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第1章 『竜は街に居る』
5.堂々巡り「命なんてかけられない」(2)
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TV画面が色とりどりの虹を吐く。見つめる舜の目の前で、
『そんな、呪文なんか、無理無理無理、絶対無理だってえ~~~!』
情けない声が響き渡る。
『いきなり飛ばされた魔法学校で呪文を唱えなくては暮らして行けないんだが~無口な賢者覇道を行く~』の番宣だ。
「お兄ちゃんの声だなんて思えないね」
藍那が冷ややかに断言した。
「普段のキャラクターと全然違う」
「これはかなり無理して作ったから」
舜は引きつりながら苦笑いした。
「10代で一人っ子で、オタク系帰宅部根性なしの眼鏡男子、暗記モノが致命的にダメで勉強も下から数えた方が早くて、運動神経も自転車になんとか乗れるレベル、なのに大賢者になるなんて無茶振りにもホドがあるよねえ」
藍那はポテチを咥えたままでちらりと舜を眺めた。
「ほぼ正反対の役柄やるの、楽しい?」
「似てるよ、少し、人の名前覚えられないとか」
「そこだけね」
「それに、役をやったんじゃなくて、この番宣だけだったし、代役だったから」
元々この主役を射止めたのは知り合いの知り合い、もちろん番宣もそいつがするはずだったのに、直前になってインフルエンザをこじらせて入院、本編収録には間に合うけれど、急に決まった原作とコラボの番宣に、似た声はいないかと泣きつかれて試しにやって見ただけだ。
「それでも、この子の声に聞こえる。本編、まだ知らないけど、ピッタリって感じするよ」
「ありがと」
「今日はどこ行くの?」
藍那に聞かれて戸惑う。
「えーと…」
「また『竜夢』?」
「あ…うん」
「…いい加減に見切りつけたら?」
藍那は続く画面を見詰める。
「この作品だって、頑張ったらお兄ちゃん、役もらえたんじゃない?」
「そんな簡単なものじゃないよ、オーディションだってあるし、せっかく手に入れた友達の仕事を取るわけにいかないし」
「じゃあ、お兄ちゃん、他にどんな仕事できんの?」
「う」
「役者しかできないヒトなんだから、ワガママやって奪ってもいいじゃない」
「うん……」
けれど。
口ごもった気配に藍那が振り返る、
「何?」
「その、ときめき、を感じないって言うか」
「は?」
「この役柄、読めちゃうな、って言うか」
「……お兄ちゃん」
うんざりと言う顔で唸られる。
「今時、小学生でも、好き嫌いで仕事しないから」
小学生でも好き嫌いで仕事しないって、何だろう。
溜息をつきながら、舜は図書館の階段を上がる。
図書館の入り口近くの掲示板にも、『いき暮ら』のミニポスターが貼ってあった。ラノベベースのアニメだし、最近の図書館はラノベのコーナーも充実してるし、当然といえば当然だが、立ち止まってキャラクターと、そこに書かれている台詞を眺めていると気落ちしてくる。
『そんな、呪文なんか、無理無理無理、絶対無理だってえ~~~!』
たった1行、しかも1回きりの代役であっても、候補は数人選出されていた。地元のアニメ会社が噛んでるせいもあって、地方で流れるだけではなくネット媒体で全国進出も夢ではないと、売れていないプロ声優も役者志望も混じっていた。
名前は出ないが足掛かり。
そう言う気配のやっつけ仕事感覚も混じる人間の中で、原作を読み込み、アニメ化になった経緯やアニメになって変更された部分の情報を集め、しっかり作り込んで行った舜が選ばれたのは当然なのかもしれない。
それでもその後、舜に掛かる声はなかったし、舜も粘って他の役を掴もうとは思わなかった。
チャンスじゃなくて、お試し。
向こうもそうだったが、舜もそうだったのだ。
作ることはできたが、本編をやれるかと言われれば無理だと答えただろう。
