『BLUE RAIN』

segakiyui

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25.SALMON CLAY

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 ファレルが駆け付けて来たのは、それから数分たっていなかっただろう。
「残念です、パターソン管理官」
「……」
「『グランドファーム』があなたに事情聴取したいと」
「ROBOTどもの手先が」
 吐き捨てるようにつぶやいたパターソンは、車に乗せられる前に俺を振り返った。酷薄な紺に近い青の目に嘲りを込めて問いかけてくる。
「お前は自分が何をしてるのかわかってるのか」
「……」
「そいつは男だぞ? ROBOTだぞ?」
「……」
「この世界に何ももたらさない。破壊だけだ」
 びく、と腕の中でぐったりしていたスープが震えた。
「お前が人類を滅ぼすんだ」
「あんたは」
「なんだ」
「誰かを必要としたことがあるか?」
「なに?」
 俺は尋ねた。
「誰かを大切だと思ったことがあるか?」
「なんのことだ」
「あんたの目に入ってるのは『人類』ってやつなんだろうが、どこにそんなやつがいるのか教えてくれ」
「……」
「それとも、あんたが『人類』を必要としてたのか?」
 パターソンは凍り付いた目で見返した。
「誰かを大切だと思い、必要だと思ったとき、そいつが『何もの』かなんて関係ねえ。そいつがそいつでいてくれればいいんだ。それだけが望みだ」
「……」
「そんな気持ちを持ったことはないのか」
「……そんなものは、知らない」
 パターソンは干涸びた声で笑った。
「知りたくもない。私はお前みたいに人間以下にならない」
「!」
 スープが体を強ばらせ振り返ろうとしたのを、腕の力を強めて制する。
「人間以下、な」
「DOLLなんか抱きやがって。ROBOTなんかと馴れ合いやがって」
「知らねえのか?」
「なにを」
「人間だって、もともと土くれだったそうだぞ?」
 ぽかんとしたパターソンをファレルが無言で押しやる。初めてみる不安そうな目をきょろきょろさせながら、パターソンが車の後部座席に押し込まれる。その隣に乗り込みながら、ファレルが俺を見上げた。
「三日ほど休暇をやる」
「はん?」
「お前もそいつも使いもんにならねえだろ?」
「ああ……『グランドファーム』からの指示か?」
「いや、新署長から」
「もう配属されたのか?」
 驚くとファレルは奇妙な顔になった。
「いろいろ条件を考慮して」
「うん?」
「とりあえず辞令がおりるまでは仮処遇らしいが」
「ああ」
「新署長は俺、だとさ」
 笑っていいのか怒っていいのか、そんな複雑な顔だった。
「ここはとんでもなく面倒な街なんだぞ?」
「そうだな」
「犯罪はちっともなくならねえ」
「確かに」
「ガキも荒んでてひったくりや強盗も絶えねえ」
「そのとおりだ」
「手間暇かかるばっかりの、お荷物な街だ」
 ファレルは大きく溜息をついて付け加えた。
「だが、俺はここが好きなんだ、困ったことに」
「ああ……全くだ」
 にやりと笑った相手に笑い返す。
「三日後だ」
「わかった」
「三日たったら戻ってこい」
「約束する」
「いいな、スープ、もきちんと回復させてこいよ?」
 ファレルは、スープ、と丁寧に呼んだ。
「女房の面倒を見るのはダンナの勤めだからな?」
「おいおい」
 いつもなら、俺がですか、と跳ね返ってきそうな声は、今のスープから戻らない。
「きつかったろうから」
 ファレルが去り際にぽつんと付け加えた。
「大事にしてやれ」
「わかってる」

 体重全部を預けてはこない、けれど、どこか中身が全部消えてしまっているようなスープを抱きかかえて、俺は車に戻った。
 助手席に押し込まれるままのろのろと座席に身体を落とすスープの瞳は虚ろだ。人間ならば精も根も尽き果てた、そんな顔で座り込んでいる。
 今は何を言っても聞こえないんだろう。そのまま俺はスープを家に連れ帰った。
