『ラズーン』第六部

segakiyui

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3.パディスの戦い(14)

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 戦いは勝利に終わった。
 朝焼けの光の中を引き上げて来た面々は、生き延びた誇りに顔を輝かせている。
「やったな」
「ああ」
 笑み交わしたリヒャルティとユカルは、集まって来た人間の中にユーノを探し出せず、次第に不安を強めた。
「ユーノは?」
「誰か『星の剣士』(ニスフェル)を見た者はいないか?」
 誰もが知らないと返答するのを聞いて、リヒャルティが蒼ざめた。
「おい…冗談じゃねえぜ、ここまで来て」
「至急、点呼を取れ!」
 ユカルの声に次々と報告が寄せられてくる。死者10名、負傷者33名、生存者101名……行方不明1名。
「誰か…少しでも『星の剣士』(ニスフェル)を見かけた者はいないか?!」
「いや、俺は…」
「ぼくも…」
「私も…」
 ざわめきが男達の間を走った。
「そういや、パディスの方へ走っていく伝令を1人取り逃がしたが、あれを誰か切ったか?」
「え? いや」
「気づかなかったぞ!」
「え…」
 尋ねた男が青くなる。
「まずいな」
 リヒャルティが白い顔のまま呟いた。
「ぐずぐずしてると次のが来る」
「どうする、ユカル」
「っ」
 きり、とユカルは唇を噛んだ。好きな女なら守って見せる、そう豪語したのはつい昨日のことだ。
「リヒャルティ」
「うん?」
「ここは一旦引き上げてくれ。300名なら『鉄羽根』と外壁で守れない数じゃない」
「お前は?」
「『星の剣士』(ニスフェル)を捜す。ひょっとすると、パディスへ走った伝令を追ったのかも知れない」
 声に並々ならぬ決意を感じたのだろう、リヒャルティは大人しく同意した。
「わかった。怪我人が30人ってのはちょいと辛いしな。気をつけろよ、1人で別隊に逢ったら…」
 その先をリヒャルティは呑み込んだ。ユーノが出くわした可能性を思いついたのだろう。ついてきたそうな利かん気な表情が瞳を掠めたが、さすがに一隊を率いる男、ぐっと押さえつけて口調を変える。
「任せた」
「ああ」
「よし! 引き上げるぞ! 死にたくない奴は急げよ!」
「おう!」
 どよめいてリヒャルティを先頭にラズーンへ戻り出す一行に背を向け、ユカルは平原竜(タロ)の速さを増した。

 澄み切った朝の光が広間を照らしている。玉座には昨日からほとんど眠っていないセシ公が気だるく座っている。
 不意に慌ただしい足音が響いた。訝しく顔を上げるセシ公の目に、入り口から1人の男が飛び込んできたのが映る。
「凱旋!」
 紅潮した頬に満面の笑みを浮かべて、男は叫んだ。
「リヒャルティ様、只今凱旋されました!!」
「何……」
 さしものセシ公も腰を浮かせて男の報告を聞いた。850名に200名、まず勝つはずのない戦、それがこうも早く決着がつこうとは、一体誰が予想し得ただろう。
 だが、いつもは冷ややかなほど冷静な顔を興奮に赤らめて戦況を聞いたセシ公は、ユーノが行方不明であり、パディスの方へ走った伝令を追って行ったかも知れないこと、それをユカルが単身追いかけて行ったことを聞いて、見る見る表情を険しくした。
「それで? まだ見つからぬのか」
「はい。リヒャルティ様は、まずは兵を休ませることが先とお考えになり…」
「……」
 リヒャルティの取った方法は確かに正しい。せっかく残った70名前後の兵、無駄死にさせるにはあまりにも惜しい。
「アシャ殿、いかがされ…」
 問いかけて、セシ公は背後の気配が消えているのに気づいた。一瞬呆気にとられ、やがて次の命令を待って前で跪く男にも構わず、くすくすと笑い出す。やがて、溜め息混じりに呟いた。
「ラズーン存亡に関わる私の目付役よりも、あの娘の安否の方が大事、か………そこまで明け透けにされては、裏切りさえも野暮の極み…」
「…は?」
 不安そうに顔を上げる男に笑みかける。
「良い。下がって、リヒャルティ達に十分休めと伝えよ。ユーノ殿に関しては『最たる守り手』が飛び出して行った、ともな」
「は……あ?」
 訳が分からず、男はセシ公の奇妙な機嫌の良さに、ただただ困惑するだけだった。
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