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第1章 『竜は街に居る』
5.堂々巡り「命なんてかけられない」(3)
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瞬間、まるで物語の中に飛び込んだような気がした。
白い図書館の光の中、中央テーブルに分厚い本を周囲に積み上げ、何かにしきりと書き込んでいる禄。眼鏡に日差しが乱反射している。ボサボサの髪、時にそれを掴みながら、眉を寄せて、立ちすくむ舜にも気づかない。
ああ、こんな場面があった。
『いき暮ら』で、呪文を唱えないと生きていけないと知った主人公が、致命的な暗記能力で必死に最小限の呪文を覚えようとする場面だ。取った方法は書き写し。何百回も書き写す地道な作業、ようやく得たのは水を得る魔法で、一口喉を潤すだけの水量を出現させたその時に、光が差して虹ができるのだ、小さな小さな虹が。
「…そっか…」
『そんな、呪文なんか、無理無理無理、絶対無理だってえ~~~!』
あの台詞は世界に対する拒否として表現することもできる。けれど、それを『明るく弾ける』ように言い放つことで、主人公の中にある強さを表現できたのかも知れない。本編で描かれる、人が容易く手に入れることができるものも呆れるほどの労力を重ねて勝ち取って行く主人公の逞しさを見せたり、この主人公なら困難を切り開いていけるという期待を煽ることができたかも知れない。
ふらりと近づいて行く。
「やめ…よかな…」
囁き声が聞こえて、思わず屈み込んだ。
「やめちゃうの?」
「っ」
「あ」
うろたえたように振り向いた禄の凝視に慌てる。
「…ごめん、何を言うつもりだったんだろう」
戸惑った瞬間、舜は『いき暮ら』の中に居た。主人公が呪文の習得に疲れ果て、諦めようとしたときに、背後から呼びかけた魔法使いになった気がした。台詞はこう続く。『やめちゃうの? じゃあここで君はこの世界から消えるんだね』
主人公はどう答えたか。
考えた瞬間に、驚きの余り眼鏡をずらせた禄が呟く。
「そんなの、無責任だよね…?」
『そんなの、無責任だよ』
『いき暮ら』の中の台詞が舜の耳の奥に聞こえた。
同じ台詞、なのに違う内容に聞こえた。
違う内容、なのに、『いき暮ら』と今とに完全に重なり合っていくのを感じた。
呆然として禄を見る。
これは何? 何が起こっている?
「『…どうして…?』」
くらくらしながら、舜は呟く。自分が台詞を口にしているのか、本当に話しているのか、わからなくなってくる。
「あ…だって……みんなが選んでくれたんだし…」
『だって、みんなが選んでここに居るんだろ』
ことばが聞こえる。台詞が聞こえる。応じる、約束されたように。
「『君次第だよ』」
胸の鼓動が激しい。息が上がる。こんなにひどい状態になったのは初舞台以来じゃないだろうか。今ここは舞台なのか、それとも現実なのか。
禄は瞬きした。睫毛が長い。静かに伏せられ、ちらりとテーブルに広げられたものに視線が飛んだ気がした。やがて再び瞳が開かれ、唇が開く。
「『鍛錬が足りないな』」
ぞわりと舜の中の何かが撫で上げられ、寒気がする。禄は気づかない。静かな顔で、
「手伝ってくれる…?」
『手伝ってくれるなら……頑張るけど』
返答は1つだ。舜はためらうことなく返す。
「…『もちろん……だって、私は、君をこの世界に召喚した1人なんだからね』」
「…へ?」
禄がぽかんとした。
「しょうかん……って?」
「うわっ」
舜は我に返った。戸惑う禄に一気に顔が過熱する。禄が必死に考え込み、
「えーと、その、魔法とかそう言う類の、やつかな、最近何処かで見た気が、待ってね」
ようやく思い出した顔で笑う。
「ああ、『いきなり飛ばされた魔法学校で呪文を唱えなくては暮らして行けないんだが~無口な賢者覇道を行く~』とか!」
「っ……そんな…っ……人から指摘なんて無理無理無理………絶対無理だってえ~~~!」
