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第2章 『竜夢』
6.ラマン 「人の形をしたゴミだ」(1)
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本当なら、今日12月21日が衣装通し稽古、明日がそのイメージを元のエア通し稽古、27日が舞台で流すゲネプロで、28日が本番初日、30日にもう1回演じて、両方とも映像とってネットに上げてって、31日にはそれ見て打ち上げしようって予定だったのになあ。
禄は深く眠ったままの舜の枕元で、カレンダーを見ながらしょんぼりする。
クリスマスとか大晦日とか、今まで経験したこともない世間一般の行事も捨てて、『竜夢』の皆んなと大晦日まで突っ走るはずだったのに。
今までも毎日が十分楽しくて凄くて、『あいおい』で働く間の芝居練習も舜と一緒に過ごす時間も、本当の本当に宝石みたいで眩くて、ただ必死で。
「やりすぎ、ちゃったのかなあ」
いや、それはもう、素人の禄の「やりすぎ」なんて迷惑でしかなかっただろうが、それでも受け入れてくれた『竜夢』に居ることが嬉しくて嬉しくて。やりたいことを次々と試して成し遂げられて行くのが、本当に楽しくて楽しくて。
『人の形した、ゴミみたいなもんじゃないの?』
箪笥の中で失敗した時に嘲られた声が戻ってくる。
『きったなくて臭くって、ああホント、すぐ捨てちゃえば良かったのになあ』
赤ん坊の頃は多少可愛い気もしたし? けれど、どんどん大きくなっちゃうともう、ほら、鬱憤ばらしにしか使えないし?
「…っ」
頭を振る。
急いで苦しい思い出を箱に入れて、頭の中で思い切り遠くへ放り投げる。
唇を噛んで舜の枕元に伏せると、甘い優しい匂いと共に、舜の声が戻ってきた。
『えー、俺ならその箱、放り投げないな』
苦しい記憶の扱い方、と聞いた舜がきょとんとした。
『え? あの、じゃあ頑張って置いといて、いつか受け入れられたり理解できるようになるまで待つ、とか?』
『いやいやそんなことしないよ、俺ならその箱に爆弾ぶっ込んでドンってやるな』
『ええっ』
そんな、例えイメージだけでも、生きている人の存在をそんな風に扱ってしまうなんて。
思わず怯んだ禄に、むうっと唇を尖らせ頬を膨らませて、さながら食べ過ぎのリスみたいな顔をしたから、吹き出した。
『いいじゃん』
『え?』
『じゃあ、その箱貸しなよ、俺が爆発させて燃やしといてやるから』
そんなもの、置いとかなくていいよ。
『苦しい記憶やしんどい記憶が、人を成長させたり大人にするなんて言うけどさ、そんなの他人事だからね。そんな偉そうなこと言う奴が禄みたいな経験してるわけがないからね』
ぶつぶつ言いながら、舜の目にはうっすら涙が溜まっていて。
『俺は許さないし納得しないからね。いいじゃん空想だし、実行してないし。ほらさっさと箱かしな』
かしなって、そんな現実みたいに。
笑う禄にひょいと立って、舜は禄の頭のあたりにちょいちょいと手をさし招いて見せた。
『?』
『…で、これがその箱だなあ……よしよし、何だ意外と小さいじゃん』
舜は何かを空中から取り出すように両手でパントマイムを始める。さすがに完成度が高い、まるで禄の頭の前に透明な棚があって、そこから箱を下ろしたような動きだ。
『さてと、まだ何か入れとくものある?』
こちらを向いたから、えーと、と戸惑ったのは、さっきの話だけで涙を溜めてしまうような愛しい相手に、もっと酷い状況を話すことはできなかったからだ。
『ああ、それね、はいはい今浮かんだ奴もね』
『…舜』
『残さなくっていいから。抹殺して問題ない、保証する、俺は凄腕の始末屋だから』
再び禄の頭あたりから何かを手繰り寄せるようにしながら、にやりと笑って付け加える。
『塔京の刺客、シュン・カザルって、俺のことだから。知ってた?』
また吹き出してしまった。
『よぉし、今回はこんなもんかな』
『今回は?』
『こう言うのはね、時々湧くんだよ』
眉を寄せて重々しく頷いた。
『その度ごとに始末するから大丈夫、任せて』
ふいに、オウライカの身動きできない苦しみも、カザルはこうして取り出して慰めていてやったのかもしれないと思った。本当のところは何もわかっていない、理解もしていない。それでも、その苦しみがオウライカの体を蝕むほどだとは察していて、『何かわからないもの』を取り出し、解き放ってやっていた。
そんな相手を愛おしく思わないわけがない。
『さて、ここにこうやってね、爆弾入れます。映画で電子レンジで作った奴ぐらいの』
『電子レンジ?』
『知らない? じゃあ今度一緒に見よう』
見ててね。
そうして舜は、その爆弾入りの箱を少し慌てた様子で彼方に放り投げ、10秒時間を数えたあたりで。
『うひゃあっ』『舜!』
部屋の床に見事に『吹っ飛ばされて』転がって見せた、それこそ空中でとんでもない威力のものが爆発したとしか思えない勢いで。
慌てて駆け寄る禄に、多分爆風で汚れたのだろう、ごしごしと片手で頬を擦って見せて報告する。
『任務完了!』
『舜…』
不思議なものだおかしなものだ、全てはお芝居だったのに、それでもその『箱』は確かに姿を消してしまった。笑い出した禄に舜も吹き出して抱きついてきた。
「諦めるもんか」
禄は顔を上げた。
濡れた目元を擦り、眠る舜を見つめる。
「全力で行く。絶対最後まで走る」
その後ならどうなったって構わない。
禄は強く歯を噛み締めた。
禄は深く眠ったままの舜の枕元で、カレンダーを見ながらしょんぼりする。
クリスマスとか大晦日とか、今まで経験したこともない世間一般の行事も捨てて、『竜夢』の皆んなと大晦日まで突っ走るはずだったのに。
今までも毎日が十分楽しくて凄くて、『あいおい』で働く間の芝居練習も舜と一緒に過ごす時間も、本当の本当に宝石みたいで眩くて、ただ必死で。
「やりすぎ、ちゃったのかなあ」
いや、それはもう、素人の禄の「やりすぎ」なんて迷惑でしかなかっただろうが、それでも受け入れてくれた『竜夢』に居ることが嬉しくて嬉しくて。やりたいことを次々と試して成し遂げられて行くのが、本当に楽しくて楽しくて。
『人の形した、ゴミみたいなもんじゃないの?』
箪笥の中で失敗した時に嘲られた声が戻ってくる。
『きったなくて臭くって、ああホント、すぐ捨てちゃえば良かったのになあ』
赤ん坊の頃は多少可愛い気もしたし? けれど、どんどん大きくなっちゃうともう、ほら、鬱憤ばらしにしか使えないし?
