『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第2章 『竜夢』

3.乱暴な嫁 「お日様が当たるとほっとしない?」(5)

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「…っひ…」
「…貢?」
 がくっと大きく揺れた貢に陸斗が呼ぶのが遠くに聞こえる。
「や…だ…っ」
 がく、がく、がく、と体が勝手に揺さぶられて行く。陸斗じゃない、貢自身が前後に揺れている、まるで自分でピストン運動を導くように。
「やだ、やだ、やだ…っ」
「貢…っ」
 陸斗が慌てて引き抜いて、悲鳴を上げながらもがく貢を抱き締めてくれたのに、必死にしがみつく。
「リク、リク……陸斗!」
「大丈夫だ、ここに居るよ、ここに居るから!」
 泣きじゃくりながら、胸の奥にいつもぽっかり空いていた闇に嵌まり込む記憶を吐き出した。
 5歳ぐらい、だった。
 伊谷家の財産を狙う男に誘拐された。
 身代金はすぐに支払われ、貢は家に戻されたが、連れ去られた数時間、貢は男に嬲られ続けていた。快楽さえ知らない年齢で、前も後ろも責め続けられ、戻された時には下半身が血塗れで、密かに入院し手厚い治療を受け、体は回復した。
「忘れていたんだ、忘れてた!」
「うん、うん」
 陸斗の腕の中に抱え込まれて、何もないと思い込んでいた空間に隠されていた傷みに喘ぐ。
「だから平気だったんだ、何をしても何をされても、そんなのとっくに…っ!」
「貢…っ」
 強く力を込めてくれた陸斗に縋り付く。
 どれほど泣き続けたのかわからない。
 気がつけば、朝日がカーテンの隙間から差し込んでいるのをぼんやりと眺めていた。
「…陸斗」
「…ん」
 目の前に居る綺麗な男は、ゆっくり瞬きして目を開け、貢が起きているのに気づき、真っ青になった。
「ごめん、今すぐ出て行く…」
「…それは、なし」
 離れようとした体を抱きついて引き戻す。肌の温もりが気持ち良くて、小さく息を吐いた。
「大丈夫だよ、忘れていた記憶を思い出しただけ、それだけ」
「貢…」
「気持ち良かった。あなたが、抱いてくれたから、それで終わり」
 太陽のように貢の中を照らして、貢を縛って潰そうとしていた記憶を焼き払ってくれた。
 空っぽの部屋に、柔らかく滲み透る光の気配。
「もうちょっと…寝たい」
「…眠ってていいよ。ここに居るから」
 陸斗が頭を引き寄せてくれて、甘い匂いの肌に顔を埋めた。
 
「……『竜夢』は小さな劇団だよ。『人心売買』がなぜ敵対視するのか、わからない」
 陸斗がぽつりと口にした。
 篠崎真琴を追い払った後のベッドで、陸斗は随分と貢を甘やかしてくれて、抱いたり抱かれたりしながら過ごした後、のんびりと寝転びながら話をした。
「…何が欲しいのかってことだよね?」
 陸斗の横顔を眺めながら、貢は呟く。
 命令は舜を奪え、『竜夢』を内側から食い潰して壊せと簡単だが、今まで居た感覚で行くと、貢が多少暴れたところで『竜夢』は壊れないし、舜も『人心売買』に流れ込みはしないだろう。ましてや、今や舜は雷牙禄と言うパートナーさえ得ている。
 真琴のことだから、既にあちこち揺さぶりをかけて、それでもどうにもできなかったから陸斗にちょっかいをかけてきたのだろうし、そこまでしても『竜夢』が動かないから荒破須加屋も真琴に貢を煽らせたのだろう。
「厄介だけど、多分、荒破は『竜夢』そのものに消えて欲しいんだと思う」
「なぜ?」
「嫌い、だから?」
「……厄介だな」
「厄介でしょう?」
 こちらを向いた陸斗と目が合ったのでキスをする。
「どうする?」
「関係ない。芝居をするだけだ」
 陸斗はキスを返してくれて、また真っ直ぐ天井を見上げた。
 以前にはなかった、強くてしなやかで揺れない横顔。
「また抱いてくれる?」
「…ん?」
 強請ってみると、目を細めて微笑んでくれた。
「私も抱いて欲しいんだが」
「選択肢が増えて難しいね」
 溜息をついて見せると、難しくない、と返された。
「好きなことをずっと好きでいるだけだと思う」
 他のことは関係がない。
「誰の人生も、どんな事情も、本当のところは、関係がない。私が、どう生きるかというだけなんだろうと、思うようになったよ」
 ゆっくり振り向いて笑う陸斗に見惚れる。
「君のお陰だ、伊谷。だから、私が君を大事にしたいと思ってるのは、忘れないで欲しい」
「わかった」
 貢はそっと囁く。
「お日様に当たると……ほっとするんだね」
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