『ドラゴン・イン・ナ・シティ』

segakiyui

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第3章 『異世界』

1.ご当地キャラ 「好きなものばかり増えて、困る」(6)

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 顔色が悪い。
 貢は油圧ショベルから足取り軽く、頬を紅潮させて降りてくる舜と入れ替わりに近づいていく陸斗を見送る。
 さっきまでは調子良く、舜の即興芝居にアドリブまで入れていてくれたのに。
 確かに舜は凄かった、工場を一瞬に異世界の荒野に変え、荒ぶる竜を制御し従わせる稀代の術師を思わせる振る舞い、しかもそれは『舜』だったのだ、カザルでも他の誰かの役柄でもなく。
 舜の本性は『魔術師』、それも人の心を制御することにかけては超一流の天才。
 ならば禄は『創造主』だろうか。無から有を生じさせる、己の動き一つで。
 『創造主』に『魔術師』が組めば無敵、余りにもこちらに分が悪い。
 輝夜はきっと『探索者』だ。誰よりも長く、誰よりも深く、芝居について考え続けている、自分の人生を使い尽くすほど。
 自分はどうだろう、と冷ややかに考える。
 貢の役割は『財源』だったり『保障』だったり『暇潰し』だったり?
「…」
 苦笑いして運転席の各務に目をやる。
 幼い頃、あの運転席に座りたかった。自分よりはるかに大きな金属の塊を縦横無尽に操る各務は、伝説の達人のように思えた。私ぐらいのモノは幾らでもいます、そう言われても信じられなかった、信じたくなかった。
 お前の席はそこにはないと父親に断じられ、そんな所に座るほど落ちぶれてないでしょうと苦笑いされ、各務は反論一つせず無言で仕事をこなし、貢の夢は土足で踏み躙られた。
 油圧ショベルの運転席だけではない、あれをしたいこれをしたいと望んでも願っても、そんなことは意味がない価値がないと断じられ、無駄なことをするものではないと教え込まれた。
 出来るのは求められた役割だけ。
 『竜夢』へ来て初めてだった、何も求められず、出来ることをやってみせろと言われたのは。
 何でも出来る卒なくこなす、ほどほどに、他の人間の役割を奪わない程度にそこそこに。
『好きなものはないのか』
 ある日、寺戸に聞かれたことばが忘れられない。
『輝夜以外にだぞ』
 見抜かれていたと冷や汗が出た。恋愛ご法度ってことですよね、と殊勝を装って返せば、
『恋愛だったのか』
 冷笑された。
 大事にしていると言うことばの裏に、嫌われたくないからほどほどにしておきますという言い訳を読み取られた。
『そんなことであいつに勝てるのか』
 あいつは誰か。
 その答えが全てを物語っている。
 禄が望めば奪われる。舜が願えば落とされる。荒破須加屋でさえ持ち去ることができる、貢が大人しく今まで通り『良い人』でいるならば。
 けれど、貢にはそれらに張り合い打ち勝てる『価値』が見つからない。
「あ…」
「陸斗さん!」
 油圧ショベルの鉄階段を登ろうとした輝夜が足を踏み損ねて落ちかけ、思わず飛び出した。
「体調が悪いなら、別日でも!」
「体調は関係ない」
 振り向いた陸斗の顔は薄闇で本当に白く浮いて見えた。
「ネットで流すからって、本番の日を簡単に変えられるのか」
「…っ」
 鋭い視線で射竦められて唇を嚙む。
 そんな中途半端なつもりで、後半を監督とライヤー掛けもつことなどできるのか。
 寺戸ならどうする。まず駆け寄らないし、案じない。輝夜の力量は知っている。求めているレベルもわかっている。その上を越して来いと命じたのだから、万が一も覚悟はしている。芝居が破綻すれば、力量不足と切って捨てるつもりだろう、それこそ『竜夢』を引き換えにしても。
 貢はそうではない。
 貢は『竜夢』を引き換えにしない。最小限の犠牲で最大限の利益を引き出すことを願っている。元本割れするような博打は打たないし、輝夜が潰れると分かったら、どんな手を打っても安全圏に引き戻すだろう。
 けれど、それでは『魔術師』と『創造主』には勝てない。
「各務さん」
「はい」
「運転を僕に」
「…」
 もの言いたげにこちらを見る視線の意味はわかっている。
「『小型車両系建設機械の運転の業務に係る特別教育』は受けています」
 油圧ショベルには運転免許と操縦免許があって、それぞれに資格が必要だ。
「坊っちゃん、これは」
「……『車両系建設機械運転技能講習』も受けて……修了試験も合格しています」
 各務の目が少し見開かれた。やがて嘆息するように深い息を吐き、
「操縦することなんて、ないでしょうに」
「……僕にも諦められない夢ぐらい、ずっと昔にはあったということです」
 苦笑いしながら、震える指先で油圧ショベルの階段を掴んだ。
 そうとも、『保障』だ、万が一の状況を全て補い賄えるようになるならば、これからどれほどの技術や資格が必要になるだろう。
「でも、初めてです」
「…私が側につきましょう」
 各務の笑顔も初めて見たかも知れない。
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