はとても丁寧だったよ」
 ハイラカはあけっぴろげな生き生きとした表情で笑った。
(この世の幸福を約束された『銀の王族』…)
 いつか聞いたことばがユーノの胸に蘇る。
 今ではユーノも、ラズーンが『銀の王族』と呼ばれる人間達を集めていることを知っている。ハイラカが教えられたように、若者達の研鑽のためというには厳密すぎる選定基準のことも。そして、それに視察官(オペ)という役職が絡んでいることも。
(でも、一体何のために)
 『銀の王族』とは一体何なんだろう?
「ユーノ?」
「ああ…ごめん……」
 ごくり、と唾を呑む。ハイラカはもう少し何かを知っているだろうか?
「実はボクも…ラズーンへ行く途中なんだ」
「へえ! やっぱり、ラズーンからの遣いが来て?」
「いや、そういう…わけじゃない…けど」
 曖昧にことばを濁して、仲間を見つけたと嬉しそうなハイラカに尋ねる。
「君は一人で…旅してるの…?」
「ううん。ボクの所へ来た遣いの方と一緒なんだ」
 ハイラカはああ、そうだ、と思いついたように微笑んだ。
「最近、あちこち物騒になったそうだから、もし君さえよければ、一緒に行こうか? 人数が多い方が安全かもしれないし」
 人数が多いから安全。
 たぶん、ハイラカもしばらく行動を共にすれば、それが大きな間違いだとわかるだろう。少なくとも、ユーノと同行するのは安全どころか、危険を引き寄せて歩くようなものだ。
「いや…ちょっと……無理……かも」
(私と居ることは危険以外のなにものでもない)
「……んっ…」
 落ち込みが刺激したのか、またぶり返してきた痛みに眉を寄せて目を閉じる。
「苦しいのかい? ごめんね、無理をさせたみたいだな」
 ハイラカの声が遠くにうねった。
「今お兄さんを呼んでくるね」
「……え…?」
「お兄さんだろ? 違うのかな? さっきまで君の面倒を見てた、金色の髪の。……そういえば、あまり似てないね?」
「兄、だよ」
 苦しい息を整えながら吐き捨てた。
「おせっかいで……性格の悪い、兄、き……」
 再び波のように振幅を増してくる痛みの理由にようやく思い至る。回復期に入っているはずなのに、これほど苛立ち神経を疲れさせる痛みは経験したことがない。
(アシャの…やろ……)
「悪いけど……呼んできて…くれる…」
 再び競り上がってくる痛みに気を失うしかないかもしれないし、それはアシャの意図した深い眠りに続くものだろうけど。
(人の体に…何してくれる……)
 一言罵倒してやりたい。
「わかった。待っててね」
 ハイラカが慌てたように側から離れていくのを喘ぎながら見送ると、それほど待つまでもなくアシャが入ってくる。案の定、ユーノが苦しそうなのを見ても、顔色一つ変えずに屈み込んできた。
「苦しいか」
「アシャ…」
 じろりと見上げる。
「薬……盛ったろ…」
「わかったか」
 うっすらと危ない微笑がアシャの目元に広がって呆れた。
「わかるよ…あんな風に……ボクは……眠り込まないし……この……いた、み…」
 きつ、すぎる、だろ…っ。
 アシャが使ったのは神経過敏をもたらす薬だ。痛みを増幅させ、疲労を増やし、少々のことでは飛び起きて動こうとしてしまうユーノを徹底的にくたくたにさせて、とことんまで眠り込ませようという魂胆なのだ。
「ただ眠らせただけでは起きるだろうが」
「…く…っ」
 自業自得だと言いたげな苦笑にむかつくが、意識はどんどん痛みに侵蝕されていく。
「それでも……医術…師…かよ」
「ラズーン随一、有能だと言われたが?」
 冷笑にも見える表情が、こんなときにもなお綺麗で。
(くやしい…)
 きっとレアナ姉さまならもっと優しく扱った、そんなことはわかっているけど。
「彼は……ハイラカと……言った」
 引き込まれる意識を必死に引き戻しながら続ける。
「…ラズーンへ……行くと…」
 気を失う前に一つ確かめておきたいことがある。
「……ハイラカも……『銀の王族』……?」
「そうだ」
 問いを予測していたように、アシャの表情は静かだった。
「ラズーンは…『銀の王族』を……集めてる……?」
「そうだ」
「……そのわけを………」
 あなたは知ってるの?
 一瞬沈黙したアシャの深沈とした紫の瞳が、まっすぐにユーノを貫き、やがて静かに閉じられる。そこに浮かんだのは無言の肯定、そして、ユーノが知るべき事柄ではないと知らせる、圧倒的な拒否。
「やっぱり…ね…」
 ラズーンの意図。
 それを知る『ただの旅人』など、居るものか。
(やっぱり、アシャは…)
 ラズーンの何かと大きく関わっている人なんだ。
 ようやくそれだけの思考をまとめて、ユーノは湖に沈む小石のように一気に意識を失った。
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