『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第3章 『異世界』

1.ご当地キャラ 「好きなものばかり増えて、困る」(2)

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「灯りを消して、ライトだけに」
 禄の声にパチリと音がして、再び薄闇に体に光を纏いつかせたショベルカーが浮かび上がる。
 1人近づいていく。
 さっき各務が姿を見せたので、大きさの比率はわかっているつもりだったが、薄暗い中を近づいていくのは全く違った。腹の底がひやひやする。どこまで近づいても大丈夫なのか、どの辺りまでどう動くのか。
 予め伊谷はショベルカーを動かして見せなかった。もちろん計算尽くだ。竜の動きや攻撃可能な範囲が初めからわかっているはずもない。
 ライトに照らされた姿は、間違いなくショベルカーでしかないのに、全身はっきり浮かび上がっていないから、無意識に想像力が動き出す。特に後ろ半分はライトがほとんど付けられていない。背後は工場奥の幾つもの機械に続くようにも見える。
「いつでもいいので、動き出して欲しい。下から少し掬い上げて、ゆっくり先を一番高くまで上げて」
「ああ、わかった。見定める場面か」
 伊谷は禄の希望を読み取った。小さな囁き声がする。携帯で指示を出したのだろう、すぐに静まり返る。背後の2人も黙ったまま何も言わない。沈黙が降りて、満ちる。
 動かない。
 動かない。
 静かだ。
 禄はライトに照らされたまま、拳を握った。
 ああ。
 ふいに胸が詰まる。
 この瞬間が、すごく好きだ。
 何もかも無くなって、けれど気持ちだけがはっきりとあって。
 来い。
 思った瞬間、轟音が鳴り響いた。洞窟の中で叫ぶ竜の唸り声のように。見えない空気の圧を伴って、ショベルが迫ってくるのがわかる。禄をころりと中に転がし、掬い上げて放り飛ばせる気配が近寄る。逃げたい。逃げたくない。すうっと信じられないほど滑らかに、バケットは禄の少し前で掬い上げた。金属の箱が光を跳ねる。そのままぐうっと立ち上がっていくのを、禄は惚れ惚れと眺めた。なんて大きさだろう。なんて高さだろう。だが天辺まで上がったバケットは一瞬止まっただけですぐに降り落ちて来た。しっかり見えていたら、竦んだほどの思いがけない速さで、しかもいつの間にか少し近寄られていたらしく、頭上に金属の反射が落ちて来る。見上げた視界一杯を光が圧する。
 禄はまっすぐ見上げていた。
 伊谷の工場だとか、各務の運転技術だとか、そんなことは吹っ飛んでいて、自分を叩き潰せるほどの塊が近づくのが、ただ嬉しくて。
 困るな。
 胸の中で思う。
 好きなものばかり増える。
 オウライカを品定めした竜は、こんな風に容赦なく顔をおろして来ただろう。オウライカの肩を喜ばしく食っただろう、いずれ与えられる麗しい贄として。そうしてそれは、オウライカの望み通りだった。
 天命に適った。
 あの時、オウライカは喜んでいたはずだ、己を全うできる喜びに。
 ぴたり。
 頭上数センチ、髪の毛をふわりと揺らせて、アームは止まった。
「禄…」
 舜の声に振り返る。
「……嬉しそうじゃん…」
「…うん」
 気持ちいいね、これ。
 答えると舜がうへえ、とおどけて見せた。
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