『ラズーン』第六部

segakiyui

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8.夜襲(10)

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「…あ…」
 まさか。
 でも確かにこれは。
 でも、まさか。
「…ア…シャ……?」
 ソウダ。
 声は嬉しそうに応じた。
 ケガハナイカ……キズハダイジョウブカ……ユーノ…。
『怪我はないか。傷は大丈夫か、ユーノ』
 オマエハイツモ、ムチャバカリスル。
『お前はいつも、無茶ばかりする』
 アシャの生身の声が重なり、胸を詰まらせた。
 アシャは魔性。
 ユカルの声が記憶の中から蘇る。
(こういう……ことか…)
 呆然とするユーノを説得できたと思ったらしい金色の塊は、いそいそと近づいてきた。
 イッショニ、カエロウ。サア、ユーノ、イッショニ…。
 我に返ったユーノの鼻を異臭が突く。振り返る目に燃えていく戦士達が映る。
 燃えていってしまう、シャイラの誇りも、グードスの潔さも。ただ一つの形見なしに。ユーノがその骸を踏みつけた、その謝罪もさせずに。
 アシャの声を聞いた時と別の熱いものが、胸に溢れた。
 ユーノ…。
「アシャなら…一層…」
 振り返る。睨みつける。
「なぜ、あんなことをした?」
 剣を握り直す。金の塊に真っ向から向け直す。
「弔いもさせず、誇りも称えず!」
 ユーノ…。
「武人のアシャはいなくなったのか。死者への礼を忘れたのか!」
 オマエヲ、サガシテタ…。
「仮にもラズーンのために死んでいった者達を!」
 オマエヲ…サガシテタンダ…。
「あまつさえ、混乱の極にあるラズーンを捨てて、何をしに来た!」
 ユーノ……ユーノ……。
 声はおろおろと狼狽えた。
 オレハ……オマエガシンパイダッタ……オマエヲサガシタカッタ……オマエヲマモリタカッタ……。
(アシャ…!)
 何よりも聴きたかったことばが、ユーノの胸にこの上もなく切なく苦く広がった。
 アシャは魔性……ユカルが繰り返す。
 魔性とは何だ。己の想いに囚われて、他に何も見えなくなることだ。それを貫いたリディノはどうなった。『運命(リマイン)』の手先となり、その命を散らしたのではなかったか。
(アシャ……アシャ!)
 愛しい、大切な人、この上なく大切な……人。
 息を吸う。目を閉じ、きっぱりと言い放つ。
「お前は……アシャじゃない」
 ユーノ…!
 悲鳴じみた哀しい声に、心が引き千切られていく。
 案じてくれた、探してくれた、そのために、人の形まで捨ててくれた、けれども。
「お前は、アシャの名前を持った、ただの『魔物(パルーク)』だ」
 ユーノ………。
「『魔物(パルーク)』ならば……切る」
 力を込めた指先と動かぬ剣に、ユーノが本気だと知ったのだろう、金の塊は弱々しく揺らめいた。ためらい、なおもユーノのことばを待っていたが、やがて淡く消え入りそうな声で告げた。
 ラズーンニ……イル……カエッテキテホシイ…。
 ユーノは唇を強く結んだ。
 ……。
 答えがないのに、諦めたように空へ舞い上がる。そのまますうっと西の空へ向かう金の塊を、ユーノは身じろぎもせず見送った。
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