 玄関を入るときに、一瞬身体を強ばらせたが、どうやら自分の凄まじい格好で周囲を汚すのが嫌だったらしい。ここで脱ぐか?と聞くと、ぼんやりとした顔で俺を見た。
「シーン」
「ん?」
「俺、片腕ないです」
「そうだな」
「酷い……格好です」
「そうだな」
「俺……」
 俯くスープの身体から黙って服を剥いでやる。ぼろぼろになった片袖の上着。シャツ。血まみれでごわごわのスラックス。ねじれてずたずたのネクタイ。下着一枚になってぶる、とスープは震えた。そのまま階段を連れ上がって、めったに使わないニ階のシャワールームへ連れ込む。タブに熱い湯を張りながら、俺もさっさと衣服を脱いだ。
「来いよ」
「!」
 ぎく、と身体を強ばらせたスープが俺を見て震えながら竦む。
「ほら、寒いから」
「あ」
「今さら恥ずかしがってる場合か?」
「え、あの」
 そうじゃなくて、と微かに続けるのを無視して下着を剥ぎ、シャワーの下へ引き込んだ。
「あ、はっ」
「熱過ぎたか」
「い、えっ」
 それでも見る見る身体が桜色に紅潮していく。青白くまるでそれこそ粘土細工のようだった手足をゆっくりと掌で撫でて汚れを落としてやる。まだ残り三本には爆薬が仕込まれてる、そうは思ったが、それこそ今さら腫れ物を扱うようにしたって仕方ない。
 石鹸をつけ、泡立てながら強めにこすって、右腕の付け根まできて手を止めた。
「シ、シーン」
「うん」
「あの」
「痛かったか?」
「いえ」
 濡れた髪を振りながらスープが応えた。
 腕の端はまるでパイプの接続部のように銀色の円盤になっている。中心に僅かに凹んでる部分があり、そこはでこぼこした複雑な造りになっていて、まるで切断面に金属のプレートをはりつけているようだ。
「ここも洗って大丈夫か?」
「はい」
「痛かったら言えよ?」
「痛くなんか……あるはず、ないです」
「わかんねえじゃねえか」
 俺はそっと掌で銀の円盤を撫でた。血とどす黒い埃のようなもので汚れているところを拭う。ふいに、びくっ、とスープが震えてぎょっとした。
「痛いのか?」
「あ、あの」
「ん?」
「痛い、ような、気がして、?」
 スープは茫然とした顔で俺を見た。
「なぜ?」
「そりゃ、痛いだろ、切り落としたんだから」
「いえ、でも」
 不安そうなやつに、俺はそっとその部分を撫で、石鹸を流してから唇を落とした。
「あ!」
「なんだ?」
「あ、あのっ」
「うん?」
「あの、俺」
 すううっと赤くなっていく顔に、少しふざけてみせる。
「そっか、敏感な方だからな」
「は?」
「感じた?」
「ばっ」
 満更冗談でもなかったらしい。微かに反応した下半身に気づく。
「み、見ないで下さい」
「って……視界に入るんだから、仕方ねえだろ?」
「……あっ」
 ゆっくり泡を落としながら、首筋に口を当てる。温もった肌につい舌を動かしてしまうと、切ない声を上げてやつが軽く逃げた。
「シーンっ」
「なんか」
「え?」
「懐かしいなあ」
 そのまま湯を浴びながら背中から抱き締める。
「ずいぶん会ってなかった気がする」
「今朝、一緒、でした」
「そうだよな?」
 軽く息を弾ませたやつが応じるのに、そっと顎を掬った。
「一日も離れてねえよなあ?」
「は、い…んっ」
 スープの口に舌を滑り込ませて、拒まれないのにほっとする。しばらく舌を絡ませてから、シャワーを止め、タブに二人で入った。重なるようにやつを抱き込みながらでいっぱいいっぱいのタブ、溢れる湯にスープが溜息を漏らす。
 そのまま二人ともしばらく無言で、お互いの熱だけ味わった。

 人生を全て凝縮したような日があるらしい。
 俺には今日がそうだった。まったく何て一日だったんだか。  
「スープ?」
「あ」
「何やってる? 早く来い、寒いから」
「はい」
 風呂から上がって、夕食もそこそこにベットに入る。
 いつまでたっても近寄ってこないやつを振り返ると、スープは不安そうな目で部屋を見回している。
「どうした?」
「あの」
「うん」
 俺が開けている布団の中にそろそろと入ってきながら、それでもスープは落ち着かない顔で周囲を見た。
