『segakiyui短編集』

segakiyui

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『パンダだぞ』

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「パンダだ!!」
 叫び声が上がって、パンダは驚いて目を覚ましました。
 やれやれ。
 一日に何度、これで起こされるやら。

 その夜、パンダはつくづくと動物園の暮らしが嫌になりました。
 そうだ。
 いつもいつも人間に驚かされているから、今度は俺が人間を驚かせてやろう。
 パンダはのっそり立ち上がって、ゆっくりと檻の扉に近づきました。
 扉には鍵がかかっています。
 ふっふっふ。
 パンダは小さく笑って、鍵穴に爪を差し込みました。2、3回こちょこちょ、鍵穴をくすぐると。
 わっはっは。がちん。
 鍵は大きな笑い声を上げて、開いてしまいました。
 ふっふっふ。
 パンダはまた小さく笑って、そっと檻を抜け出しました。
 人けのない動物園を歩きながら、パンダは楽しくてたまりません。
 さあて、どんな人間を驚かしてやろうかな。
 動物園の入り口の鍵も、お得意の爪くすぐりで笑わせて、パンダは夜の街へ出ました。
 赤や青の光が瞬いている道を歩いていると、前から1人の男が来ました。あっちへふらり、こっちへふらりと、どうやら酔っ払っているようです。
 手始めに。
 パンダは酔っ払いの男の前に立ち塞がりました。
「ふえっひいっ……っ……く……くっ」
 酔っ払いの目がまん丸になった途端、
「パンダだぞ!!」
「ひえっ!」
 パンダの大声に、酔っ払いはぺたんと座り込んでしまいました。
 これは愉快。
 パンダはいそいそと歩き始めました。
 それから朝まで、パンダはあちらこちらで人間を驚かせました。
 ふっふっふ。ふっふっふ。
 嬉しくて楽しくて笑いが止まりません。
 けれどさすがにお腹が空いてきました。
 ふと、鼻先を素敵な匂いがかすめて、パンダは立ち止まりました。
 薄白いお日様がゆっくりと昇ってくる朝の街を、香ばしい匂いが満たしていきます。
 パンダは鼻をひくひくさせながら、匂いの漂ってくるところへ辿り着きました。
 街角の、朝一番からパンを焼いているパン屋さん。
 小麦粉の焦げる匂い、バターの蕩ける匂い、ジャムやはちみつがとろとろと生地に広がる匂い。
 ああ、なんておいしそう。
 パンダは体を揺すって、店に近づきました。
 最後にこの店の人間を驚かせて、焼きたてのパンを少しばかりもらっていこう。
 ふっふっふ。
 パナだは店を覗き込みました。
 忙しく動き回っている人間の中に1人だけ、腕を組んで立っている男がいます。
 あいつにしよう、偉そうだから。
 パンダは店のドアを押し開けました。
 ふいのお客に、ぎょっとしたように店の人間が顔を上げます。
 ゆっくり息を吸い込んで、両手を高く上げて、今までの中で一番大きな声でパンダは叫びました。
「パンダだぞ!!」
 ところが。
 腕を組んで立っていた男は、眉一つも動かさず、もっと大きな声で言い返しました。
「パン屋だぞ!!」
 うへえ。
 パンダは慌てて逃げ出しました。
 パンダに向かって、パンダはやだなんて。
 そんなことを言う人間はいなかったぞ。
 人間ってのはなんて酷いんだ。
 パンダは泣き泣き走り続けました。

                 終わり
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