34 / 148
『パンダだぞ』
しおりを挟む
「パンダだ!!」
叫び声が上がって、パンダは驚いて目を覚ましました。
やれやれ。
一日に何度、これで起こされるやら。
その夜、パンダはつくづくと動物園の暮らしが嫌になりました。
そうだ。
いつもいつも人間に驚かされているから、今度は俺が人間を驚かせてやろう。
パンダはのっそり立ち上がって、ゆっくりと檻の扉に近づきました。
扉には鍵がかかっています。
ふっふっふ。
パンダは小さく笑って、鍵穴に爪を差し込みました。2、3回こちょこちょ、鍵穴をくすぐると。
わっはっは。がちん。
鍵は大きな笑い声を上げて、開いてしまいました。
ふっふっふ。
パンダはまた小さく笑って、そっと檻を抜け出しました。
人けのない動物園を歩きながら、パンダは楽しくてたまりません。
さあて、どんな人間を驚かしてやろうかな。
動物園の入り口の鍵も、お得意の爪くすぐりで笑わせて、パンダは夜の街へ出ました。
赤や青の光が瞬いている道を歩いていると、前から1人の男が来ました。あっちへふらり、こっちへふらりと、どうやら酔っ払っているようです。
手始めに。
パンダは酔っ払いの男の前に立ち塞がりました。
「ふえっひいっ……っ……く……くっ」
酔っ払いの目がまん丸になった途端、
「パンダだぞ!!」
「ひえっ!」
パンダの大声に、酔っ払いはぺたんと座り込んでしまいました。
これは愉快。
パンダはいそいそと歩き始めました。
それから朝まで、パンダはあちらこちらで人間を驚かせました。
ふっふっふ。ふっふっふ。
嬉しくて楽しくて笑いが止まりません。
けれどさすがにお腹が空いてきました。
ふと、鼻先を素敵な匂いがかすめて、パンダは立ち止まりました。
薄白いお日様がゆっくりと昇ってくる朝の街を、香ばしい匂いが満たしていきます。
パンダは鼻をひくひくさせながら、匂いの漂ってくるところへ辿り着きました。
街角の、朝一番からパンを焼いているパン屋さん。
小麦粉の焦げる匂い、バターの蕩ける匂い、ジャムやはちみつがとろとろと生地に広がる匂い。
ああ、なんておいしそう。
パンダは体を揺すって、店に近づきました。
最後にこの店の人間を驚かせて、焼きたてのパンを少しばかりもらっていこう。
ふっふっふ。
パナだは店を覗き込みました。
忙しく動き回っている人間の中に1人だけ、腕を組んで立っている男がいます。
あいつにしよう、偉そうだから。
パンダは店のドアを押し開けました。
ふいのお客に、ぎょっとしたように店の人間が顔を上げます。
ゆっくり息を吸い込んで、両手を高く上げて、今までの中で一番大きな声でパンダは叫びました。
「パンダだぞ!!」
ところが。
腕を組んで立っていた男は、眉一つも動かさず、もっと大きな声で言い返しました。
「パン屋だぞ!!」
うへえ。
パンダは慌てて逃げ出しました。
パンダに向かって、パンダはやだなんて。
そんなことを言う人間はいなかったぞ。
人間ってのはなんて酷いんだ。
パンダは泣き泣き走り続けました。
終わり
叫び声が上がって、パンダは驚いて目を覚ましました。
やれやれ。
一日に何度、これで起こされるやら。
その夜、パンダはつくづくと動物園の暮らしが嫌になりました。
そうだ。
いつもいつも人間に驚かされているから、今度は俺が人間を驚かせてやろう。
パンダはのっそり立ち上がって、ゆっくりと檻の扉に近づきました。
扉には鍵がかかっています。
ふっふっふ。
パンダは小さく笑って、鍵穴に爪を差し込みました。2、3回こちょこちょ、鍵穴をくすぐると。
わっはっは。がちん。
鍵は大きな笑い声を上げて、開いてしまいました。
ふっふっふ。
パンダはまた小さく笑って、そっと檻を抜け出しました。
人けのない動物園を歩きながら、パンダは楽しくてたまりません。
さあて、どんな人間を驚かしてやろうかな。
動物園の入り口の鍵も、お得意の爪くすぐりで笑わせて、パンダは夜の街へ出ました。
赤や青の光が瞬いている道を歩いていると、前から1人の男が来ました。あっちへふらり、こっちへふらりと、どうやら酔っ払っているようです。
手始めに。
パンダは酔っ払いの男の前に立ち塞がりました。
「ふえっひいっ……っ……く……くっ」
酔っ払いの目がまん丸になった途端、
「パンダだぞ!!」
「ひえっ!」
パンダの大声に、酔っ払いはぺたんと座り込んでしまいました。
これは愉快。
パンダはいそいそと歩き始めました。
それから朝まで、パンダはあちらこちらで人間を驚かせました。
ふっふっふ。ふっふっふ。
嬉しくて楽しくて笑いが止まりません。
けれどさすがにお腹が空いてきました。
ふと、鼻先を素敵な匂いがかすめて、パンダは立ち止まりました。
薄白いお日様がゆっくりと昇ってくる朝の街を、香ばしい匂いが満たしていきます。
パンダは鼻をひくひくさせながら、匂いの漂ってくるところへ辿り着きました。
街角の、朝一番からパンを焼いているパン屋さん。
小麦粉の焦げる匂い、バターの蕩ける匂い、ジャムやはちみつがとろとろと生地に広がる匂い。
ああ、なんておいしそう。
パンダは体を揺すって、店に近づきました。
最後にこの店の人間を驚かせて、焼きたてのパンを少しばかりもらっていこう。
ふっふっふ。
パナだは店を覗き込みました。
忙しく動き回っている人間の中に1人だけ、腕を組んで立っている男がいます。
あいつにしよう、偉そうだから。
パンダは店のドアを押し開けました。
ふいのお客に、ぎょっとしたように店の人間が顔を上げます。
ゆっくり息を吸い込んで、両手を高く上げて、今までの中で一番大きな声でパンダは叫びました。
「パンダだぞ!!」
ところが。
腕を組んで立っていた男は、眉一つも動かさず、もっと大きな声で言い返しました。
「パン屋だぞ!!」
うへえ。
パンダは慌てて逃げ出しました。
パンダに向かって、パンダはやだなんて。
そんなことを言う人間はいなかったぞ。
人間ってのはなんて酷いんだ。
パンダは泣き泣き走り続けました。
終わり
0
あなたにおすすめの小説
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる