『魔法講座』

segakiyui

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14.四日目、一時限

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 おはようございます、みなさん。
 今日は寒かったですね。
 雪? そうですか、あなたの故郷ではもう雪が。
 ……なるほど、あなたのところはまだ半袖で暮らしていると便りがあったのですね。
 世界にはさまざまな気候の中で、それに適応すべく人々は工夫を凝らして生きているのです。
 ……え?
 違いますよ。
 もう授業に入っています。
 今話したことが、授業と全く関係ないと考えている発想、それもまた「前提」です。
 ちゃんとした教師は自分が今何をしているのか、必ず認識しています。
 自分のことば、行動全てが、学びに繋がるものであることを願い、そのように訓練しているのです。
 生徒の方に大きな「学ぶ力」があれば、ぼんくらで意識の低い教師でも十分に学べます。
 は?
 ………いえ、そういう教師を何とか引き上げ評価しろ、と言っているのではありません。
 能力と人格の低い教師からは、人間の愚かさや欲望について学べます、と言っているのです。
 「学び」とは充実した興奮する課程ですが、それが必ずしも楽しいものばかりとは限りません。
 完璧な人間がいないように、人はだれもでこぼこした存在です。
 そのでこぼこに突き当たったとき、それが学ぶ機会であると考えて下さい。
 つまり、愚かで低劣な教師からは最低でも二つのことは学べます。
 まず一つは、能力や人格によって社会的地位や社会的資格が与えられているのではない、ということです。
 これは私達の社会の不十分さの一つです。
 よって、みなさんは社会的地位や社会的資格によって、相手の能力や人格を設定しないようにして下さい。
 ………ええ、そうです。
 私は十分に優秀な教師であろうと努めていますが、私がよい教師であるためには、みなさんが学べなくては意味がありません。私一人がよい教師として存在することはできないのです。
 もう一つは、格にふさわしくない力を与えられた者はどのようにふるまうか、ということです。
 よって、みなさんは常に私から学ぼうとすると同時に、私がよい教師であるか、学ぶに価するものを備えているか、考えていて下さい。
 はい?
 …………はい。
 ……………ええ。
 …………ええ、そういうことですよ、『生意気』くん。
 あなたが私から学ぶものはないと判断するならば、他の講座を履修する方が有意義ですね。
 ただし、すぐ退室するのではなく、この時間が終わってからにして下さい。
 ……いえ、私のためではなく、みなさんの集中のためです。
 あなたがここで退室すると、みなさんはあなたがこれからどうするのかとか、今どこにいるのかとか、そういうことを考え続けて貴重な時間を失いますから。
 それとも…………そうやってみなさんの注目を集めることがあなたの本意ですか?
 ……………そうですね、違いますね。
 あなたにとってこの後の授業が不要であるなら、そこで静かに読書するか、次の履修講座を検討するか、いびきをかかずに眠っていてもらえると、お互いに幸福ですね。
 ………はい、どうぞ。
 え? いえ、これもちゃんと授業の中身ですよ?
 一生徒の不作法をたしなめているのではなりません。
 くすくすくす?
 ………みなさんはどうやらなかなか「学ぶ」ということが理解できないようですね。
 私はさきほど、ぼんくらで意識の低い教師からでも十分に学べます、と言いました。
 つまりそれは極言すれば、教師など居なくても、学ぶことがわかっていれば学べる、ということです。
 もっと言い換えれば、全てがあなたの教師である、ということです。
 私は優秀な教師でありますが、また優秀な生徒でもあります。
 ………はい。
 ………………ええ、そうですよ。
 私は今もみなさんから学び続けています。
 みなさんが「生徒」であるということは、私に何も教えてくれない、ということではありません。
 私はみなさんの反応から、教えていることが今適切な形であるかどうかを常に確認しています。また、あらゆる機会をちゃんと授業に生かせているかを自問しています。
 たとえば、『生意気』くんがこの時間の後、退室して他の講座の履修手続きをしたとします。
 それは私の失点ではありません。
 学ぶものと時期のずれ、『生意気』くんにしてみればそれだけです。
 そして私にしてみれば、『生意気』くんに教えるための資質か能力が私に欠けていた、ということです。
 それを補充するか、補充できるのか、あるいはそれは欠けたままでいくのかは、後程検討しなくてはならない課題となる、そういうことです。
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