74 / 121
第2章 『竜夢』
3.乱暴な嫁 「お日様が当たるとほっとしない?」(5)
しおりを挟む
「…っひ…」
「…貢?」
がくっと大きく揺れた貢に陸斗が呼ぶのが遠くに聞こえる。
「や…だ…っ」
がく、がく、がく、と体が勝手に揺さぶられて行く。陸斗じゃない、貢自身が前後に揺れている、まるで自分でピストン運動を導くように。
「やだ、やだ、やだ…っ」
「貢…っ」
陸斗が慌てて引き抜いて、悲鳴を上げながらもがく貢を抱き締めてくれたのに、必死にしがみつく。
「リク、リク……陸斗!」
「大丈夫だ、ここに居るよ、ここに居るから!」
泣きじゃくりながら、胸の奥にいつもぽっかり空いていた闇に嵌まり込む記憶を吐き出した。
5歳ぐらい、だった。
伊谷家の財産を狙う男に誘拐された。
身代金はすぐに支払われ、貢は家に戻されたが、連れ去られた数時間、貢は男に嬲られ続けていた。快楽さえ知らない年齢で、前も後ろも責め続けられ、戻された時には下半身が血塗れで、密かに入院し手厚い治療を受け、体は回復した。
「忘れていたんだ、忘れてた!」
「うん、うん」
陸斗の腕の中に抱え込まれて、何もないと思い込んでいた空間に隠されていた傷みに喘ぐ。
「だから平気だったんだ、何をしても何をされても、そんなのとっくに…っ!」
「貢…っ」
強く力を込めてくれた陸斗に縋り付く。
どれほど泣き続けたのかわからない。
気がつけば、朝日がカーテンの隙間から差し込んでいるのをぼんやりと眺めていた。
「…陸斗」
「…ん」
目の前に居る綺麗な男は、ゆっくり瞬きして目を開け、貢が起きているのに気づき、真っ青になった。
「ごめん、今すぐ出て行く…」
「…それは、なし」
離れようとした体を抱きついて引き戻す。肌の温もりが気持ち良くて、小さく息を吐いた。
「大丈夫だよ、忘れていた記憶を思い出しただけ、それだけ」
「貢…」
「気持ち良かった。あなたが、抱いてくれたから、それで終わり」
太陽のように貢の中を照らして、貢を縛って潰そうとしていた記憶を焼き払ってくれた。
空っぽの部屋に、柔らかく滲み透る光の気配。
「もうちょっと…寝たい」
「…眠ってていいよ。ここに居るから」
陸斗が頭を引き寄せてくれて、甘い匂いの肌に顔を埋めた。
「……『竜夢』は小さな劇団だよ。『人心売買』がなぜ敵対視するのか、わからない」
陸斗がぽつりと口にした。
篠崎真琴を追い払った後のベッドで、陸斗は随分と貢を甘やかしてくれて、抱いたり抱かれたりしながら過ごした後、のんびりと寝転びながら話をした。
「…何が欲しいのかってことだよね?」
陸斗の横顔を眺めながら、貢は呟く。
命令は舜を奪え、『竜夢』を内側から食い潰して壊せと簡単だが、今まで居た感覚で行くと、貢が多少暴れたところで『竜夢』は壊れないし、舜も『人心売買』に流れ込みはしないだろう。ましてや、今や舜は雷牙禄と言うパートナーさえ得ている。
真琴のことだから、既にあちこち揺さぶりをかけて、それでもどうにもできなかったから陸斗にちょっかいをかけてきたのだろうし、そこまでしても『竜夢』が動かないから荒破須加屋も真琴に貢を煽らせたのだろう。
「厄介だけど、多分、荒破は『竜夢』そのものに消えて欲しいんだと思う」
「なぜ?」
「嫌い、だから?」
「……厄介だな」
「厄介でしょう?」
こちらを向いた陸斗と目が合ったのでキスをする。
「どうする?」
「関係ない。芝居をするだけだ」
陸斗はキスを返してくれて、また真っ直ぐ天井を見上げた。
以前にはなかった、強くてしなやかで揺れない横顔。
「また抱いてくれる?」
「…ん?」
強請ってみると、目を細めて微笑んでくれた。
「私も抱いて欲しいんだが」
「選択肢が増えて難しいね」
溜息をついて見せると、難しくない、と返された。
「好きなことをずっと好きでいるだけだと思う」
他のことは関係がない。
「誰の人生も、どんな事情も、本当のところは、関係がない。私が、どう生きるかというだけなんだろうと、思うようになったよ」
ゆっくり振り向いて笑う陸斗に見惚れる。
「君のお陰だ、伊谷。だから、私が君を大事にしたいと思ってるのは、忘れないで欲しい」
「わかった」
貢はそっと囁く。
「お日様に当たると……ほっとするんだね」
「…貢?」
がくっと大きく揺れた貢に陸斗が呼ぶのが遠くに聞こえる。
「や…だ…っ」
がく、がく、がく、と体が勝手に揺さぶられて行く。陸斗じゃない、貢自身が前後に揺れている、まるで自分でピストン運動を導くように。
