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第2章 『竜夢』
6.ラマン 「人の形をしたゴミだ」(3)
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「……」
『竜夢』から戻った後、陸斗は伊谷のマンションに戻り、リビングで目の前に脚本を積み上げて、ゆっくりと読み始めた。
一緒に行こう、リク。
表通りで誰が通るかわからない場所で仕掛けられたキスと囁き。
何も応じることができていなくて、ただ受け取るだけだった自分。
自分が禄や舜ほどの芝居を伊谷に与えてやれないから、いつものように自分を切り捨てて離れようとしたのを気づかれて、引き止められた。
胸の中が甘くて痛い。
伊谷を失望させるだろう。
これほどできない男だったのかとがっかりさせるだろう。
禄と舜のペアに負けるまいと気持ちを張る伊谷を萎えさせ、観客を失望させ、そうしてやっぱりこんな程度なんだと自分を惨めに見下ろすのだろう。
『人の形をしたゴミなんじゃない? それとも公衆トイレ?』
学生の頃に投げられたことば。
飢えて辛くて誰でもいいからと焦って縋って捨てられた理由。
初めから話したはずだ、男性に興味があるんだと。
拒んだはずだ、誤解してしまうから妙な触れ方をしないで欲しいと。
優しくしたいんだと呟かれて、傷つけたと心配して、そっと近寄ったら押し倒されて。
『試してみたけど意外にいい感じ、ハマりそう』
話す声で目が覚めた。
汚れて放り出されて毛布1つかかっていない体が、珍しく痛かった。
『や、冗談だって。無理無理』
ああ、そうか、気まぐれだったのか。でも、仕方ないか、そう言うものか。
卑屈になりながら、起きるタイミングを見計らっていたら。
『こいつだって、誰が使ってるかわかんないんだし』
使ってる、のが陸斗の体だと閃いた瞬間、跳ね起きて相手に飛びかかっていた。さすがに男同士、それなりの殴り合いになって、それでも最終最後に吐き捨てられたことば。
顔ももう忘れたのに、ことばだけが突き刺さって抜けない。
そんな奴とは全く違う伊谷だから、大事にしようとしていたのに、どこかで同じようにもっともらしい理由をつけて逃げようとしていた。
「『誘うなら、他の男の匂いぐらい落としてからにしてもらえませんか?』」
これはライヤーの台詞だ。
「『聞こえましたか?』『確かに僕はあなたの欲望の処理係ですが』『他の男の匂いを振り撒いてる相手に襲いかかるほど飢えてませんし』」
あの時の男の声を思い出して冷徹に言い放つ。
今夜はずっと脚本を読み込もう。
ライヤーとカークに関わる部分を全て読み込み、伊谷が探すライヤーを一緒に探そう。
整理する時期だと分かっている。
ゲネプロに合わせて調整しなくてはならない時期だ。
必要な部分を磨き上げ、不要な部分を切り捨てなくてはならない時期だ。
「…それが、何だ」
ふいに涙が滲んだ。
「私だって……伊谷が欲しいんだ」
本当は、と胸の中で声が響く。
傲慢なことだろうと何だろうと、ずっとずっと芝居だけに溺れていたかった。生きていけなくなろうと飢えて死のうと、ずっとずっと男性を望んで待ちわびていた。
ずっとずっとずっと。
自分の中の小さな願いを、こらえて凌いで諦めて。
伊谷をあれほど傷つけたし、もう、どうにもならないほど年齢も状況も何もかも手遅れなのだろうとは思っているが。
「何が悪い」
零れた涙を片手の甲で拭う。
「何が悪いんだ」
ひっく、と引いた息を強く呑み、
「男を好きで、何が悪いんだ」
好きなんだ、好きなんだ、好きなんだ。
「好きなものに溺れて、何が悪い…っ」
『竜夢』から戻った後、陸斗は伊谷のマンションに戻り、リビングで目の前に脚本を積み上げて、ゆっくりと読み始めた。
一緒に行こう、リク。
表通りで誰が通るかわからない場所で仕掛けられたキスと囁き。
何も応じることができていなくて、ただ受け取るだけだった自分。
自分が禄や舜ほどの芝居を伊谷に与えてやれないから、いつものように自分を切り捨てて離れようとしたのを気づかれて、引き止められた。
胸の中が甘くて痛い。
伊谷を失望させるだろう。
これほどできない男だったのかとがっかりさせるだろう。
禄と舜のペアに負けるまいと気持ちを張る伊谷を萎えさせ、観客を失望させ、そうしてやっぱりこんな程度なんだと自分を惨めに見下ろすのだろう。
『人の形をしたゴミなんじゃない? それとも公衆トイレ?』
学生の頃に投げられたことば。
飢えて辛くて誰でもいいからと焦って縋って捨てられた理由。
初めから話したはずだ、男性に興味があるんだと。
拒んだはずだ、誤解してしまうから妙な触れ方をしないで欲しいと。
優しくしたいんだと呟かれて、傷つけたと心配して、そっと近寄ったら押し倒されて。
『試してみたけど意外にいい感じ、ハマりそう』
話す声で目が覚めた。
汚れて放り出されて毛布1つかかっていない体が、珍しく痛かった。
『や、冗談だって。無理無理』
ああ、そうか、気まぐれだったのか。でも、仕方ないか、そう言うものか。
卑屈になりながら、起きるタイミングを見計らっていたら。
『こいつだって、誰が使ってるかわかんないんだし』
使ってる、のが陸斗の体だと閃いた瞬間、跳ね起きて相手に飛びかかっていた。さすがに男同士、それなりの殴り合いになって、それでも最終最後に吐き捨てられたことば。
顔ももう忘れたのに、ことばだけが突き刺さって抜けない。
そんな奴とは全く違う伊谷だから、大事にしようとしていたのに、どこかで同じようにもっともらしい理由をつけて逃げようとしていた。
「『誘うなら、他の男の匂いぐらい落としてからにしてもらえませんか?』」
これはライヤーの台詞だ。
「『聞こえましたか?』『確かに僕はあなたの欲望の処理係ですが』『他の男の匂いを振り撒いてる相手に襲いかかるほど飢えてませんし』」
あの時の男の声を思い出して冷徹に言い放つ。
今夜はずっと脚本を読み込もう。
ライヤーとカークに関わる部分を全て読み込み、伊谷が探すライヤーを一緒に探そう。
整理する時期だと分かっている。
ゲネプロに合わせて調整しなくてはならない時期だ。
必要な部分を磨き上げ、不要な部分を切り捨てなくてはならない時期だ。
「…それが、何だ」
ふいに涙が滲んだ。
「私だって……伊谷が欲しいんだ」
本当は、と胸の中で声が響く。
傲慢なことだろうと何だろうと、ずっとずっと芝居だけに溺れていたかった。生きていけなくなろうと飢えて死のうと、ずっとずっと男性を望んで待ちわびていた。
ずっとずっとずっと。
自分の中の小さな願いを、こらえて凌いで諦めて。
伊谷をあれほど傷つけたし、もう、どうにもならないほど年齢も状況も何もかも手遅れなのだろうとは思っているが。
「何が悪い」
零れた涙を片手の甲で拭う。
「何が悪いんだ」
ひっく、と引いた息を強く呑み、
「男を好きで、何が悪いんだ」
好きなんだ、好きなんだ、好きなんだ。
「好きなものに溺れて、何が悪い…っ」
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