まず、主人公の言動が理解できなかった。
『そんな』は抵抗と否定。『呪文なんか』も抵抗と否定。『無理無理無理』も抵抗と否定。『絶対無理だって~~~!』も特大級の抵抗と否定。
それをできるだけ明るい声で弾けるように演じて欲しいと言われた。
舜にはできなかった。抵抗と否定をめいっぱい並べて、それでも逃げ場がなくて頑張らざるを得ない自分が情けなくて、けれど頑張るしかないから気を張って、の結論として、情けない声でけれども澱まず怯まず言い切った。
こんな世界は自分に受け入れらないから、でもその世界で生きていくしかないから、何があってもどこまでも嫌だと言い続けてやる、的な。
だから、本編では世界を掌握し全てを支配する王になろうとする主人公の心情とはかけ離れているし、あり得ない台詞になってしまったから、本編を引き受けるのは無理だとわかっていた。
いや。
「…ふぅ」
溜息一つ、首を振って中に入る。
違う。藍那が正しい。わかっている。
あの主人公を舜は理解できなかった。納得できなかった。役者としての命なんて賭けられない。だから演じられないと思い、身を引いて。
『竜夢』と同じだ、寺戸と同じだ。いつの間にか、自分の想定範囲内で演じられるものばかり探している、だから寺戸の魔法を期待している、自分の殻を打ち破らせてくれるものが何かないかと見回している、自分は変われる場所から逃げたのに気づかない顔をして。
今回のカザルだって、きっとがっかりしてるのだ、意外に結易々と簡単に手に入る気配が濃厚で。スープと似ている、組織を裏切り恋人を裏切り何もかも破壊して行く破滅の竜カザル・シュン、だからなんとかやれるんじゃないかと思っている。
所詮全ては絵空事、日常の刺激的なスパイス、人生の中では幻の、演劇という思い込みの篭に囚われ踊るだけの虚ろな役者、どれだけことばを重ねても、生きて行くこととは無関係な。
なんて孤独な仕事だろう。
藍那に言われるまでもなく、仕事らしい仕事もできない役立たずな人間だ。
のろのろと顔を上げる。
「…っ」
『そんな、呪文なんか、無理無理無理、絶対無理だってえ~~~!』
情けない声が響き渡る。
『いきなり飛ばされた魔法学校で呪文を唱えなくては暮らして行けないんだが~無口な賢者覇道を行く~』の番宣だ。
「お兄ちゃんの声だなんて思えないね」
藍那が冷ややかに断言した。
「普段のキャラクターと全然違う」
「これはかなり無理して作ったから」
舜は引きつりながら苦笑いした。
「10代で一人っ子で、オタク系帰宅部根性なしの眼鏡男子、暗記モノが致命的にダメで勉強も下から数えた方が早くて、運動神経も自転車になんとか乗れるレベル、なのに大賢者になるなんて無茶振りにもホドがあるよねえ」
藍那はポテチを咥えたままでちらりと舜を眺めた。
「ほぼ正反対の役柄やるの、楽しい?」
「似てるよ、少し、人の名前覚えられないとか」
「そこだけね」
「それに、役をやったんじゃなくて、この番宣だけだったし、代役だったから」
元々この主役を射止めたのは知り合いの知り合い、もちろん番宣もそいつがするはずだったのに、直前になってインフルエンザをこじらせて入院、本編収録には間に合うけれど、急に決まった原作とコラボの番宣に、似た声はいないかと泣きつかれて試しにやって見ただけだ。
「それでも、この子の声に聞こえる。本編、まだ知らないけど、ピッタリって感じするよ」
「ありがと」
「今日はどこ行くの?」
藍那に聞かれて戸惑う。
「えーと…」
「また『竜夢』?」
「あ…うん」
「…いい加減に見切りつけたら?」
藍那は続く画面を見詰める。
「この作品だって、頑張ったらお兄ちゃん、役もらえたんじゃない?」
「そんな簡単なものじゃないよ、オーディションだってあるし、せっかく手に入れた友達の仕事を取るわけにいかないし」
「じゃあ、お兄ちゃん、他にどんな仕事できんの?」