「やだ、やだ、やだ…っ」
「貢…っ」
陸斗が慌てて引き抜いて、悲鳴を上げながらもがく貢を抱き締めてくれたのに、必死にしがみつく。
「リク、リク……陸斗!」
「大丈夫だ、ここに居るよ、ここに居るから!」
泣きじゃくりながら、胸の奥にいつもぽっかり空いていた闇に嵌まり込む記憶を吐き出した。
5歳ぐらい、だった。
伊谷家の財産を狙う男に誘拐された。
身代金はすぐに支払われ、貢は家に戻されたが、連れ去られた数時間、貢は男に嬲られ続けていた。快楽さえ知らない年齢で、前も後ろも責め続けられ、戻された時には下半身が血塗れで、密かに入院し手厚い治療を受け、体は回復した。
「忘れていたんだ、忘れてた!」
「うん、うん」
陸斗の腕の中に抱え込まれて、何もないと思い込んでいた空間に隠されていた傷みに喘ぐ。
「だから平気だったんだ、何をしても何をされても、そんなのとっくに…っ!」
「貢…っ」
強く力を込めてくれた陸斗に縋り付く。
どれほど泣き続けたのかわからない。
気がつけば、朝日がカーテンの隙間から差し込んでいるのをぼんやりと眺めていた。
「…陸斗」
「…ん」
目の前に居る綺麗な男は、ゆっくり瞬きして目を開け、貢が起きているのに気づき、真っ青になった。
「ごめん、今すぐ出て行く…」
「…それは、なし」
離れようとした体を抱きついて引き戻す。肌の温もりが気持ち良くて、小さく息を吐いた。
「大丈夫だよ、忘れていた記憶を思い出しただけ、それだけ」
「貢…」
「気持ち良かった。あなたが、抱いてくれたから、それで終わり」
太陽のように貢の中を照らして、貢を縛って潰そうとしていた記憶を焼き払ってくれた。
空っぽの部屋に、柔らかく滲み透る光の気配。
「もうちょっと…寝たい」
「…眠ってていいよ。ここに居るから」
陸斗が頭を引き寄せてくれて、甘い匂いの肌に顔を埋めた。
「……『竜夢』は小さな劇団だよ。『人心売買』がなぜ敵対視するのか、わからない」
陸斗がぽつりと口にした。
篠崎真琴を追い払った後のベッドで、陸斗は随分と貢を甘やかしてくれて、抱いたり抱かれたりしながら過ごした後、のんびりと寝転びながら話をした。
「…何が欲しいのかってことだよね?」
陸斗の横顔を眺めながら、貢は呟く。
命令は舜を奪え、『竜夢』を内側から食い潰して壊せと簡単だが、今まで居た感覚で行くと、貢が多少暴れたところで『竜夢』は壊れないし、舜も『人心売買』に流れ込みはしないだろう。ましてや、今や舜は雷牙禄と言うパートナーさえ得ている。
真琴のことだから、既にあちこち揺さぶりをかけて、それでもどうにもできなかったから陸斗にちょっかいをかけてきたのだろうし、そこまでしても『竜夢』が動かないから荒破須加屋も真琴に貢を煽らせたのだろう。
「厄介だけど、多分、荒破は『竜夢』そのものに消えて欲しいんだと思う」
「なぜ?」
「嫌い、だから?」
「……厄介だな」
「厄介でしょう?」
こちらを向いた陸斗と目が合ったのでキスをする。
「どうする?」
「関係ない。芝居をするだけだ」
陸斗はキスを返してくれて、また真っ直ぐ天井を見上げた。
以前にはなかった、強くてしなやかで揺れない横顔。
「また抱いてくれる?」
「…ん?」
強請ってみると、目を細めて微笑んでくれた。
「私も抱いて欲しいんだが」
「選択肢が増えて難しいね」
溜息をついて見せると、難しくない、と返された。
「好きなことをずっと好きでいるだけだと思う」
他のことは関係がない。
「誰の人生も、どんな事情も、本当のところは、関係がない。私が、どう生きるかというだけなんだろうと、思うようになったよ」
ゆっくり振り向いて笑う陸斗に見惚れる。
「君のお陰だ、伊谷。だから、私が君を大事にしたいと思ってるのは、忘れないで欲しい」
「わかった」
貢はそっと囁く。
「お日様に当たると……ほっとするんだね」
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
天の求婚
紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。
主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた
そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた
即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる