霊道開き

segakiyui

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 たぶん、畑中さんの奥さんはおそらくはもう生きてはいまい。あれほどの声を絞り出せる喉が、あの細い首だとは信じられない。何かできっと大きく引き裂かれて、それであれほどの声になった。
 けれど、たぶん問題は、これから先のことのはず。
 私はそっと目を開けた。予想はしてたけど、玄関は見事にきれいに戻ってた。血の跡もない、泥靴の跡も。
 どこからがあちらの世界の映像だったのか、どこでどう重なり出していたのか、視る力のない私には説明できないこと。そして、もうひとつ説明できないことは、おそらくさっきの巨大な悲鳴がどこにも響きもせず届いてもおらず、それでもやっぱり、部屋の中には絶命している畑中さんの奥さんがころりと転がっているだろうという想像の根拠で。
 いや、あるいは、畑中さんの奥さんは生きているかも知れない、今何とか処置をしたら助かるレベルにあるかもしれない。どちらにせよ、確かめるには隣を訪ねるしかないけれど、その訪ねたときの怖さというのは、「はい何か」と顔を出した奥さんがだらだら真紅の血に塗れているのに平気な様子とか、全くもって普通にしか見えないのに、その肩越しに見えるのはリビングに転がって妙な具合にねじれた体で、その顔というのが今相手をしてくれている畑中さんそのものであるとか、つまりは、私がどちらにいるのかわからなくなってしまっているということで。
 ああ、もううんざりするなあ。
 第一、隣には旦那さんがいるじゃないか、たとえ出掛けているにせよ、いずれは帰ってくるはずだし、帰ってきたならあれやこれやと事情を確かめに来るだろう。生きてるにしても死んでるにしても、正直私はくたくただし、これ以上のことは引き受けられない。
 そう思ってのろのろと立ち上がり、開け放っている玄関のドアを閉めようとして手を伸ばすと。
 どおんっ! げあんっ!
 ドアが周囲の空気を震わせながら鳴って揺れ、背後で開け放ったままの窓ガラスがより派手になり、私はそのまま立ちすくんだ。
 きゅいきゅいきゅい。
 空中で固まったままの私の右手にドアが自分で近づいてくれる。きしみ音は今まで聞いたことがないけれど、どうにも何か挟まってて、それが廊下とドアに引きずられて擦られて耳触りな音、けれど、これは現実だろうか。どうやら、そうではないらしい、いまだ悪夢は続行中、そう気づいたのは下に落とした目がドアの挟んでるものを見つけてしまったせいで。
 それは小さな細い右腕、肩からずるずる赤や白、黄色みがかった肉そぼろのようなものを引きずってねじくれ、ドアにしがみつくようにがつりと下辺をつかんだまま。服は見覚えある赤で、そうすると、このドアの向こうにいるものは。
 生来の謎解き根性が恨めしい。下にひきずっているか細い手の哀れさに目を据えていればよかったものの、ドアがゆっくり手前に寄って、続いて私の右手にとらえられるのを拒むようにずりずりと腕を引き回しながらもう一度開いていくのだから、ついついまっすぐ目を上げてしまえば。
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