『ラズーン』第六部

segakiyui

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7.ミダスの裏切り(4)

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 急ぎ足に戻ってきた屋敷が、出てきた時と同様の静けさに包まれており、周囲に人が集まってくる様子もないのにほっとした。群衆はまず自らを守る方向に走ったらしい。各々の家で、各々の家族に今必死に見てきたものを語っているのかも知れない。
 イルファは入り口に控える緊張した表情の兵士に軽く頷き、扉を開けた。平和な治世、剣もあまり持ち慣れていないのだろう、急ごしらえの見張りは疲れた表情で礼を返し、イルファを見送った後は、再び外界へ続く扉へ目を戻す。
「イルファ!」
 奥へ通ると、どこか不安そうに佇んでいたレスファートが彼を見つけて走り寄ってきた。穏やかな日差しに髪をきらめかせ、イルファを見上げる。透ける淡い色の瞳が、探るようにイルファを捉えた。
「どうした、レス?」
「…ううん、なんでもない」
「アシャは?」
「まだ…目が覚めない……レアナ姫がずっと付いているけど…」
 イルファの問いにかぶりを振り、それでも緊張を隠せない様子で応じた。レクスファの第一王子、人の心象風景に敏感な少年が、外の混乱を気づいていないはずはない。だがレスファートもただ徒に旅をしてきたのではない、己の不安が泣いて訴えれば消え去るものではない事を、薄々察しているようだった。
「…そうか」
 イルファは頷いて、体を寄せてきた少年の頭に己の手を乗せた。本来ならば不敬だろうが、ぽんぽんと優しく思いやりを満たして叩き、
「大丈夫だ」
 見上げた瞳に笑う。
「きっと、何もかもうまくいく」
「……うん」
 子どもながら、イルファの苦しい慰めを感じたのだろう、小さく頷いて、レスファートはにこりと笑って見せた。
「外はどう?」
「…なかなか派手だな」
 伝えたものかどうか悩んだが、おどけて肩を竦めてみせる。
「化け物屋敷へ行きたかったら言えよ、タダで『かなりのもの』が見られるぞ」
「やだ! イルファ、消して!」
 心象を思わず読んだのだろう、レスファートが青ざめて声を上げる。
「そんなの、ぼく、見たくない!」
「ああ、悪かったな」
 イルファも見せたくはないが、遅かれ早かれ直面する羽目になるかも知れない。奥歯を噛み締めると、
「…それよりも、ぼく」
 ためらいがちにレスファートは呟く。
「ユーノに…会いたい」
 声の切なさに胸が詰まって、イルファは返すことばもなく、再び不器用に、いささか強くレスファートの頭を叩いた。憤ることもなく、自分が零したことばの苦さに気づいたのだろう、頼りなく眉を寄せてレスファートが俯く。
「…ごめんなさい」
「謝ることはない」
 ぐ、っともう一度、奥歯を強く噛み締めて、イルファは話題を変えた。
「セシ公はどうしてる?」
「広間にいる…東からの使者、ジットーと言う人に会っているよ」
「ジットー?」
 ジットーとは確か『銀羽根』の伝令、今頃はユーノと共に東の戦線をかけているはず、その男がなぜ。
(まさか…本当に東が…)
 不吉な予感に、イルファは広間の方へ目を向けた。
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