『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第1章 『竜は街に居る』

5.堂々巡り「命なんてかけられない」(5)

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「う、わ、体、柔らかっ」
「あ、う、うん」
 連れ込んだベッドで服を脱がせにかかって、貢は満更嘘でもない声を上げた。薄いしなやかな体が貢が引っ張るままに仰け反って、Tシャツを腕の先へ滑らせていく。首筋も信じられないほど滑らかな曲線で反るのをまじまじと眺める。下着一枚の輝夜が、薄赤くなって布団の中に潜り込もうとするのを、慌てて止めた。
「待って、隠さないでよ」
「いや、だって」
 とても酒に酔っているとは思えない生真面目な黒い瞳が、困ったように瞬いて見返す。
「鍛えてもあまりに肉がつかないんだ、細くて恥ずかしいよ」
「肉がついてないんじゃない、これは」
「っ」
 貢の指が撫でるのに輝夜が震える。
「十分鍛えた筋肉だから、これほど柔らかくて滑らかなんですよ」
「そうかな」
「そうです。…おまけに敏感」
「あ」
 吐息のように微かな声が漏れて、貢の触れた部分が固くなる。首筋あたりまで赤くなった輝夜がうろたえたようにくるりと背中を向け、体を起こす。
「どうしたの?」
「止めよう、ごめん、酒癖悪いんだ、ついふらふらしたけど、考えてみると良くない」
「『竜夢』は恋愛禁止?」
「恋愛、じゃないよ」
 肘をついてベッドに寝転んだままの貢に、輝夜は肩越しに視線を投げた。悲しげな寂しげな目で、笑う。
「酔っ払った男がノンケに誘われただけの話」
「確かに僕はノンケだから」
 貢は溜息をついた。
「正直、今度の役柄が良くわかってなくて」
「…」
 輝夜が動きを止めて、続くことばに聞き耳をたてる気配がする。
「ライヤーがどうしてカークに拘るのかわからなくて困ってます」
「脚本は」
「読み終わってます、だから余計に」
 貢は傷一つない輝夜の背中を見つめる。あの背中に爪痕かキスマークをつけるのはさぞかし気持ちいいだろう。けれど、ライヤーはそんな『堕ち方』をしていない。のめり込むように溺れるようにカークに執着していく、それこそ。
「恩人で敬愛するログ・オウライカを裏切るほどに、どうしてそこまでって思っちゃってます」
「………」
 輝夜がゆっくりと振り返った。
「…彼の方が魅力的だよね」
「……ええそうですね」
 答えながら貢はおやおやと気づく。この台詞は舞台だけの話ではなさそうだ。
「オウライカはカザルを強く惹きつける」
「そうですね」
「なぜかな」
 輝夜は完全に振り向いていた。寝そべった貢を覗き込むように近づいてくる。背後に背負った灯の陰で、瞳がきらきらと光を放つ。光が裸の体を包む、空気のような指先で輝夜の肌に触れている。
「さあ?」
 ごくりと喉が鳴った。
「啼いて見せてください」
「…」
 輝夜が瞬きした。
「啼いて、尻を振って、ねだって見せて」
「その台詞は、ない…」
 掠れた声で輝夜が呟く。
「それを私に命じるのは…レグルだ」
 ぞわりと貢の身体中に寒気が走った。読み込んだ資料を記憶が勝手に参照し、画像を作り上げていく。カークは中央庁で繰り返し色々な男に抱かれていた。一番初めに語られるのが執務室の床で暴かれる場面、媚薬を使われ際限なく、カークは相手の望むままに応じ続ける。
 この身体が。
「っあっ」
 気がつけば指を伸ばして摘んでいた。膨らんでいた二つの粒は指先で容易く潰せそうで、思わず堪える。仰け反った輝夜が下着ごしに押し付けて来たものは、不快感があるどころか感触が遠くて苛立った。引き寄せて胸を口で含み、空いた手で下着を引きおろす。
「んあっ」
 耳元で濡れた声が上がった。手が滑り込んだ場所は温かく柔らかで、止められなくて両手で脚を開かせ、深く指先を進める。
「ひっ…」
「っ」
 響いた声が悲鳴と気づいて、思わず手を抜き、肩を掴んで押し上げる。
 その瞬間。
「わ…るい……」
 大きく見開いた輝夜の瞳が、一瞬に潤んだ。くしゃくしゃと歪む顔、それでも一所懸命笑おうとするように唇を上げる。慌てたように貢の両側に突いた手ががくがく震えている。いや、手だけじゃない、全身がたがた震えていて、冷や汗に濡れている。
「輝夜さん…」
「違う……違うんだ……ごめん……私は…ごめん……ごめんな……気持ち、悪かったろ……っ」
 溢れ落ちる涙、それよりもはっきりと貢の腹に滴る雫に、輝夜が何を謝っているのかわかった。
「…イっちゃった?」
 たったこれだけのやり取りと愛撫で。
「ごめ…」
 貢に両肩を捕まえられて、輝夜は真っ青になって謝っている。当たり前だ、ノンケに誘いをかけて、踏み切れなくて、しかも相手にその気がないのに、一方的に浴びせた状態、逃げ出したくなっても無理はない。
 けれど貢は。
「…ふふっ」
「……?」
 涙でびしょびしょになった目を瞬く輝夜を引き下ろす。
「あ…の…?」
「そうかイっちゃったんだ、あれだけで」
 胸に抱き込もうとして、いやそれは汚れるだろう困るだろうともがく輝夜をくるりと体を入れ替えてベッドに押し付けのしかかる。
「っ????」
「飢えてたんだね」
「え、あっ…っ???」
 囁いて、汗に濡れたこめかみと頬にキスすると、輝夜が最大級のクエスチョンマークを飛ばしながら固まってしまった。
「いいんだよ、いいの、輝夜さん…いや、陸斗」
 これほど貢を欲しがった女が居ただろうか。求めた相手が居ただろうか。
 しかもまだ何も『演じていない』のに。
 確かにそれでは命なんて賭けられない。
「なんかわかっちゃったかも」
「え、え、え?」
「ライヤーがカークにハマった理由」
 貢は上機嫌で陸斗を抱き締めて囁いた。
「一人でイかせてごめんね。もう1回、初めから教えて?」
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