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『まいごのルシュカ』(3)
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花屋は色とりどりの花で溢れていた。
店から出て来た太ったおじさんは、じっとルシュカを見て言った。
「ブルー・フラワーかな? あおにじそうかな? 何か、花の中で好きなものはあるかい?」
ルシュカは首を振った。
「ううん。ぼく、花よりアイスの方が好き。ソーダ・アイスが一番好き」
「あれ?」
「何だい、ひろし」
「また、何か、引っかかった」
(ソーダ・アイスが一番好き)
ひろしは胸の中で繰り返した。
ずっと昔、同じことを言ったような聞いたような。
「いらっしゃい」
お客が来たのか、おじさんは表の方に顔を向けた。
「すみません、フリージアはあるかしら」
「フリージアですね、いつもありがとうございます」
「それから、かすみ草と……ひろし!」
「ひろし?」
おじさんは、花を集めていた手を止めた。
呼ばれる前に、ひろし達には、お客が誰だか、声でわかっていた。だから、こっそり隠れようとしていたところを見つかってしまった。
お母さんだ。
「いくら呼んでもいないから、どこかでさぼっているとは思ってたけど、こんな所で何してるの!」
「違うんです、おばさん」
さとるが間に入って言い訳してくれた。
「ひろし、迷子になってるこの子の、帰る所を探していたんです」
「この子?」
お母さんは、ルシュカが黒い野球帽を脱ぐのをじっと見た。帽子の下から真っ青な髪の毛が溢れてくる。お母さんはふいににっこりと笑った。
「何だ、ひろし、わからなかったの」
「え?」
「この子の名前を知ってる?」
「うん。ルシュカ。お母さん、この子、知ってるの?」
「ええ、よおく知ってますとも」
お母さんはにこにこ笑った。
「ソーダ・アイスが一番好きで、そうね、もう3つになるんじゃない? ルシュカ、そう、ルシュカって言うの」
「お母さん!」
急にルシュカが嬉しそうに叫んだ。何もかも思い出したように、
「覚えててくれたの。ぼくのこと、覚えててくれたんだ!」
「ええ、ええ。覚えてますとも。枕の下に居たり、お風呂に飛び込んだり、ずいぶんぼろぼろになったけど。そうなの。ルシュカって名前がついてたの」
「どうなってんの?」
「わかんない」
ルシュカと手を繋いで帰るお母さんの後ろから、ひろしとさとるは家に帰った。
帰るとすぐ、お母さんは屋根裏部屋へ上がって行った。
続いて上がった3人の前で、箱の隅からくるくる巻いた紙を取り出す。
それは、大切そうに包装紙で何重にも巻かれていた絵だった。
真っ青な空。
真っ青な海。
真っ青な家と木。
真ん中にぽっかり、白い隙間が空いている。
「ぼくの家だ! ぼくの木と海!」
ルシュカが大声で叫んだ。
「この頃、あんたってば、青い色が好きで、好きで。ソーダ・アイスの色だからって、青しか使わなかったんだから。ソーダ・アイスの子どもがいるんだ、その子とぼくは仲良しなんだって、何度も言ったわよ。忘れたの?」
お母さんの声に急かされるように、ルシュカは走り出した。
「ただいま! 帰って来たよ!!」
そして、あっという間に、絵の中に滑り込んでしまった。
「何だ、おれの描いた絵だったのか」
呟いた途端、さとるが慌てた。
「あ! ひろし!」
「あ! ぼうし!」
ひろしも一緒に声を上げた。
青一色だった絵の中のルシュカの頭には、あの黒い野球帽がちょこんと載っている。
「返せなくなちゃったね」
「返せるさ」
ひろしは、ルシュカににやっと笑いかけた。
ひろしとさとるは、その絵を『しのや』のおばあさんに上げた。
