『魔法講座』

segakiyui

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13.三日目、保健室

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 具合はどうですか、『嘘つき』くん。
 …………ああ、そうですか。
 ではよろしいですね。………え?
 そうですか、明日も休みたいんですね。
 いえ、かまいませんよ。
 ………はい? 
 ええ………まあ、そうですね。
 あなたが吐き気がするほど苦しいわけでもないし、明日休まなくてはならないほども大変じゃないのはわかっていますが、講座を受けるかどうかはあなたの自由意志です。
 ………ああ、ありがとう。
 ここでは教師の評価は緩いんですよ。
 それに、どれほど高く評価されたところで、あなたがたが学んでいなければ同じことです。
 ……………煙草はやりません。
 ………ここでは困りますから止めてください。
 いえ、校則ではなく、ここに喘息の生徒も休みにくるからです。
 ……………ありがとう。
 説教?
 いえ、別にするつもりはありません。
 あなたがあなたの命や時間をどのように使おうとあなたの勝手ですし。
 それに…………いえ、止めておきましょう。
 はい?
 …………そうですか、人が悪いですか。
 ……………そうですね。
 ……では、言いかけたことは言っておきましょう。
 あなたに教えることなどないと思います。
 ………は?
 ………まさか。『不敬』で放校を示唆することなどありませんよ。
 まあ、学ぶのに準備不足な場合はお互いのために別の道を示してみますが、大抵は聞き入れられませんね。
 けれど、そこから私は学び続けるだけですし、みなさんにはより密度濃い授業となりますので、それはそれでよろしい。
 ……そうです。
 単にお節介なんですね。
 ……………理由?
 ………あなたが自分が『嘘つき』だと知っているからですよ。しかもそれを公言している。
 …………そうですね。
 ここの授業の半分は、「自分が何者であるか」を確認することに当てられています。
 え?
 ………そうです、後の半分はそれです。
 …………でしょう? そうだと思いました。
 自分が何者であるかわかっていて、しかもその自分の進む道もわかっていて、けれどそちらへ進みたくないなら、それはもう嗜好というものです。私の、そしてこの講座の範疇ではありません。
 …………そうですか。
 ではまた明後日。
 ………え……昨日?
 ああ、梯子の話をしました。
 みなさんがたの学んでいるのは空中に立てた梯子を上るようなことである、と。
 その突端に来たなら、あなたがたはどうしますか、と。
 あなたは?
 ………………は?
 あり得ない?
 そんな設定なんて意味がない?
 なるほど、それも面白い。
 では、あなたは自分の学ぶ意味を見つけ出さなくてはなりませんね。
 …………生きる意味も、ですか。
 ………何を言ってもかまわない? 嘘つきだから?
 ふふふ。
 どうぞ。何が言いたいんですか?
 ……………ほう。
 ………いえ、いいことばだと思いますよ。
 それをまさに生きることができればいいですね。
 繰り返していいですか?
 愛するために生きている。
 ……………『嘘つき』くん、あなたこそ『生贄』くんと名乗ったほうがいいかもしれないですね。
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