真っ赤になって顔を押さえた舜の口から、CMで流れる台詞がバージョン違いで響き渡った。
白い図書館の光の中、中央テーブルに分厚い本を周囲に積み上げ、何かにしきりと書き込んでいる禄。眼鏡に日差しが乱反射している。ボサボサの髪、時にそれを掴みながら、眉を寄せて、立ちすくむ舜にも気づかない。
ああ、こんな場面があった。
『いき暮ら』で、呪文を唱えないと生きていけないと知った主人公が、致命的な暗記能力で必死に最小限の呪文を覚えようとする場面だ。取った方法は書き写し。何百回も書き写す地道な作業、ようやく得たのは水を得る魔法で、一口喉を潤すだけの水量を出現させたその時に、光が差して虹ができるのだ、小さな小さな虹が。
「…そっか…」
『そんな、呪文なんか、無理無理無理、絶対無理だってえ~~~!』
あの台詞は世界に対する拒否として表現することもできる。けれど、それを『明るく弾ける』ように言い放つことで、主人公の中にある強さを表現できたのかも知れない。本編で描かれる、人が容易く手に入れることができるものも呆れるほどの労力を重ねて勝ち取って行く主人公の逞しさを見せたり、この主人公なら困難を切り開いていけるという期待を煽ることができたかも知れない。
ふらりと近づいて行く。
「やめ…よかな…」
囁き声が聞こえて、思わず屈み込んだ。
「やめちゃうの?」
「っ」
「あ」
うろたえたように振り向いた禄の凝視に慌てる。
「…ごめん、何を言うつもりだったんだろう」
戸惑った瞬間、舜は『いき暮ら』の中に居た。主人公が呪文の習得に疲れ果て、諦めようとしたときに、背後から呼びかけた魔法使いになった気がした。台詞はこう続く。『やめちゃうの? じゃあここで君はこの世界から消えるんだね』
主人公はどう答えたか。
考えた瞬間に、驚きの余り眼鏡をずらせた禄が呟く。
「そんなの、無責任だよね…?」
『そんなの、無責任だよ』
『いき暮ら』の中の台詞が舜の耳の奥に聞こえた。
同じ台詞、なのに違う内容に聞こえた。
違う内容、なのに、『いき暮ら』と今とに完全に重なり合っていくのを感じた。
呆然として禄を見る。
これは何? 何が起こっている?
「『…どうして…?』」
くらくらしながら、舜は呟く。自分が台詞を口にしているのか、本当に話しているのか、わからなくなってくる。
「あ…だって……みんなが選んでくれたんだし…」
『だって、みんなが選んでここに居るんだろ』
ことばが聞こえる。台詞が聞こえる。応じる、約束されたように。
「『君次第だよ』」
胸の鼓動が激しい。息が上がる。こんなにひどい状態になったのは初舞台以来じゃないだろうか。今ここは舞台なのか、それとも現実なのか。
禄は瞬きした。睫毛が長い。静かに伏せられ、ちらりとテーブルに広げられたものに視線が飛んだ気がした。やがて再び瞳が開かれ、唇が開く。
「『鍛錬が足りないな』」
ぞわりと舜の中の何かが撫で上げられ、寒気がする。禄は気づかない。静かな顔で、
「手伝ってくれる…?」
『手伝ってくれるなら……頑張るけど』
返答は1つだ。舜はためらうことなく返す。
「…『もちろん……だって、私は、君をこの世界に召喚した1人なんだからね』」
「…へ?」
禄がぽかんとした。
「しょうかん……って?」
「うわっ」
舜は我に返った。戸惑う禄に一気に顔が過熱する。禄が必死に考え込み、
「えーと、その、魔法とかそう言う類の、やつかな、最近何処かで見た気が、待ってね」
ようやく思い出した顔で笑う。
「ああ、『いきなり飛ばされた魔法学校で呪文を唱えなくては暮らして行けないんだが~無口な賢者覇道を行く~』とか!」
「っ……そんな…っ……人から指摘なんて無理無理無理………絶対無理だってえ~~~!」
真っ赤になって顔を押さえた舜の口から、CMで流れる台詞がバージョン違いで響き渡った。
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