『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第1章 『竜は街に居る』

6.ドキュメント方式で「聞こえないふり、していて」(5)

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「そう、かもな」
 顔を戻し、ベッドで四つ這いになったまま、後ろをローションで濡らしてじっとしている自分の姿を意識する。熱が急速に覚めていく。これは何の遊びだ。さっきまでの甘やかな気配は何だったのか。それとも所詮、陸斗ではお試し品に過ぎないと遠回しに言われているのか。
「腕を背中に上げますよ」
「…え?」
 体を柔らかく支えられながら前へ倒され、片方の腕をそっと背中で押さえられて陸斗は固まった。今度は片足を軽くひざで押さえられる。
「な………っあ」
 じゅぷんと卑猥な音が響いて入り込む指に息を呑んだ。
「あの場面、僕は1人で濡場を演じなくちゃならない。けれど僕は、男性とのそういう経験がない」
「あ…あ…」
 抜き差しされる指が増やされ、しかも微妙なところを擦られて鳥肌が立った。股間が反応する。シーツに擦れて勃ち上がる。
「腕を動かさないで。足も」
 耳元で囁かれてぞくりとした。自分がファローズの状況を演じることを求められているのがわかった。腕は動かせない、片足もだ。そうして勃ち上がった股間には。
「んっ」
 指で根元を握られる。その上で指が抜かれた途端に熱いものが入り込んで、思わず声が上がる。
「ああ…っ」
『…ずいぶんいい声で啼くんですね、ファローズさん』
「うっ」
『「塔京」下町の巡視の元締めが、こんなところに舌を入れられて』
「…はっ」
 乱れた呼吸を吐き出しながら、視界が潤んだ。ひどいことをする。ひどいことをする。陸斗はファローズの中に押し込められ、弄ばれイかされるだけの結末しかない。舌が抜かれるとすぐに指を突き入れられて、視界が眩んだ。
「協力してね、陸斗さん、劇団の先輩でしょう?」
 伊谷が囁く。
「あなたなら、僕に教えてくれるでしょう? 男がどうやって極めて抱かれて狂っていくのか」
「ひ…いっ」
 息を引く間もなく駆け上がったが放てなかった。
『ユン・ファローズともあろう人が』
 よだれが垂れおちる。一番弱い所を悟られたのか、責められ続けて声にならない。
『気持ちよすぎて声もでない?』
 台詞が続く。そうとも台詞だ、こんなに陸斗が感じていても、伊谷にとっては演じる脚本の相手でしかない。
 不意に、快感とは全く別の涙が滲んだ。
 何をした。
 陸斗が一体伊谷に何をしたと言うのだ。
 自分の嗜好に気づいてから、世界がその望みを満たさないと知ってから、ずっと我慢して堪えて耐えて来た。ささやかなミスはあったかもしれないが、嫌がる相手に無理強いしたことはないし、自分の快楽だけを満たそうとしたこともない。
 ずっと1人で生きていくと覚悟して、必死に毎日の生活に小さな喜びを見つけるようにして、大事に舜への気持ちを温めて、そのどこが悪い、何が悪い、伊谷にこんな風に扱われる理由なんかどこにもない。
 ファローズの台詞も覚えていた、その気持ちもそっくりわかる。
『バ…カヤロ……くっあ、ああ!』
「そんな可愛いこと、言っちゃいけません」
 抉られ貫かれ扱かれた。あっさり果てさせられて崩れ落ちる。その陸斗の顎を掬い上げた伊谷が、今度はまともに自分のものを突き込んで来て息が止まった。
『もう1本、いけそう?』
 耳元で低い声が囁いたが、かすかに呼吸が乱れている。
『頑張るね』
 律動に意識を持っていかれそうになる、その反面、内側に鎮まっていく一つの意識を陸斗は感じた。
 こいつは誰だ?
「っん、あっ」
 閃光が走る。駆け上がる。だが今度は背中に張り付いた伊谷の内側からも小さな呻きが響いてくる。
『……いっちゃったの』
 台詞が途切れる。
『こっちはまだなのに』
 違う、今伊谷は確かに陸斗の中に小さく吐いた。
 瞬きする。快楽に揺さぶられながら、静かな思考が呟き続ける。
 ファローズからカークへのラインを読み解いた。自分に足りない経験を満たすために、危険を冒して接触してきた。この男は全くの素人なんかじゃない。今まで芝居に携わったことがある、いや、どこかの劇団に属したことがあるはずだ。自分が演じるために必要なものを、自分の手で掴み取っていく、周囲の評価も思惑さえも操って。
「…い…たに…」
 喘ぐ声に伊谷は応じない。陸斗を抱きしめる腕に力が籠る。拘束ではない、抑圧でもない、これは陸斗と少しでも近く長くいるための動き、重なるようにかすかな声が内側から届く。
 僕の声を、聞こえないふり、していてくれる?
「お前は…誰、だ…」
「っっ」
 ぞくっと伊谷が震えた。いきなり激しく揺さぶられて、陸斗は食い縛りながら、呻く。
「イかせて…やる…から」
 そんなに怯えるな。
『……いいですよ……他言しませんね?』
 台詞で戻ってきた許可と同時に伊谷が放った。最後に突き込まれた衝撃にベッドに落ちると、ぬるりと抜けたままに、伊谷が固まっている。
 肩越しに視線を投げた。
「いた…」
 呼びかけて、陸斗も固まる。
 気配がおかしい。見下ろしてくる伊谷の視線が、まるであの世からのもののように遠くて虚ろだ。中身がすっこり抜けてしまって、全く違う何かが入り込んでいて、その何かは人でさえ、ないような。
「……陸斗…」
 にこり、と笑った伊谷がへたへたと覆いかぶさってきてびっくりした。
「…おい、どうした?」
「……仮説は検証済みです……」
 陸斗の上に乗ったまま、陸斗は眠そうに目を閉じる。
「仮説? 検証? 何のこと? って言うか、大丈夫かい、おい!」
 汚れているのは気持ち悪かったが、向きを変えるのも許されないまま、背中からしっかり抱きこまれ、布団に引き摺り込まれ、じたばたするうちに寝息が聞こえてきた。
「…え?」
 どう言う状況なんだこれは。一体何が起きてるんだ。
 ぐるぐる考え続ける陸斗の脳裏に、ふいと1つの劇団名が浮かぶ。
「あ…? ………あーっ」
 さっきの得体の知れない妙な感覚をどこかで味わったことがあると思った脳味噌が、勝手に検索をかけてくれていたらしい。
「劇団『人身売買』……『春霞の鬼』か!」
 え、でも、待てよ。
「どうして『人心売買』の団員がウチに……???」
 穏やかに安らかに続く伊谷の寝息を浴びながら、陸斗はひたすら困惑していた。
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