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5.リディノ哀歌(13)
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「姫さま?!」
ジノは広間から飛び出したリディノを探し回っていた。蒼白になっていたリディノの顔、アシャの倒れたショックだけではない、まるで自分が人を殺したのだと気づいたような恐怖に満ちた表情に、心の中の嫌な予感が大きく広がる。
(まさか……まさか、姫さま!)
「姫さま! ……?」
回廊を走り抜けようとして、テラスから動いた人影に胸の中で何かが弾ける。一瞬のことだったが後ろ姿には覚えがある。ユーノから調べよと命が下っている視察官(オペ)、ジュナ・グラティアスだ。
「…っ、姫さまっ!! 」
予感が導くままテラスに走り出たジノは、中ほどに倒れている人影に気付いた。駆け寄りながら声をあげる。華奢な躰にに細身の剣が深々と突き立ち、流された血潮がドレスを真紅に染めている。乱れた金の巻き毛の下の瞳は虚ろに空を見上げ、唇は血の紅、これがあの春の女神と呼ばれた、ミダス公の一人娘リディノとは思いもつかぬほど凄惨な、哀れな姿だった。抱え上げる腕に旅立とうとする者のずっしりとした重さ、血の匂いがジノを追い詰める。
「姫さまあっ!!」
「…じ…の……?」
「、姫さまっ!!」
必死の呼びかけに、事切れていると思われたリディノが微かに反応した。声に応じてゆらりと瞳がジノに向く。
「……しえて……愛……は……魔……かし…ら…」
「姫さま……」
「ど…して………アシャ……倒れ……たの……? あれは……媚薬……なのに…?」
薄緑の瞳が曇り、みるみる涙を溜めた。
「媚薬……? ………っ」
ジノの頭の中で全てが繋がる。ああ確かにそうだろう、媚薬と教えられたものをどうして毒だと察せよう、しかも相手は視察官(オペ)、リディノを謀るはずもないと信じただろう。
「ね……ジノ……?」
「姫…っ!!」
緩やかに目を伏せたリディノの頬に涙が零れ落ちる。同時に体から力が抜け、細い首が落ちた。悲鳴をあげて腕をすり抜けようとする命を引き止めようとしたジノは、途中で声を詰まらせた。軽くなる、軽くなる、この腕の中で命が消えていく、今まで幾度も味わった、遠い世界へ逃れていく温もりの気配、ジノは歯を食い縛る、世界を罵りたくなる怒りを堪えるために。
凍てついた数瞬後、無言のジノはそろそろとリディノの腹から剣を抜いた。どっと溢れ出す紅を自分の体に受け止めて、そっとリディノを抱き締める。
「…そう…ですね……姫さま……愛は……魔物でございますねえ……」
低く切なく呟く。
「ジノを…呼ばれましたね……姫さま……?」
リディノの屍を抱きかかえたまま、頬ずりをするように囁き続ける。
「ジノを……呼んで……下さ…ました…ねえ……?」
しばらくじっとしていたジノは、ふと片手に握りしめたままの剣に気づいた。血糊にまみれた汚れた剣を見つめ、やがて静かに微笑む。
「姫さま…この剣、鞘を探さねばなりますまい? ジュナ・グラティアスという鞘を…?」
無限の優しさを込めて囁き、青ざめて静かなリディノを見下ろし、笑みを深めた。
「少しの間、お待ち下さいまし……ジノが必ず鞘に納めてお送りいたしますよ、『死の女神』(イラークトル)の御許まで……今度こそ……ジノが必ずお役に立ちますとも……」
風が一陣、ジノの前髪を揺らせていった。
ジノは広間から飛び出したリディノを探し回っていた。蒼白になっていたリディノの顔、アシャの倒れたショックだけではない、まるで自分が人を殺したのだと気づいたような恐怖に満ちた表情に、心の中の嫌な予感が大きく広がる。
(まさか……まさか、姫さま!)
「姫さま! ……?」
回廊を走り抜けようとして、テラスから動いた人影に胸の中で何かが弾ける。一瞬のことだったが後ろ姿には覚えがある。ユーノから調べよと命が下っている視察官(オペ)、ジュナ・グラティアスだ。
「…っ、姫さまっ!! 」
予感が導くままテラスに走り出たジノは、中ほどに倒れている人影に気付いた。駆け寄りながら声をあげる。華奢な躰にに細身の剣が深々と突き立ち、流された血潮がドレスを真紅に染めている。乱れた金の巻き毛の下の瞳は虚ろに空を見上げ、唇は血の紅、これがあの春の女神と呼ばれた、ミダス公の一人娘リディノとは思いもつかぬほど凄惨な、哀れな姿だった。抱え上げる腕に旅立とうとする者のずっしりとした重さ、血の匂いがジノを追い詰める。
「姫さまあっ!!」
「…じ…の……?」
「、姫さまっ!!」
必死の呼びかけに、事切れていると思われたリディノが微かに反応した。声に応じてゆらりと瞳がジノに向く。
「……しえて……愛……は……魔……かし…ら…」
「姫さま……」
「ど…して………アシャ……倒れ……たの……? あれは……媚薬……なのに…?」
薄緑の瞳が曇り、みるみる涙を溜めた。
「媚薬……? ………っ」
ジノの頭の中で全てが繋がる。ああ確かにそうだろう、媚薬と教えられたものをどうして毒だと察せよう、しかも相手は視察官(オペ)、リディノを謀るはずもないと信じただろう。
「ね……ジノ……?」
「姫…っ!!」
緩やかに目を伏せたリディノの頬に涙が零れ落ちる。同時に体から力が抜け、細い首が落ちた。悲鳴をあげて腕をすり抜けようとする命を引き止めようとしたジノは、途中で声を詰まらせた。軽くなる、軽くなる、この腕の中で命が消えていく、今まで幾度も味わった、遠い世界へ逃れていく温もりの気配、ジノは歯を食い縛る、世界を罵りたくなる怒りを堪えるために。
凍てついた数瞬後、無言のジノはそろそろとリディノの腹から剣を抜いた。どっと溢れ出す紅を自分の体に受け止めて、そっとリディノを抱き締める。
「…そう…ですね……姫さま……愛は……魔物でございますねえ……」
低く切なく呟く。
「ジノを…呼ばれましたね……姫さま……?」
リディノの屍を抱きかかえたまま、頬ずりをするように囁き続ける。
「ジノを……呼んで……下さ…ました…ねえ……?」
しばらくじっとしていたジノは、ふと片手に握りしめたままの剣に気づいた。血糊にまみれた汚れた剣を見つめ、やがて静かに微笑む。
「姫さま…この剣、鞘を探さねばなりますまい? ジュナ・グラティアスという鞘を…?」
無限の優しさを込めて囁き、青ざめて静かなリディノを見下ろし、笑みを深めた。
「少しの間、お待ち下さいまし……ジノが必ず鞘に納めてお送りいたしますよ、『死の女神』(イラークトル)の御許まで……今度こそ……ジノが必ずお役に立ちますとも……」
風が一陣、ジノの前髪を揺らせていった。
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