「…っ」
頭を振る。
急いで苦しい思い出を箱に入れて、頭の中で思い切り遠くへ放り投げる。
唇を噛んで舜の枕元に伏せると、甘い優しい匂いと共に、舜の声が戻ってきた。
『えー、俺ならその箱、放り投げないな』
苦しい記憶の扱い方、と聞いた舜がきょとんとした。
『え? あの、じゃあ頑張って置いといて、いつか受け入れられたり理解できるようになるまで待つ、とか?』
『いやいやそんなことしないよ、俺ならその箱に爆弾ぶっ込んでドンってやるな』
『ええっ』
そんな、例えイメージだけでも、生きている人の存在をそんな風に扱ってしまうなんて。
思わず怯んだ禄に、むうっと唇を尖らせ頬を膨らませて、さながら食べ過ぎのリスみたいな顔をしたから、吹き出した。
『いいじゃん』
『え?』
『じゃあ、その箱貸しなよ、俺が爆発させて燃やしといてやるから』
そんなもの、置いとかなくていいよ。
『苦しい記憶やしんどい記憶が、人を成長させたり大人にするなんて言うけどさ、そんなの他人事だからね。そんな偉そうなこと言う奴が禄みたいな経験してるわけがないからね』
ぶつぶつ言いながら、舜の目にはうっすら涙が溜まっていて。
『俺は許さないし納得しないからね。いいじゃん空想だし、実行してないし。ほらさっさと箱かしな』
かしなって、そんな現実みたいに。
笑う禄にひょいと立って、舜は禄の頭のあたりにちょいちょいと手をさし招いて見せた。
『?』
『…で、これがその箱だなあ……よしよし、何だ意外と小さいじゃん』
舜は何かを空中から取り出すように両手でパントマイムを始める。さすがに完成度が高い、まるで禄の頭の前に透明な棚があって、そこから箱を下ろしたような動きだ。
『さてと、まだ何か入れとくものある?』
こちらを向いたから、えーと、と戸惑ったのは、さっきの話だけで涙を溜めてしまうような愛しい相手に、もっと酷い状況を話すことはできなかったからだ。
『ああ、それね、はいはい今浮かんだ奴もね』
『…舜』
『残さなくっていいから。抹殺して問題ない、保証する、俺は凄腕の始末屋だから』
再び禄の頭あたりから何かを手繰り寄せるようにしながら、にやりと笑って付け加える。
『塔京の刺客、シュン・カザルって、俺のことだから。知ってた?』
また吹き出してしまった。
『よぉし、今回はこんなもんかな』
『今回は?』
『こう言うのはね、時々湧くんだよ』
眉を寄せて重々しく頷いた。
『その度ごとに始末するから大丈夫、任せて』
ふいに、オウライカの身動きできない苦しみも、カザルはこうして取り出して慰めていてやったのかもしれないと思った。本当のところは何もわかっていない、理解もしていない。それでも、その苦しみがオウライカの体を蝕むほどだとは察していて、『何かわからないもの』を取り出し、解き放ってやっていた。
そんな相手を愛おしく思わないわけがない。
『さて、ここにこうやってね、爆弾入れます。映画で電子レンジで作った奴ぐらいの』
『電子レンジ?』
『知らない? じゃあ今度一緒に見よう』
見ててね。
そうして舜は、その爆弾入りの箱を少し慌てた様子で彼方に放り投げ、10秒時間を数えたあたりで。
『うひゃあっ』『舜!』
部屋の床に見事に『吹っ飛ばされて』転がって見せた、それこそ空中でとんでもない威力のものが爆発したとしか思えない勢いで。
慌てて駆け寄る禄に、多分爆風で汚れたのだろう、ごしごしと片手で頬を擦って見せて報告する。
『任務完了!』
『舜…』
不思議なものだおかしなものだ、全てはお芝居だったのに、それでもその『箱』は確かに姿を消してしまった。笑い出した禄に舜も吹き出して抱きついてきた。
「諦めるもんか」
禄は顔を上げた。
濡れた目元を擦り、眠る舜を見つめる。
「全力で行く。絶対最後まで走る」
その後ならどうなったって構わない。
禄は強く歯を噛み締めた。
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