「あの、スティックはどこに」
「ああ、あれな」
「はい」
「『グランドファーム』に突っ返した」
「!」
「こら、起きるなよ、風が入る」
「あ、す、すみません」
 せっかく腕の中におさまったと思ったら、ぎょっとしたように身体を起こしたから、慌てて叱る。
 俺も結構堪えてる。こいつが腕から離れるときにいいようのない不安が過る。
 スープは忙しく瞬きながら、また俺の腕の中に戻った。
「戻した? どうして」
「いらねえから」
「だって」
「もし、お前が俺を殺す気なら」
「っ」
「あんなもんなんか、役に立たねえ、そうだろ?」
 固まってしまったやつを見る。
 夕方のパターソンを仕留めたやり方は完璧だった。俺が声をかけるのが一瞬遅かったら、パターソンは生きていない。
 もしスープが俺を屠る気になっていたら、俺には抵抗する暇なんぞない。何が起こったかわからぬままに、首をねじ切られているはずだ。
「シーン」
「ん?」
「なら、なぜ」
 スープの瞳が暗く陰った。
「俺をどうしてまた」
 連れ帰ったりしたんです、とそれは吐息の囁きで、頼りなく歪んだ顔に笑ってみせた。
「いいんだよ」
「え?」
「もし今ここで、お前の爆弾が暴発しても」
「!」
「お前が突然キレちまっても」
「……」
「それで隣に寝てる俺が誰だかわかんなくなって。いや、わかってても、か」
「……」
「お前が俺を殺さざるを得なくなったなら」
 そっと手を伸ばし、顔を強ばらせているやつの頬を撫でてやる。
「俺は殺されてやるから」
「っっ」
「ただ、そうなると、お前の方がつらいだろ?」
「シー……ン……」
「だから、ぎりぎりまでは抵抗してやるってことも考えとく」
「俺……」
 くしゃくしゃと顔をしかめたスープが涙を零すのに、俺はくすくす笑った。
「どうだ、ぐっと来たか?」
「……っ」
「ん?」
「……ばかっ……です」
「は?」
「あなたは、ばか、です」
「区切ってまで言うかね?」
 眉をあげて見せると、スープは苦しそうに唇を噛んだ。
「俺は……」
「うん」
「俺、は……」
 額を俺の胸に押しつける。
「スープ?」
「は、い」
「俺もつらかったぞ?」
「は……い」
「だから」
「?」
「今夜は抱かせろ」
「……は、い……」
 緑の瞳がきらきら光りながらゆっくり閉じられた。

 キスをする。
 唇に、頬に、耳たぶに、首に。
「っは」
「気持ちいい?」
「っん、は」
 緩やかにうなずいたスープが眉を寄せて仰け反った場所を、舌で探りながら這いおりる。
 滑らかで傷一つないプラスティックの身体のはずなのに、さすがに無茶を繰り返したせいか、ところどころに裂かれたような凹みがある。
「ここ、どうした?」
「っあ、あのっ」
「ん」
「パターソンのガードを、っふ、んっ、突破する、ときに……っう」
 乱れる呼吸の合間にスープが応えた。俺の舌がそこをなぞると、ひくりと身体を震わせて首を振る。
「あ、ああっ」
「弱い?」
「少し、傷っ……うっぅ」
「傷? ああ、そう言えば」
 舌先に微かな味がする。うっすらと甘い、クリームみたいな感触。
 脇腹についたその傷を部屋のわずかな明かりで確かめてみると、刻まれた底にぬらっとした滲みがあった。薄く赤いサーモンピンクの液体。ちょうどスープの疑似体液みたいな。
「血、がでてる」
「っうんっ」
「流れ出してはこないが」
「っっあ」
「なんか、甘いな」
「っやあ」
 その味に引かれて、つい強く舌を押し込むと、高い悲鳴が上がった。びくっと仰け反ったスープが目を見開いて息を弾ませる。
「あ、あ、あっ」
「なに?」
「だ、め」
「うん?」
「そこ、っ、やめてっ、ひっ」
「ここ?」
「あああっ!」
 つるんと舌を動かした瞬間にスープが大きく震えた。荒い呼吸を繰り返しながら、今にも泣き出しそうになっている。ふと気づいて下半身に手を滑らせると、固くそそりたった下肢がねっとりとしたものに濡れている。
「うん?」
「あ!」
「なんだ?」
「やめ、てっ」
「だって」
 確かスープは何も出ないって言ってなかったか? 
