『魔法講座』

segakiyui

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6.二日目、三時限

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 さて、『バケツ』くんは帰宅しました。
 心配しなくてもよろしい。
 彼にはもっとふさわしい教師が見つかることでしょう。
 もしくは保母か乳母が。
 ところで、『無限大』くん。
 ………そうです、あまり驚いてませんね?
 ……なるほど、それは明察です。確かにあなたの名前は『バケツ』くんと同じ意味合いを持っています。
 あなたがなぜその名前を選んだのかは、今は重要ではありません。
 興味もありません。
 今その名前が重要なのは、それが選ばれてつけられた、ということです。
 名前はその存在の本質を表現しますが、逆もまた成り立つということを覚えましょう。
 名前のついていないものに、ある名前をつけるということは、そのものの本質を見極めてでない限り、そのものに自分の願望を込めることです。
 ………そうです。
 あなたがたは誰かにつけてもらったさまざまな名前で呼ばれています。
 それはあなたがたそのものであってほしいという願いの他に、あなたがたに「何か」であってほしいという願いを含んでいます。
 …………そうですね。
 望もうと、望むまいと。
 昔、生まれた子どもの名前をつけるときに、賢者に尋ねたのはその力を警戒してのことです。
 ちゃんとした賢者ならば、その子どもの中に芽吹こうとしている種を見つけ、それから咲くはずの花の名前で呼ぶことでしょう。
 また使う言語の意味を語源に至るまで調べるのも、同様の意味です。
 私達が忘れたり理解していない意味が含まれていても、そのことばで呼ぶならば、その意味は発動します。
 みなさんは術を使うときに、何かの『呪文』を詠唱することを知っているでしょう。
 決まった形式の詠唱を使うものだと誤解している人がいますが、基本的にはその『呪文』は術を使うために踏む内面のステップの再確認です。
 同じ作用でも個人によって特徴的です。
 ………短いものですか。
 燃えろ、というのがあります。
 ばるす?
 ああ、そういうのもありますね。
 白銀の尾を翻す夜の女神よ、来たりて航路を凍てつかせ我が道を守護せよ。
 ………いえ、言ってみただけです。
 こんなに長い間、攻撃を待ってくれる敵は珍しいのではないでしょうか。
 敵ではない可能性もありますね。
 術対決などしていないで話し合った方が、早く問題解決に至るかもしれません。
 …………話が逸れました。
 ………そうです。
 聡明ですね。満足です。
 あなたが『無限大』と名付けた以上、あなたは『無限大』に成し遂げる者であることを望まれています。
 ことばにすれば単語一つですが、意味の重さは理解できますね?
 『当然』『無限大』とすれば、『無限大』にわずかながら制限が加わります。
 『当然』ならば人間の認識範囲ですみますね。
 『頑固』『無限大』とすれば、もっと狭い範囲です。『頑固』だけが『無限大』ですから。
 しかし、あなたは『無限大』であることを宣言しました。
 ………厳しい道になりましたね。
 教室の隅に辞書はいつでも置かれています。
 いつでも名前を変更できますよ?
 ………………やはり『頑固』のほうが似合っているように思いますが。
 …………よろしい。
 私は面倒見のいい『壁』なので、『無限大』に立ち塞がることを心掛けていきましょう。
 では、他のみなさんも、あの辞書で自分の名前を再確認し、必要ならば出席簿の変更を申し立てて下さい。
 午後はそれにあてましょう。
 自分が何ものであるか、何ものでありたいのか、考えて選んで下さい。
 
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