『segakiyui短編集』

segakiyui

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『秋のお茶会』

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 今日はお茶会。
 ミルンおばさんは、朝から大忙しです。なにせ、あれこれうんと足りない物があったのです。
「あらあら、なあに? お茶の葉っぱがこれぽっちしかないじゃない」
 金色の缶を開けて、おばさんはぱちぱち瞬き。
「おかしいわね。一昨日はもっといっぱいあったわよ」
 街へ買い物に行こうとして、要るものを全部書き出したはずなのです。メモを一つ一つ読み上げて、それから出かけたのです。
 首を傾げながら、戸棚を開けたミルンおばさんは、またまた声を上げました。
「まあまあ、一体、どういうこと? カップもお皿も足りないわ」
 赤、黄色、橙色で紅葉を描いてある、白い食器が減っています。
「ひい、ふう、みい。三つも足りない」
 おばさんは眉をしかめました。
「まあ、スプーンも」
 引き出しを開けて、またもやびっくり。
 やっぱり三本、スプーンがありません。
 大事に白い布の上に並べておいた、金色の、木の葉の飾りがついたスプーン。
「あれならぴったりだから、きっと素敵だと思ったのに。誰かが持って行ったのかしら」
 ミルンおばさんは探偵のように丁寧に戸棚を調べました。けれども、何もわかりません。
「困ったわね。お客様は五人いらっしゃるし、とっても足りない。今から街に買いに行くわけにもいかないし」
 溜息をついて、ミルンおばさんは戸棚を睨みました。
 最もいくら睨んでも、カップが増える様子はありません。
「仕方ないわ。お客様には、今日は色々なカップで楽しんでもらうことにした、と言いましょう」
 戸棚から丁寧に六組の食器を取り出しました。
「そうそう、クッキー。もういい頃合いよ」
 ミルンおばさんは、急いで竃の近くに戻りました。
 ところが、きちんと掛けておいたはずの鍋つかみが転がって、竃の中でうまく焼けてきていたクッキーが、半分なくなっているではありませんか。
「これは事件よ。誰かが、私のカップとお皿とスプーン、それにきっと、お茶の葉とクッキーを持って行ったんだわ」
 ミルンおばさんは、厳しい顔で腕を組みました。
「大事なお客様のために、とっても丁寧に焼いたのに。黙って持って行くなんて、あんまりよ」
 そこで、電話が鳴りました。
「あら、はい、ええ、プリシラね。どうなさったの。え? 子ども達が風邪? 熱が高いの? それは大変」
 今日来てくれるはずだったプリシラ一家からの電話でした。
「ええ、そうなさいな。お茶会はいつでもできるわ。また、今度にしましょ。実は、私の方も、おかしなことがあってね」
 ミルンおばさんは、カップやお皿やスプーンまでが消えていること、いっぱいあったお茶の葉や、焼きたてのクッキーがなくなってしまったことなどを話しました。
 すると、プリシラは、意外なことを教えてくれたのです。
「え? あなた、訳を知ってる? 今夜、月の登る頃に、裏庭へ出て見なさいって言うの?」
 プリシラはくすくす笑って言いました。
 そうよ、とても素敵なものよ。けれど、三つのカップだなんて、なんて楽しみな話でしょう、と。

 その夜。
 ミルンおばさんは、小さなランプを片手に下げて、そっと裏口から出ました。
 裏庭には、夏の間に木陰で休むための、テーブルと椅子が置いてあります。
 いつもなら、真っ暗なはずの裏庭が、ほんのり白く光っていました。
 テーブルに二人、水色の服を着て痩せている若者と、太ってにこにこした赤い服の紳士がいます。
 二人は、ミルンおばさんを見ると、ゆっくり立ち上がってお辞儀をしました。
「ようこそ、お茶会へ」
 紳士が言いました。
 テーブルの上には、ミルンおばさんのカップとお皿で、いい香りの紅茶とクッキーが用意されています。
「黙ってお借りして申し訳ない」
「僕が急かしたんです。夏を待っている人々の声が、あんまり大きくなったので、居ても立ってもいられなくて」
 水色の若者が言いました。
「そうして、わたくしが招かれた。今日は交代のお茶会です」
 紳士が付け加えました。
「あなたは、一体…」
 ミルンおばさんが尋ねると、紳士はゆっくり体を撫でさすって答えました。
「わたくしは実りを運ぶもの。喜ばしい収穫。全ての約束に応えるもの。あなた達は『秋』と呼んでおられるようだ」
「さあ、どうぞ。あなたをご招待したくて、三つ、席を用意しました」
「ええ、私のクッキーでね」
 ミルンおばさんのことばに、若者は恥ずかしそうに笑いました。
「あんまり美味しそうだったので。僕は我慢しないことにしているんです。『夏』は走り去るもの、眩く、勢いをつけるものですから」
「ええ、知ってます。だから、許してあげますわ。こんな素敵なお茶会には、この先、呼ばれないでしょうね」
 ミルンおばさんは二人に両手を取られて、しずしずと席に着きました。
「では、皆さん、巡り来る豊かな季節に」
「そして、行き過ぎる激しい情熱に」
「もちろん、私のクッキーにも」
 三人はそっとカップを持ち上げました。

                        終わり
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