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第1章 『竜は街に居る』
6.ドキュメント方式で「聞こえないふり、していて」(7)
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「……っ」
陸斗を揺さぶりながら、貢はふいに理解する、『春霞の鬼』の本質を。
違う、あれは、失敗だった。
主人公が鬼を食らったのは、命の力の勝利ではない。
鬼が自らの本性だと気付いたから、主人公は鬼を食らうことができた。
あれは敗北の結末なのだ、命が魔性に屈服したのだ。
食らわれたくなかった、食らわれるべきではなかった、影は主人公に取り込まれるべきではなかったのに、それがわかっていたのに、貢は愚かにもその結末に殉じた。
役者として、抗うべき解釈に、無抵抗で殺された。
だから、どうでもよくなった。
自分の声を、自ら聞こえないふりをした、その罰に、貢は自らを葬ることにした、人形とした。
なのに。
「…い…たに…お前は…誰、だ…」
掠れた声、弄ばれて壊れそうだった陸斗が問いかけた声は、カークにしか聞こえなくて。
「イかせて…やる…から………そんなに怯えるな」
『……いいですよ……他言しませんね?』
自分ではない、何かが、そう、答えた。
快楽に突き飛ばされ、放り出される。崩れた陸斗を見下ろし、そうっと覆い被さって抱き締める。囁こうとした、『秘密、聞きたいでしょ』とライヤーの台詞を重ねて。『僕ね、「斎京」の刺客なんですよ』と。
けれどもライヤーはこの台詞の後、ファローズの前から姿を消すことになる。腕に抱くこの体を、ライヤーは惜しげも無く手放して行く。
今までならば手放せた。
けれど、今、貢はどうしても陸斗を手放せない。
貢の手の中で、ファローズの身代わりだった陸斗が、遠隔でライヤーが感じ取ったようにカークと入れ替わっている。
演じる気になった。
陸斗にとって、貢はカークと言う男の相手役、ライヤーを演じる新人の役者にしかすぎない。今夜抱かせてくれたのだって、役作りと無関係ではないかも知れない。
ならば演じよう、伊谷貢と言う役者から。
ただの人形でしかない男であるよりは、陸斗が好いてくれるかも知れない。いや、違うか。
「……仮説は検証済みです……」
今までだってずっとそうだった。
伊谷貢と言う役者を演じ、その役者がライヤーという男を演じる。
幾重にも重ねた仮面でしか、貢は生きてきたことがない。
わかった?
え?
誰かが微笑みながら振り返る。
細身のスーツ姿、穏やかな、でも得体のしれない笑顔。
僕はミシェル・ライヤー。影の存在。
「……っっ」
今から君を乗っ取るけれど、抵抗しないほうが身のためだよ?
夢の中で貢は、ライヤーの掌に握り込まれた小鳥の叫びを聞いた。
陸斗を揺さぶりながら、貢はふいに理解する、『春霞の鬼』の本質を。
違う、あれは、失敗だった。
主人公が鬼を食らったのは、命の力の勝利ではない。
鬼が自らの本性だと気付いたから、主人公は鬼を食らうことができた。
あれは敗北の結末なのだ、命が魔性に屈服したのだ。
食らわれたくなかった、食らわれるべきではなかった、影は主人公に取り込まれるべきではなかったのに、それがわかっていたのに、貢は愚かにもその結末に殉じた。
役者として、抗うべき解釈に、無抵抗で殺された。
だから、どうでもよくなった。
自分の声を、自ら聞こえないふりをした、その罰に、貢は自らを葬ることにした、人形とした。
なのに。
「…い…たに…お前は…誰、だ…」
掠れた声、弄ばれて壊れそうだった陸斗が問いかけた声は、カークにしか聞こえなくて。
「イかせて…やる…から………そんなに怯えるな」
『……いいですよ……他言しませんね?』
自分ではない、何かが、そう、答えた。
快楽に突き飛ばされ、放り出される。崩れた陸斗を見下ろし、そうっと覆い被さって抱き締める。囁こうとした、『秘密、聞きたいでしょ』とライヤーの台詞を重ねて。『僕ね、「斎京」の刺客なんですよ』と。
けれどもライヤーはこの台詞の後、ファローズの前から姿を消すことになる。腕に抱くこの体を、ライヤーは惜しげも無く手放して行く。
今までならば手放せた。
けれど、今、貢はどうしても陸斗を手放せない。
貢の手の中で、ファローズの身代わりだった陸斗が、遠隔でライヤーが感じ取ったようにカークと入れ替わっている。
演じる気になった。
陸斗にとって、貢はカークと言う男の相手役、ライヤーを演じる新人の役者にしかすぎない。今夜抱かせてくれたのだって、役作りと無関係ではないかも知れない。
ならば演じよう、伊谷貢と言う役者から。
ただの人形でしかない男であるよりは、陸斗が好いてくれるかも知れない。いや、違うか。
「……仮説は検証済みです……」
今までだってずっとそうだった。
伊谷貢と言う役者を演じ、その役者がライヤーという男を演じる。
幾重にも重ねた仮面でしか、貢は生きてきたことがない。
わかった?
え?
誰かが微笑みながら振り返る。
細身のスーツ姿、穏やかな、でも得体のしれない笑顔。
僕はミシェル・ライヤー。影の存在。
「……っっ」
今から君を乗っ取るけれど、抵抗しないほうが身のためだよ?
夢の中で貢は、ライヤーの掌に握り込まれた小鳥の叫びを聞いた。
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