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7.『晶石の谷』(1)
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穴の中はかなり広い。声が遠くで反響するのがわかる。だが、壁がどこからどう繋がっているのか、漏れる光だけではよくわからない。
「アシャ達はボク達が落ちたことを知ってるかな」
「知らないだろう、かなり距離もあったし、それどころじゃないはずだ。……こうしている間にも、アルトが!」
苛立った顔でリークが悔しげな叫びを上げる。
「失うわけにはいかないのに!」
「リーク」
ユーノはごくりと唾を飲んだ。
「あなたも視察官(オペ)なのかい?」
「!」
どきりとした顔でユーノを見返したリークが、うろたえたように視線を逸らせる。
「……ここから出られそうにないよね、ボク達。助けも来ないかも知れない。……ならせめて、死に土産にボクの質問に応えてもらえないかな」
「……」
「何もわからず死にたくないよ」
「……ああ」
苦しそうに唸ったリークが疲れた顔で次第に温もりが消えてくる雪白(レコーマー)の側に腰を降ろす。
「…そう、だろうな」
絞り出すような呻き、思った通り、それほど意志力が強い人間ではないようだ。
「その気持ちはわかるよ」
アルトも同じように聞くだろうから。
低い声に、いささか済まないと思いつつ、ユーノはつけ込む。
「誰だって、自分のこの先に、何が待っていたのか知りたいよ……助かる可能性はない、だろう」
少し怖いんだ、と付け加える。
「何か違う事を考えていたい」
「……わかった」
リークが溜め息をついた。
「あなたは視察官(オペ)?」
「ああ」
「視察官(オペ)って、何だい? ラズーンの使者?」
「その役目もあるがね」
リークは鈍い反応を返した。
「と言うと?」
「視察官(オペ)は……ラズーンより派遣された治安維持官だと思えばいい。そのために、特殊な戦闘法とラズーン技術の最先端を身につけていることが要求されているんだが」
私はそれほど優れた視察官(オペ)ではないよ、と嗤った。
「医術師の腕も?」
「まあ、それはほんの一部だ」
リークはもう一度深く溜め息をついた。
「ラズーンの二百年祭のために、世界に散った『銀の王族』を『運命(リマイン)』の手から守り、ラズーンへ無事連れ帰ることも、その任務だ」
「連れ、帰る?」
思わぬことばにユーノは眉を寄せた。
「そう、元々、彼らはラズーンの子、だからな」
「ラズーンの子……?」
自分の出自を考え、思わず軽く首を振る。
(そんなことない、だって私はセレドで生まれ、セレドで育った)
他の『銀の王族』は知らないが。
(ひょっとして、私は……『銀の王族』じゃない、とか…?)
「『銀の王族』って……この世の幸福を約束された『銀の王族』のこと、だよね?」
「そうだ……よく知っているな」
リークは気だるげに驚いた。
「だが、それだけじゃない。それは『銀の王族』を守るための条件付けでしかないよ」
「じゃあ」
ユーノは息を詰め、そっと吐き出した。
「何なの、『銀の王族』って」
今、知りたかった謎の一つがついに明らかになる。
「アシャ達はボク達が落ちたことを知ってるかな」
「知らないだろう、かなり距離もあったし、それどころじゃないはずだ。……こうしている間にも、アルトが!」
苛立った顔でリークが悔しげな叫びを上げる。
「失うわけにはいかないのに!」
「リーク」
ユーノはごくりと唾を飲んだ。
「あなたも視察官(オペ)なのかい?」
「!」
どきりとした顔でユーノを見返したリークが、うろたえたように視線を逸らせる。
「……ここから出られそうにないよね、ボク達。助けも来ないかも知れない。……ならせめて、死に土産にボクの質問に応えてもらえないかな」
「……」
「何もわからず死にたくないよ」
「……ああ」
苦しそうに唸ったリークが疲れた顔で次第に温もりが消えてくる雪白(レコーマー)の側に腰を降ろす。
「…そう、だろうな」
絞り出すような呻き、思った通り、それほど意志力が強い人間ではないようだ。
「その気持ちはわかるよ」
アルトも同じように聞くだろうから。
低い声に、いささか済まないと思いつつ、ユーノはつけ込む。
「誰だって、自分のこの先に、何が待っていたのか知りたいよ……助かる可能性はない、だろう」
少し怖いんだ、と付け加える。
「何か違う事を考えていたい」
「……わかった」
リークが溜め息をついた。
「あなたは視察官(オペ)?」
「ああ」
「視察官(オペ)って、何だい? ラズーンの使者?」
「その役目もあるがね」
リークは鈍い反応を返した。
「と言うと?」
「視察官(オペ)は……ラズーンより派遣された治安維持官だと思えばいい。そのために、特殊な戦闘法とラズーン技術の最先端を身につけていることが要求されているんだが」
私はそれほど優れた視察官(オペ)ではないよ、と嗤った。
「医術師の腕も?」
「まあ、それはほんの一部だ」
リークはもう一度深く溜め息をついた。
「ラズーンの二百年祭のために、世界に散った『銀の王族』を『運命(リマイン)』の手から守り、ラズーンへ無事連れ帰ることも、その任務だ」
「連れ、帰る?」
思わぬことばにユーノは眉を寄せた。
「そう、元々、彼らはラズーンの子、だからな」
「ラズーンの子……?」
自分の出自を考え、思わず軽く首を振る。
(そんなことない、だって私はセレドで生まれ、セレドで育った)
他の『銀の王族』は知らないが。
(ひょっとして、私は……『銀の王族』じゃない、とか…?)
「『銀の王族』って……この世の幸福を約束された『銀の王族』のこと、だよね?」
「そうだ……よく知っているな」
リークは気だるげに驚いた。
「だが、それだけじゃない。それは『銀の王族』を守るための条件付けでしかないよ」
「じゃあ」
ユーノは息を詰め、そっと吐き出した。
「何なの、『銀の王族』って」
今、知りたかった謎の一つがついに明らかになる。
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