黒い野球帽を被ったルシュカは、今は『しのや』の、アイスが入った冷凍庫の後ろの壁で、嬉しそうに笑っている。
終わり
店から出て来た太ったおじさんは、じっとルシュカを見て言った。
「ブルー・フラワーかな? あおにじそうかな? 何か、花の中で好きなものはあるかい?」
ルシュカは首を振った。
「ううん。ぼく、花よりアイスの方が好き。ソーダ・アイスが一番好き」
「あれ?」
「何だい、ひろし」
「また、何か、引っかかった」
(ソーダ・アイスが一番好き)
ひろしは胸の中で繰り返した。
ずっと昔、同じことを言ったような聞いたような。
「いらっしゃい」
お客が来たのか、おじさんは表の方に顔を向けた。
「すみません、フリージアはあるかしら」
「フリージアですね、いつもありがとうございます」
「それから、かすみ草と……ひろし!」
「ひろし?」
おじさんは、花を集めていた手を止めた。
呼ばれる前に、ひろし達には、お客が誰だか、声でわかっていた。だから、こっそり隠れようとしていたところを見つかってしまった。
お母さんだ。
「いくら呼んでもいないから、どこかでさぼっているとは思ってたけど、こんな所で何してるの!」
「違うんです、おばさん」
さとるが間に入って言い訳してくれた。
「ひろし、迷子になってるこの子の、帰る所を探していたんです」
「この子?」
お母さんは、ルシュカが黒い野球帽を脱ぐのをじっと見た。帽子の下から真っ青な髪の毛が溢れてくる。お母さんはふいににっこりと笑った。
「何だ、ひろし、わからなかったの」
「え?」
「この子の名前を知ってる?」
「うん。ルシュカ。お母さん、この子、知ってるの?」
「ええ、よおく知ってますとも」
お母さんはにこにこ笑った。
「ソーダ・アイスが一番好きで、そうね、もう3つになるんじゃない? ルシュカ、そう、ルシュカって言うの」
「お母さん!」
急にルシュカが嬉しそうに叫んだ。何もかも思い出したように、
「覚えててくれたの。ぼくのこと、覚えててくれたんだ!」
「ええ、ええ。覚えてますとも。枕の下に居たり、お風呂に飛び込んだり、ずいぶんぼろぼろになったけど。そうなの。ルシュカって名前がついてたの」
「どうなってんの?」
「わかんない」
ルシュカと手を繋いで帰るお母さんの後ろから、ひろしとさとるは家に帰った。
帰るとすぐ、お母さんは屋根裏部屋へ上がって行った。
続いて上がった3人の前で、箱の隅からくるくる巻いた紙を取り出す。
それは、大切そうに包装紙で何重にも巻かれていた絵だった。
真っ青な空。
真っ青な海。
真っ青な家と木。
真ん中にぽっかり、白い隙間が空いている。
「ぼくの家だ! ぼくの木と海!」
ルシュカが大声で叫んだ。
「この頃、あんたってば、青い色が好きで、好きで。ソーダ・アイスの色だからって、青しか使わなかったんだから。ソーダ・アイスの子どもがいるんだ、その子とぼくは仲良しなんだって、何度も言ったわよ。忘れたの?」
お母さんの声に急かされるように、ルシュカは走り出した。
「ただいま! 帰って来たよ!!」
そして、あっという間に、絵の中に滑り込んでしまった。
「何だ、おれの描いた絵だったのか」
呟いた途端、さとるが慌てた。
「あ! ひろし!」
「あ! ぼうし!」
ひろしも一緒に声を上げた。
青一色だった絵の中のルシュカの頭には、あの黒い野球帽がちょこんと載っている。
「返せなくなちゃったね」
「返せるさ」
ひろしは、ルシュカににやっと笑いかけた。
ひろしとさとるは、その絵を『しのや』のおばあさんに上げた。
黒い野球帽を被ったルシュカは、今は『しのや』の、アイスが入った冷凍庫の後ろの壁で、嬉しそうに笑っている。
終わり
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