 思わず布団を剥いで覗き込むと、色付いて勃ちあがったものが、傷に滲んだのと同じような薄赤い雫をしたたらせていた。部屋の明かりにうっすらとぬめったそれが、妙に妖しく揺らめいてみえる。
 ごく、と思わず唾を呑み込んだ。
 なんだか、うまそう、に見える。さっきの味が口の中に戻ってきた。同じように甘いんだろうか? 自分と同じものを口に入れるのはぞっとしないが、ちょっと舐めてみても、いい、か。
 ついふらっと唇を寄せると、ふわりと温かな匂いがした。焼き上がったばかりの菓子のような柔らかな香り。
「シ、シーン」
「うん?」
「お願い、です」
「ん?」
「やめて、下さい」
「何を」
「そこに触れないで、ください」
「どうして」
 途切れ途切れにスープが懇願した。
「前も触ったじゃないか」
「で、でも」
「今はだめ?」
 必死にスープがうなずく。俺に見下ろされて、脚を開いた姿勢のまま居畳まれないようにゆらゆら身体を動かす。股間で濡れた光を放ったものが同じように揺れる。
「誘われてるみたいだ」
「あ」
「そんなふうに動かれると」
「う」
 スープが不安そうに眉を寄せた。怯えた顔で俺を見上げ、唇を噛む。
 それはまるで巨大な花を覗き込んでいるような気分だった。
 中心に香りを放つ花心がある。それは甘い匂いを放ちながら、俺を引き込み吸い寄せる。怯えた顔も、不安そうな瞳も、震える唇を噛む仕草さえ、それはその先に待つ快楽を約束するようにしか見えない。
「スープ」
「は、い」
「なんか、やばい」
「……え?」
 掠れた声が耳を打つ。また揺れる花心がゆっくりと蜜を零している。俺の目に見つめられて、それだけで内にある熱を押さえ切れないように、とろみのある液体を膨れ上がらせていく。
「す、まん」
「え……あ、あっ!」
 俺は顔を落とした。舌を差し出し舐めるだけ、そう思っていた制御をあっさり砕かれて、口を開いてスープの花芯を深くまでくわえこむ。
「はあうっ!」
 スープの悲鳴が耳を突いた。
 口の中いっぱいに広がったのは、それこそ花の蜜を思わせる芳香と甘さだった。ぬめりに舌を回し、舐め上げ、唇をすぼめて一滴残らず吸い尽しながら身体を引く。
「ひ、いうっうううっ」
 激しく震えたスープが腰を跳ね上がらせるのを押さえ込み、俺は夢中でスープの花芯を貪った。
 逃げかけるのを支え上げると、両手にやわらかな果実が触れる。それを握り潰したいような衝動が襲って、堪えようとしたがやはり力が入ったらしい。もみしだくような形になって、スープが声を上げながら仰け反る。何度も舌を動かして舐め回すと、どんどん蜜が溢れてくる。泣きながら跳ねるスープの身体に、指先が滑って背後に埋まる。
「はうぅっ」
「!」
 一層高い悲鳴があがって、俺は一瞬指を引きかけた。それを引き止めるように、指がぬめり、と吸われる。
「んっ、ああっ」
 引き戻されるように突っ込んだ指が奥深くまで入ってスープが痙攣した。口の中にいきなり弾けたのは、それまでより数倍濃厚で甘い蜜。舌をとろかし、喉の奥まで流れ込む甘味に我を忘れる。
「んっっ」「あぅっ」「んんぅっ」「うんっ」
 繰り返し指を深く突き入れて、それで押し出されるように中心から滲み出る蜜を吸い取る。思いついてかき回して撫で摩ると、また新しい蜜が溢れ、微かに違う香りと味が広がってくる。
「ん、ぁあっ、あああっ」
 蕩けた声が漏れ続けるのと同じように、指もとろとろとした温かなぬるみに浸され始める。
 俺は後ろからべとりと濡れた指を引っぱりだした。名残り惜しくスープのものを離した口に入れてみると、こっちも甘い。もう一度突き入れて、中身を掬い取り、かき出すとスープが腰を跳ねさせて身悶える。
