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ベッド? ベッド? ベッド?
何、一体。どういうこと?
頭の中は壮絶に疑問符だらけなのに、体は勝手に水気を拭いて、パジャマを着て。そこではたと動きを止める。ベッドって、まさか、そういうことをしようって? え、でも、要はホモなんだし。でも、機能的には可能なのか。けど、気分的には不可能でしょう。ひょっとしたら気持ち的にできるかもって? ……さっきの場面を見てしまったから? でも、それって征服欲とか支配欲とか。でも、要はホモなんだよ? あたしの何にそんな欲なんて感じるの?
でも。
いいかも、しれない。今日は自棄にもなってるし、ほんとなら大槻くんに崩れそうになったぐらいだし、どうせ間違うんなら、要と間違った方が社会的にも安全だし、万が一子どもとかできたら。わあ。どうしよう、要の子どもだなんて、想像してなかったな。いや、ほんとはちょっとだけ、少しだけ想像してたことがある。うんと色っぽく迫って要が一瞬だけ男女でもいいやって思ってくれたら、あたしには小さな宝物が手に入るかもって。でも、そんなことはもう絶対不可能な幻で。
考えに考えてパジャマは着たまま、寝室へ忍び込む。自分の家なのに、そう言えば二人でここにいるなんてひょっとして初めてのことじゃないだろうか。
薄明かりの中、要がこっぽり布団に入って、ちら、とこちらに目だけ動かして、何だかそれが小動物みたいで可愛くて、切なかった。やだなと思う。やだな。今日、あの子らを失ったばかりなのに、今日また要も失うのは、さすがのあたしも耐えられない。失うぐらいなら、このままの距離で。このまま一生触れないで。ただもう側に居るだけで。ずきんと胃が痛くなる。
「万里」
「ん…」
「来て」
「……ん……」
よたよたしながら要の甘い声に誘われて、広げられた布団の前で立ち竦んだ。間違ってる。著しく間違ってる。どうしよう。間違ってるのに、あの腕の中に入りたい。けど、間違ってる。間違ってるんだ、これは。
「万里」
「ん」
「寒いよ?」
「ん」
「俺、風邪引いちゃう」
「……は、ぁ」
うわ、もうだめだ。こんな風に誘うんだ、要ってば。これで落ちない男がどれだけいるのかな。女のあたしでも温めてやるかと思ってしまうような頼りなさ、可愛さだよね。けど、あたしは抱けない。女だからね。抱けないし。抱けないのに、どうして要は誘うのかな。
半泣きになって要が広げた布団に潜り込むと、ふわりと布団が降ろされた。お互いに距離を取ったまま、じっと数秒、冷えていた布団がじっくり温まってくるのに溜め息をついたら、それが同時で少し笑う。
「万里」
「うん」
「何があったの」
「……データが」
「データ?」
「……うん……せっかく集めたのに、設定ミスで」
「……だめになったの」
「うん……」
「そっか……」
ふぅ、と優しい息が髪にかかって、熱が近くなる。緊張するのに、一方でもっと泣きたくなって俯いた。
「頑張ったのに」
「うん」
「……あの子らも頑張ったのに」
「…………うん」
「………あたしが……もっとちゃんとしてたら」
「……万里のせいじゃないでしょ」
「……違う……あたしのせ…だ」
ぶわ、と涙が溢れて止まらなくなった。要の馬鹿。あたしの馬鹿。念願の、きっと最初で最後のこんな時に、仕事の愚痴なんか言って鼻水垂らして大泣きして、そんなの色っぽいのなんて無関係だ。いつも肝心なところで間違ってばかりいて、いつも大切なものばかり失うんだ。
悲しくて悲しくてわんわん泣いてたら、いつの間にかすぽりと要の腕の中に居た。正確に言うと、あたしも要にしがみついて抱き締めてたから、抱き合ってくっついていたんだけれど、初めて抱き締めた要の体は凄く温かくて柔らかくて気持ちよくてくらくらして、もっと欲しくてうんときつく力を入れて抱きついた。
「万里」
「うんっ」
「あのさ、俺」
「うん…っ」
「淋しいんだよ」
「うん…?」
「だからさ」
「うん」
ごくん、と要が唾を呑み込むのがわかる。やがて掠れた声で小さくつぶやいた。
「万里」
「うん?」
「俺に……キス、して」
「うん……え、ええっ!」
「……だめ?」
ぎょっとして顔を上げると、要は真面目な表情だった。意図は全然わからないけど、それでも本当にキスして欲しがってるように見えた。そろそろと伸び上がって、迷ったけれど、そっと頬に唇を当てる。親愛の、友情の、友達への、キス。それだけでも心臓が躍るほどどきどきして、まるで子どもみたいに顔が熱くなった。けれど、次の一瞬。
「っ、んんっ??」
「んー」
「んっんっんっ」
「ん……」
顔を固定されて、ぱくんと食べられるみたいに要が口を覆ってきて、驚いて目を見開いたけれど、相手は気持ち良さそうに目を閉じてどんどんキスを深めてきて、あげくに舌まで入ってきて、一気に息が上がって死にそうになった。じたばたもがいてると、ちゅ、と最後に吸われながら口を離されて、はあはあ喘いで瞬きしながら要を見た。
何、一体。どういうこと?
