『闇から見る眼』

segakiyui

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第2章

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 京介は伊吹を失うのだ。
 夕方の光の中、びしりと音をたてて閉まった電車のドアにそう思った。
 突き放した指先がずくずくする。
 それでも。
「賭け、しかない、男だし」
 呟いて、走り出す電車の中で茫然とこちらを見ている伊吹から顔を背けたつもりなのに、自分の眼がずっと追い掛けていて。
「未練がましいな」
 はぁ、と熱が籠ってからみつくような息を吐く。
「薬、効いてねー」
 ちょっとやさぐれてぼやきながら、駅の改札を出た。
 伊吹にはああ言ったが、そのまま会社に戻るつもりはない。というより、かなりきつくて立っているのが辛い。タクシーを拾い、崩れるように後部座席に沈む。
「お客さん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫、すみません」
 ぐらぐらしてくる視界で、心配そうに振り返った運転手に笑って行き先を告げた。
「酔ってるんじゃないから」
「酔ってる人はみんなそう言うんですよ」
 ちょっと困った顔で運転手は向き直る。
「気分が悪くなったらいつでも声かけて下さいね」
「中身を吹く前にね」
 応えて、性質の悪い冗談だと京介はくすくす笑った。
 酔っぱらいだと決めたのか、運転手はもう相手にならない。
 むしるようにニット帽を剥ぎ、窓の外をぼんやり眺める。
「……キスマーク……もっとつけとくんだった」
 大石が怯むぐらい、そこら中に。
「でも……そんなことしたら……止まれないよね……」
 戻ってきた伊吹の肌の感触に、そっと指先で唇をなぞる。
「伊吹さん…」
 胸が苦しい。泣きたいのに泣けない。
 なら、壊れて、しまえ。
 唇を噛み締めて眼を閉じ、漏れそうになった呻きを掌で覆う。
 茹だるような頭の中に、朝からのことがゆっくりと蘇ってきた。
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