「シー……ンんっ……っ!」
「甘い」
「あ、ぁああっ」
「凄く甘いな、スープ」
「は、ああっ、あぁ」
 まるで蜜壷に入った蜂蜜を舐め取る熊になったような気がした。指ではじれったくて、直接口をつけて吸いにいく。脚を押し広げられて股間のものから新しい雫を次々零しながら、スープがまた大きく跳ねる。
「シーンっ……ひぅっ、あっ」
「スープ」
「あっ、あっ、あああっ」
「もっとくれ」
 俺が舌をねじ込むと、スープはがくがくと身体中を震わせ始めた。全身を濡らした汗までがとろみを帯びて甘い匂いを放ち出し、その全てを吸い尽くせないのがくやしいほどだ。
「ゆ、ゆる、してく…っ」
「スープ」
「お願いっ」
「もっと」
「もう、俺っ」
「まだだ」
「シーン……っ」
「もっと」
「あ、ああああ、ぁあっ!」
 俺は指を増やして蜜壷を開けた。舌を押し込み舐め回した。そうしている間に雫に濡れる花芯も放っておけなくて、片手で花芯を扱き上げる。
「ひっ、ひうっ」
 がくっ、がくっ、と激しく腰を揺らしたスープが泣き叫びながら反り返る。
「ぁあああああっっ」
 掴んでいた花芯がみるみる膨らんで弾け、赤みの濃くなった液体をまき散らすのを見たとたん、俺の中の何かが吹っ飛んだ。スープの腰を抱え上げ、指でさんざん嬲って待ち構えるように口を開いた後ろに、俺のものを突き立てる。
「きゃ、あああああっっ!」
 スープが高い声を上げた。まっすぐに俺を見上げた緑と金の瞳が涙を零れさせながら、みるみる朦朧と弛んでいく。
 俺のものがずぶりずぶりと入っていくに従って、その揺れを必死に逃がすようにスープがずり上がった。弱々しくあげた左手を掴むと、必死に握り返してくる、その指先が苦痛を堪えるように俺の手の甲に爪をたてる。腰を掴んで引き降ろし、奥まで深く抉っていく。
「う、あ、あ、ああっ」
「スープっ」
「あ、あぅううう、っく、ううぅっ」
「す、まん」
「ああっ、ああああっ」
「止まらん」
 開いた唇からよだれを零しながら、スープは首を振った。身体の中に入ってくる俺を拒みきれないで力のなくなった両脚を開いたまま、ぼろぼろ涙を零す。それでも勃ちあがった中心からはやっぱり花の蜜を思わせるとろりとピンクの液体が溢れ続けて、スープの腹の上にぽたぽた落ち広がっていく。
 それはまるでスープが自分の体液を吹き零していくようで、命を吐き出しながら感じているようで、どうしようもなく俺を煽る。
 スープの命をこの手で握り左右するような、圧倒的な力の感覚。腰を押さえてなおも強く突き入れる。
「あううっ!」
「っく!」
 ぎゅ、と締めつけられて、俺は呻いた。吸い込まれるような動きが加わる。俺のものを舐めしゃぶるようなうねりに翻弄されていく。
 掠れた悲鳴と零れ続ける雫が部屋の空気の密度を上げて、俺は喘いだ。スープの中に呑み込まれて、溺れ死にそうな、そうなってもなおスープの全てを呑み尽したいような衝動にかられ、激しく相手を揺さぶり続ける。
「ああっ、ああっ、ああっ、ああっ」
 スープの声はもう繰り返される悲鳴だけだ。何も拒めなくなってぐったりしている身体を、好き放題に犯し続ける、その自分に一瞬ふっと醒めた意識が過る。
 これがDOLLなのか。これが性行為のために造られた身体なのか。
 なるほど、これに溺れたら、きっともう手放せない。泣きながら懇願する声も、涙を吹き零しながら縋ってくるような目も、掠れた熱い吐息を吐き続ける口も、汗と体液に塗れて甘い匂いを放つ肌、指を口を愛撫を誘う花芯と蕾、猛々しい刃を抵抗しながらも受け入れ呑み込む壷、震えながらのたうつ手足、乱れて顔に張りつく髪、全てがこちらの欲を煽るものでしかない。
