『ラズーン』第六部

segakiyui

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9.人として(2)

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 策というのはこうだった。
 ラズーン外壁の中まで『運命(リマイン)』が浸透して来ている今、既に壁は意味を為さない。だが無闇に開け放つことも出来ない。近郊の国からも避難してくる者がいるかも知れない。混乱に乗じて、良からぬ企みを胸に乗り込んでくる輩もいるかも知れない。
 そこで、人々を『運命(リマイン)』支配下(ロダ)の者とそうでない者に分け、支配下(ロダ)以外の人間を『氷の双宮』に収容し、その後、外壁の門を開け放とうと考えた。『氷の双宮』内には水も通い、しばらくならば暮らせるだけの設備があるのを、セシ公は知っている。緊急のこと、『太皇(スーグ)』も強く拒みはすまい。外の門を開け放つという策は、敵味方を明確にし、味方には保護を与え、敵には意表を突いた分だけ時間を稼げることになるだろう。
 ただ、その選別に対しては、並の人間では務まらない。心象に敏感で、しかも以前『運命(リマイン)』支配下(ロダ)の心に近接したことのあるレスファートこそ適任だろう。
 『氷の双宮』への退避に、ラズーンの秘密を知るというセシ公の密かな目的が重なっているのは、レスファートとイルファの与り知らぬことだった。
 だが、レスファートは二度請われ、二度とも拒否している。
 理由を問われてイルファは、不十分な説明となるが、と語った。
 レクスファ国の常として、王族は特に力の使い方については繰り返し指導を受ける。その中の主要な訓導の一つに、『人を心象で区別せぬこと』がある。
 心象像は、人間の一瞬の想いを映し出す。その一瞬で、その人間の全てを判断してはならない。その心象がどれほど美しいものであっても特別扱いをしてはならない。ましてや、いくら汚れたものと感じようともできる限り受け入れること、決してそれに拠ってのみ、人を選り分けてはならない。人の心象を感じる者は、神ではなく只の人の子、少しばかり敏感な当たり前の人間にしか過ぎぬのだから。
 そう、教えられる。
 そして、その教えこそが、レスファートを『人間』から分離させずに、国の支配者として成長させる重要な鍵だ。
 美しいものに魅かれがちなレスファートは、度々父親に戒められていたが、幸いにも汚れたものを完全に拒否することはなかった。しかし、その調整には危ういところがある。注意しなければ、レスファートは心に響くものだけを受け入れ守り、それ以外を締め出し滅ぼすことを良しとする。それは王としてふさわしくない振る舞いだ。
 故国レクスファでは、生まれ持った地位もあり、愛される容姿を備えていたレスファートは、なぜそのような訓導を施されなくてはならないのかは理解しかねたことだろう。だが、ラズーンへの旅を通して、憎しみも喜びも、悲しみも後悔も味わった今は、自分の力の制御が未熟なことに気づき、なぜ制御が必要なのかを理解し始めているだろう。
 そのレスファートが、いかにラズーン存亡の危機とは言え、あえて訓導を破ることはないだろう。いやむしろ、このような時だからこそ、自分が何を学び、何を選ぶのかと考えるに至っただろう。
 イルファの返答通り、レスファートは頑として選別に同意しなかった。
 3人は再び黙り込む。沈黙が重さを増していく。と、不意にバタバタと駆けてくる人の足音が響いた。
「?」
 三人三様、訝しく戸口を見やる。鯉口を切りかけたイルファが、飛び込んで来た女官に力を抜いた。
「セシ公!」
「何事か」
「アシャ様が……お目覚めに…!」
「何っ…」
 みなまで聞かず、セシ公を先頭に、3人は慌ただしく部屋を飛び出した。
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