頭の中は壮絶に疑問符だらけなのに、体は勝手に水気を拭いて、パジャマを着て。そこではたと動きを止める。ベッドって、まさか、そういうことをしようって? え、でも、要はホモなんだし。でも、機能的には可能なのか。けど、気分的には不可能でしょう。ひょっとしたら気持ち的にできるかもって? ……さっきの場面を見てしまったから? でも、それって征服欲とか支配欲とか。でも、要はホモなんだよ? あたしの何にそんな欲なんて感じるの?
でも。
いいかも、しれない。今日は自棄にもなってるし、ほんとなら大槻くんに崩れそうになったぐらいだし、どうせ間違うんなら、要と間違った方が社会的にも安全だし、万が一子どもとかできたら。わあ。どうしよう、要の子どもだなんて、想像してなかったな。いや、ほんとはちょっとだけ、少しだけ想像してたことがある。うんと色っぽく迫って要が一瞬だけ男女でもいいやって思ってくれたら、あたしには小さな宝物が手に入るかもって。でも、そんなことはもう絶対不可能な幻で。
考えに考えてパジャマは着たまま、寝室へ忍び込む。自分の家なのに、そう言えば二人でここにいるなんてひょっとして初めてのことじゃないだろうか。
薄明かりの中、要がこっぽり布団に入って、ちら、とこちらに目だけ動かして、何だかそれが小動物みたいで可愛くて、切なかった。やだなと思う。やだな。今日、あの子らを失ったばかりなのに、今日また要も失うのは、さすがのあたしも耐えられない。失うぐらいなら、このままの距離で。このまま一生触れないで。ただもう側に居るだけで。ずきんと胃が痛くなる。
「万里」
「ん…」
「来て」
「……ん……」
よたよたしながら要の甘い声に誘われて、広げられた布団の前で立ち竦んだ。間違ってる。著しく間違ってる。どうしよう。間違ってるのに、あの腕の中に入りたい。けど、間違ってる。間違ってるんだ、これは。
「万里」
「ん」
「寒いよ?」
「ん」
「俺、風邪引いちゃう」
「……は、ぁ」
うわ、もうだめだ。こんな風に誘うんだ、要ってば。これで落ちない男がどれだけいるのかな。女のあたしでも温めてやるかと思ってしまうような頼りなさ、可愛さだよね。けど、あたしは抱けない。女だからね。抱けないし。抱けないのに、どうして要は誘うのかな。
半泣きになって要が広げた布団に潜り込むと、ふわりと布団が降ろされた。お互いに距離を取ったまま、じっと数秒、冷えていた布団がじっくり温まってくるのに溜め息をついたら、それが同時で少し笑う。
「万里」
「うん」
「何があったの」
「……データが」
「データ?」
「……うん……せっかく集めたのに、設定ミスで」
「……だめになったの」
「うん……」
「そっか……」
ふぅ、と優しい息が髪にかかって、熱が近くなる。緊張するのに、一方でもっと泣きたくなって俯いた。
「頑張ったのに」
「うん」
「……あの子らも頑張ったのに」
「…………うん」
「………あたしが……もっとちゃんとしてたら」
「……万里のせいじゃないでしょ」
「……違う……あたしのせ…だ」
ぶわ、と涙が溢れて止まらなくなった。要の馬鹿。あたしの馬鹿。念願の、きっと最初で最後のこんな時に、仕事の愚痴なんか言って鼻水垂らして大泣きして、そんなの色っぽいのなんて無関係だ。いつも肝心なところで間違ってばかりいて、いつも大切なものばかり失うんだ。
悲しくて悲しくてわんわん泣いてたら、いつの間にかすぽりと要の腕の中に居た。正確に言うと、あたしも要にしがみついて抱き締めてたから、抱き合ってくっついていたんだけれど、初めて抱き締めた要の体は凄く温かくて柔らかくて気持ちよくてくらくらして、もっと欲しくてうんときつく力を入れて抱きついた。
「万里」
「うんっ」
「あのさ、俺」
「うん…っ」
「淋しいんだよ」
「うん…?」
「だからさ」
「うん」
ごくん、と要が唾を呑み込むのがわかる。やがて掠れた声で小さくつぶやいた。
「万里」
「うん?」
「俺に……キス、して」
「うん……え、ええっ!」
「……だめ?」
ぎょっとして顔を上げると、要は真面目な表情だった。意図は全然わからないけど、それでも本当にキスして欲しがってるように見えた。そろそろと伸び上がって、迷ったけれど、そっと頬に唇を当てる。親愛の、友情の、友達への、キス。それだけでも心臓が躍るほどどきどきして、まるで子どもみたいに顔が熱くなった。けれど、次の一瞬。
「っ、んんっ??」
「んー」
「んっんっんっ」
「ん……」
顔を固定されて、ぱくんと食べられるみたいに要が口を覆ってきて、驚いて目を見開いたけれど、相手は気持ち良さそうに目を閉じてどんどんキスを深めてきて、あげくに舌まで入ってきて、一気に息が上がって死にそうになった。じたばたもがいてると、ちゅ、と最後に吸われながら口を離されて、はあはあ喘いで瞬きしながら要を見た。
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