「う、くんっ!」
「くっ」
「う、は、ぁああっ!」
「くううっ!」
 さわりと撫でただけの掌にもう反応して、スープの花芯がまた弾けた。零れ落ちる命の滴り。同時に深く強く食い締められて、一気にこちらの感覚も吹っ飛ばされそうになる。
 それを堪えるのは、ただもっとスープを味わいたい、啼かせたい、もがかせたい、そういう思いだけだ。
 つまりはこの命を支配下に置いてただひたすらに貪りたい。
 俺の中にどす黒く思えるほどの欲望が動く。
 『これ』は俺のだ。俺のもの、俺だけが貶められる美しい獲物。
 自分の中にこんな卑劣な意志があったのかと思うぐらい、俺だけがスープを所有していたい。
 弾けた液に濡れた指を俺はスープの口元に差し出した。霞んだ虚ろな目をした相手が、喘ぎながらそれを吸い込み舐めしゃぶりだす。舌が指をとらえて絡んでくるその動きが、今揺さぶってる中身の動きに連動して、なおまた激しい波を押し上げてくる。
 それを察したようにスープが口を開いた。とろりと垂れる液体とともに絡めた舌から指を零し、泣きながら甘い声で呼ぶ。
「シーン……っ」
「うんっ、くう」
「もう……俺……っ」
「く、う、あ、あああっ!」
「うっあ、あーーーっ」
 俺が叩き込んだものに貫かれたようにスープが仰け反り、ベッドに崩れ落ちた。

 お互いにくっつき抱き合ったまま、どれぐらい眠ったのだろう。
「ん……」
 珍しく目が覚めたのは俺の方が早かった。隣で目を閉じているスープの身体からはまだ甘く濃い蜜の匂いがする。
 それでももう、もう一度貪ろうという気にならなかったのは、その顔があまりにも幼く安らかだったからだ。
「無茶したからな」
 苦笑する。が、すぐに冗談じゃない、と顔を引き締めた。
 あれがDOLLの本性なのか。人間の欲を煽り、引き出し、何度も自分に引き寄せ挑ませる。
 もし、スープじゃなくて、ただの通りすがりのDOLLだとしたら、俺はあそこで止まれただろうか。もっと激しい快楽を、もっと濃い蜜の香りを求めて、俺はあらゆる手段を試みようとしたに違いない。
 『人』が造った次世代の『ROBOT』は、とんでもなく蠱惑的だ。神様というやつが『人』に惚れ込み入れ込みすぎて、天使達から怒りをかったとかいう昔話もわかるような気がする。
 ただ、神様と呼ばれたやつは『人』への執着を解き放って放り出した。おかげで『人』は自由に生き繁栄できた。
 けれど、俺達『人』は、これほど愛しく引き付けられる『ROBOT』をちゃんと解き放ってやれるんだろうか、自分達の欲望で、貪り潰してしまわずに?
「ん……ふ」
「スープ?」
「シーン……」
「大丈夫か?」
 小さく息を吐いてスープが目を開いた。窓から差し込んできた二日目の夕日を弾いて、金の目が瞬く。
「はい……」
 微かに笑って目を閉じる。
「シーン……激しいんですね」
「……すまん」
「でも、なんか、俺」
「ん?」
「なんか……すごく……」
「スープ?」
「安心……した……」
「スープ」
 くうくうと再び寝息をたて始める。ROBOTもやっぱり疲れると眠るのか。
「安心、か」
 俺は吐息をついて、スープを引き寄せた。くたりとした身体をそっと抱き締める。
「なら」
 小さく吐く。
「その安心を守ってやるよ」
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