『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第3章 『異世界』

1.ご当地キャラ 「好きなものばかり増えて、困る」(3)

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 うわ、まんま。
 舜は暗闇の中、禄の上に振り落ちるバケットを見て、全身の毛が逆立った。
 薄暗くとも舜には見える、今にも頭を叩き潰そうとする塊に、嬉しそうに禄が微笑むのが。あまつさえ、自覚していないのか、禄は落ちてくる金属に片手を伸ばしさえした。アームがふわりと中空で止まる、けれど舜には見える、その顎門ががっつりとオウライカの肩を噛み込んだところが。
 昼間見たのと全く違う。
 舜はじっくりとショベルカーを眺める。
 実は以前、この地域で催された子ども向けイベントに出たことがある。工場が多くて、大型機械も結構あちこちで見かける地域で、働く両親もあちらこちらの工場に入っているから、イベントは少子化の進む地域が過疎地域にならないように、子ども達が少しでも地域の産業に興味を持ってもらえるように組まれていた。
 イベントによくいるご当地キャラは『ショベ君』。
 オレンジと黄色のふかふかした造形に、頭の先に釣竿みたいなアームがついている。動くたびに内側で何を鳴らしているのかギギガガ金属音が響いていた。可愛さを狙ったのか、大きな丸い目はくるんと可愛く運転席に張り付けられていたけど、実際はアームの下の小さな隙間から外を眺めて動く。
 そっちは慣れたアクターが入って、舜の役割はその『ショベ君』に語りかけながら、すぐに気を散らせる子ども達を工場見学やミニゲームに誘って行く『お兄さん』。
 全然上手くいかなかったなあ。
 苦笑いしながら思い出す光景は、あちらこちらへ散って行こうとする子ども達を、必死にかき集めては「あっちを見て!」と声を枯らし続けた自分。「何で?」「何するの?」「何がしたいの?」「あっちがいい」「そっちは嫌」。周囲から投げかけられることばを何とか取りまとめようとして、逆に子ども達に引っ張り回されたりして。
 人けのないミニゲーム会場、ここからは入らないでと看板が立っているところほど、子ども達は群れて押し寄せる。
 何とか気を外らせようと思いついたのが、とりわけ大きなショベルカーのバケットを降ろしてもらって、そこの金属の爪に引っ掛けられて見せると言う荒技。渋る職員に頼み込んで、「うわ、うわわわ、何だ、これっ」と騒ぎながら少し浮いて脚をバタつかせてみれば、さすがに子ども達が何が起こったのかと寄ってきてくれた。「凄いね、俺を軽々と持ち上げちゃう。これで岩を砕いたり、砂や土を一気にトラックの荷台へ運び上げたりします」と声を張って、わあ、と子ども達が目を見張ったのは一瞬、すぐに「当たり前だろ、機械だし!」「乗りたい!」「自分ばっかり遊んでる!」「つまんない!」と非難轟々、危うくショベルカーに子ども達が次々よじ登りそうになって、慌てて降ろしてもらったが後の祭り、主催者にはひどくお叱りを受けた。
 曰く、大型機械はおもちゃじゃない、危険なもので遊んでいいと教えちゃ困る。
 その時、かすかに微かに違和感を感じた。
 面白そうって思わなければ、近寄りもしないし知りたいとも思わないよね?
 ショベルカーのご当地キャラまで作って、自分に無縁なものじゃなくて身近なものだよとアピールして興味を煽って、なのに、危険だから遠くから眺めてねって、なんかおかしくない?
 今なら分かる気がする。
 自分の知らない世界だから、興味を持っていた子はいるはずだ。けれどそこは「大人の世界」だと教えられても育っている。両親が働く場所、学校じゃなくて、公園でもなくて、沢山の大人がいて、それぞれの役割を果たしている場所。
 役割が果たせない「子ども」が入ってはいけない場所。
 そこに入っていいと言われたなら、そりゃ知りたいことを知りたいし、行きたいところに行きたいし、触りたいものに触りたいだろう。それをせずに、じっと大人しく、答えがネットで探せば分かるなぞなぞだったり釣竿クレーンでプラスチックの鉄骨模型を釣り上げるゲームをしてろと言われたなら、誰だって「つまんない!」って言いたくなる。
 あの時、俺はどうやれば、あの子達に興味を持ってもらえて、楽しんでもらえただろう?
「…できるかな」
「次は?」
「はいはい、俺!」
 尋ねる伊谷に手を上げて、戻ってくる禄と入れ替わる。
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