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第1章 『竜は街に居る』
10.ドラマが始まる 「なんで君は笑ってられるの?」(1)
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『竜夢』の稽古で何度もダメだしされた後、『オウライカ』を掴んだ途端、禄は熱を出して倒れ、舜がアパートまで連れ帰ってくれたらしい。回復するまで数日間面倒を見てくれて、『あいおい』の大将や女将さんとも連絡をとってくれて、すっかり顔見知りになって。禄の暮らしや体調を見て、『竜夢』から退くことも提案してくれた。
「とんでもないことになる前に、さ」
本当はそんなことを話したくなかっただろうに、『青い雨』で自分が日常生活に戻れなくなる寸前だったこと、藍那ちゃんのおかげで戻ってこれたことも話してくれた。
舜、と呼びかけると、上目遣いに見上げて来たから、たまらなくなって引き寄せて、唇を重ねてしまった。
舜は抵抗しなかった。むしろ、しっかりと抱き返してくれて、禄の不器用なキスに口を開いて応じてくれて、夢中で舌を吸い出してしゃぶって、口の中を蹂躙した。
甘かった。
とろみがあって、熱くて、柔らかくて、この口で迎え入れてくれたらと思うと、高ぶるのが抑えきれなくて、思わず強く押し付けると、お願い、と掠れた声で訴えられて、かろうじて我に返った。
お願い。
今はやめて。
凍りつく禄に舜は抱きついたまま、俺、止まれなくなっちゃうから、と続けてくれて、真っ赤になった耳たぶだけ舌で嬲って我慢した。
久しぶりに『竜夢』の稽古に出てみると、珍しく舜は絶不調で、何度やっても決まらなくて、挙句に泣き出してしまったりしたから、一旦稽古から離れて屋上に上がって、キスをして、抱きしめて。禄のオウライカに置いてかれると不安がる顔に、ああもうだめだとわかって。
昔の話をした。
虐待されて、箪笥に閉じ込められて、かろうじて生き延びた夜の話。
包み隠さず、嫌がられたり怖がられたりするのも承知で全部、排泄物を食べようとしたところも何もかも。
真っ青になって聞いていた舜は、聞き終わって一言尋ねた。
「何で君は笑ってられるの?」
何でだろうね。
ひょっとすると、未来を信じていたからかも知れない。
その時には、想像もしていなかったけれど、こうやっていつか君と出会えると、ぼくはどこかで信じていたのかも。
そう答えると、舜は真っ赤になってしがみついてきた。
「禄!」
「うん?」
「ここ、いいよ、ほら2LDK! それぞれに部屋当てられるし」
不動産屋の店先で舜が声を上げて、マンションの間取りを示す。
「築20年。新しくないけど、近くだし。モデルルーム、見に行けるし」
「…いいの?」
「え?」
禄の声に舜がきょとんと振り返る。
「家賃、7万円。共益費入れるとそれぞれ4、5万負担になるよ?」
「俺は大丈夫。禄は?」
「今のところとほとんど変わらない。風呂付きでこんな間取りには1人じゃ住めないよ」
「ならここにしよう。待ってて、聞いてくるから」
「うん」
禄の過去話を聞き終わった舜は、一緒に住もうと言い出した。実家からもそろそろ出て行けと言われている、禄さえ良ければルームシェアすれば、もう少しいい場所に住める、と。
『それにさ、芝居もいつでも稽古できるしさ。俺、あのオウライカに置いてかれたくないよ』
照れた顔で説得してくる舜に、ちょっとがっかりしたのは秘密だけど。
それでもいい。
それでも舜と暮らすのを拒む選択肢なんてない。
「OK! 話、決めてきたから」
不動産屋相手に、舜はあれこれ話を重ね、十数分後、部屋の確認と契約日時を決めて、満足そうに店から出てきた。
「不思議だな」
「え?」
「それだけ色々やりとりできるのに、人の顔が覚えられないようには見えないけど」
「どうしてかな? ずっと無理なんだよ」
えへへ、と舜は笑った。
「そういう人間もいるんだけど……定職に就くのは難しいかな」
一瞬目元を掠めた寂しそうな表情に、胸が痛んだ。
「とんでもないことになる前に、さ」
本当はそんなことを話したくなかっただろうに、『青い雨』で自分が日常生活に戻れなくなる寸前だったこと、藍那ちゃんのおかげで戻ってこれたことも話してくれた。
舜、と呼びかけると、上目遣いに見上げて来たから、たまらなくなって引き寄せて、唇を重ねてしまった。
舜は抵抗しなかった。むしろ、しっかりと抱き返してくれて、禄の不器用なキスに口を開いて応じてくれて、夢中で舌を吸い出してしゃぶって、口の中を蹂躙した。
甘かった。
とろみがあって、熱くて、柔らかくて、この口で迎え入れてくれたらと思うと、高ぶるのが抑えきれなくて、思わず強く押し付けると、お願い、と掠れた声で訴えられて、かろうじて我に返った。
お願い。
今はやめて。
凍りつく禄に舜は抱きついたまま、俺、止まれなくなっちゃうから、と続けてくれて、真っ赤になった耳たぶだけ舌で嬲って我慢した。
久しぶりに『竜夢』の稽古に出てみると、珍しく舜は絶不調で、何度やっても決まらなくて、挙句に泣き出してしまったりしたから、一旦稽古から離れて屋上に上がって、キスをして、抱きしめて。禄のオウライカに置いてかれると不安がる顔に、ああもうだめだとわかって。
昔の話をした。
虐待されて、箪笥に閉じ込められて、かろうじて生き延びた夜の話。
包み隠さず、嫌がられたり怖がられたりするのも承知で全部、排泄物を食べようとしたところも何もかも。
真っ青になって聞いていた舜は、聞き終わって一言尋ねた。
「何で君は笑ってられるの?」
何でだろうね。
ひょっとすると、未来を信じていたからかも知れない。
その時には、想像もしていなかったけれど、こうやっていつか君と出会えると、ぼくはどこかで信じていたのかも。
そう答えると、舜は真っ赤になってしがみついてきた。
「禄!」
「うん?」
「ここ、いいよ、ほら2LDK! それぞれに部屋当てられるし」
不動産屋の店先で舜が声を上げて、マンションの間取りを示す。
「築20年。新しくないけど、近くだし。モデルルーム、見に行けるし」
「…いいの?」
「え?」
禄の声に舜がきょとんと振り返る。
「家賃、7万円。共益費入れるとそれぞれ4、5万負担になるよ?」
「俺は大丈夫。禄は?」
「今のところとほとんど変わらない。風呂付きでこんな間取りには1人じゃ住めないよ」
「ならここにしよう。待ってて、聞いてくるから」
「うん」
禄の過去話を聞き終わった舜は、一緒に住もうと言い出した。実家からもそろそろ出て行けと言われている、禄さえ良ければルームシェアすれば、もう少しいい場所に住める、と。
『それにさ、芝居もいつでも稽古できるしさ。俺、あのオウライカに置いてかれたくないよ』
照れた顔で説得してくる舜に、ちょっとがっかりしたのは秘密だけど。
それでもいい。
それでも舜と暮らすのを拒む選択肢なんてない。
「OK! 話、決めてきたから」
不動産屋相手に、舜はあれこれ話を重ね、十数分後、部屋の確認と契約日時を決めて、満足そうに店から出てきた。
「不思議だな」
「え?」
「それだけ色々やりとりできるのに、人の顔が覚えられないようには見えないけど」
「どうしてかな? ずっと無理なんだよ」
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一瞬目元を掠めた寂しそうな表情に、胸が痛んだ。
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