「う」
「役者しかできないヒトなんだから、ワガママやって奪ってもいいじゃない」
「うん……」
けれど。
口ごもった気配に藍那が振り返る、
「何?」
「その、ときめき、を感じないって言うか」
「は?」
「この役柄、読めちゃうな、って言うか」
「……お兄ちゃん」
うんざりと言う顔で唸られる。
「今時、小学生でも、好き嫌いで仕事しないから」
小学生でも好き嫌いで仕事しないって、何だろう。
溜息をつきながら、舜は図書館の階段を上がる。
図書館の入り口近くの掲示板にも、『いき暮ら』のミニポスターが貼ってあった。ラノベベースのアニメだし、最近の図書館はラノベのコーナーも充実してるし、当然といえば当然だが、立ち止まってキャラクターと、そこに書かれている台詞を眺めていると気落ちしてくる。
『そんな、呪文なんか、無理無理無理、絶対無理だってえ~~~!』
たった1行、しかも1回きりの代役であっても、候補は数人選出されていた。地元のアニメ会社が噛んでるせいもあって、地方で流れるだけではなくネット媒体で全国進出も夢ではないと、売れていないプロ声優も役者志望も混じっていた。
名前は出ないが足掛かり。
そう言う気配のやっつけ仕事感覚も混じる人間の中で、原作を読み込み、アニメ化になった経緯やアニメになって変更された部分の情報を集め、しっかり作り込んで行った舜が選ばれたのは当然なのかもしれない。
それでもその後、舜に掛かる声はなかったし、舜も粘って他の役を掴もうとは思わなかった。
チャンスじゃなくて、お試し。
向こうもそうだったが、舜もそうだったのだ。
作ることはできたが、本編をやれるかと言われれば無理だと答えただろう。
まず、主人公の言動が理解できなかった。
『そんな』は抵抗と否定。『呪文なんか』も抵抗と否定。『無理無理無理』も抵抗と否定。『絶対無理だって~~~!』も特大級の抵抗と否定。
それをできるだけ明るい声で弾けるように演じて欲しいと言われた。
舜にはできなかった。抵抗と否定をめいっぱい並べて、それでも逃げ場がなくて頑張らざるを得ない自分が情けなくて、けれど頑張るしかないから気を張って、の結論として、情けない声でけれども澱まず怯まず言い切った。
こんな世界は自分に受け入れらないから、でもその世界で生きていくしかないから、何があってもどこまでも嫌だと言い続けてやる、的な。
だから、本編では世界を掌握し全てを支配する王になろうとする主人公の心情とはかけ離れているし、あり得ない台詞になってしまったから、本編を引き受けるのは無理だとわかっていた。
いや。
「…ふぅ」
溜息一つ、首を振って中に入る。
違う。藍那が正しい。わかっている。
あの主人公を舜は理解できなかった。納得できなかった。役者としての命なんて賭けられない。だから演じられないと思い、身を引いて。
『竜夢』と同じだ、寺戸と同じだ。いつの間にか、自分の想定範囲内で演じられるものばかり探している、だから寺戸の魔法を期待している、自分の殻を打ち破らせてくれるものが何かないかと見回している、自分は変われる場所から逃げたのに気づかない顔をして。
今回のカザルだって、きっとがっかりしてるのだ、意外に結易々と簡単に手に入る気配が濃厚で。スープと似ている、組織を裏切り恋人を裏切り何もかも破壊して行く破滅の竜カザル・シュン、だからなんとかやれるんじゃないかと思っている。
所詮全ては絵空事、日常の刺激的なスパイス、人生の中では幻の、演劇という思い込みの篭に囚われ踊るだけの虚ろな役者、どれだけことばを重ねても、生きて行くこととは無関係な。
なんて孤独な仕事だろう。
藍那に言われるまでもなく、仕事らしい仕事もできない役立たずな人間だ。
のろのろと顔を上げる。
「…っ」
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