『segakiyui短編集』

segakiyui

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『まいごのルシュカ』(2)

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「次はどこへ行く?」
「うーん」
 ひろしが尋ねると、さとるはまた腕を組んだ。
 もう1回、ルシュカを見る。
「ひょっとして」
「ひょっとして?」
「本屋かな? 絵本の中とか」
「絵本?」
 ひろしは繰り返して、首を傾げた。
「あれ?」
「なんだ?」
「なんか、わかった気がしたのに」
「ルシュカのこと?」
「うん。絵本って聞いて、なんか、ピピっと」
「じゃあ、本屋へ行ってみよう。今度こそわかるよ」
 3人は本屋へ行った。
 透明な自動ドアを抜けて、本屋に入って行くと、お客達がルシュカをじろじろ見た。
「すみません」
 本屋はさとるの出番だ。
「はい」
 カウンターのお姉さんが顔を上げて、ルシュカを見た。まあ、と小さく呟く。
「すみません、この子、知りませんか」
「きれいな子ね、幾つぐらい?」
「お前、幾つ?」
 ひろしが聞くと、ルシュカは少し首を傾げた。
「えーとね、たぶん、みっつ」
「3つ? 3つってことはないでしょう。もっと、あなた大きいわよ」
 お姉さんが言った。
「ううん、みっつ」
 ルシュカが頑固に繰り返した。
「3つの子供向けの絵本の子かしら。でも、私は、今まで見たことがないわ、役に立てなくて、御免なさい」
「いいんです、どうもありがとう」
「ありがとう」
 今度はルシュカが声を揃えた。
 3人は本屋も出た。

「今度はどこへ行く?」
「うーん」
 腕組みをしたさとるをひろしが見ていると、ふいにのっそりと男が現れた。
「もしもし、坊や達」
 大きな鋭い目の男だ。優しい声で囁きながら、ゆっくり近寄って来る。
「その子が誰だが、どこの子だか、わからないんだろ? おじさんが、その子のことを知ってるよ。ルシュカって言うんだろ?」
「そうだけど」
 ひろしは答えて身構えた。
 ルシュカが怖そうに、ひろしの後ろに隠れる。
 ひろしはさとるとルシュカの前で、足を踏ん張って立った。
「おじさん、誰だよ」
「おじさん? おじさんはルシュカの知り合いさ」
 ルシュカが慌てて首を振る。
 そっと、後ろから、さとるがひろしの手を握ってきて、ゆっくり振った。
(やばいぞ、やばいぞ)
 さとるの合図に、ひろしも頷いた。
「違うって。おじさんの知っているルシュカとこの子は違うよ」
「違わないよ。きれいな子だものな。さあおいで、ルシュカ」
 男がにっと笑って、そろそろと手を伸ばす。
 ルシュカがひろしの後ろに張り付く。
 ひろしはさとるの手を握り返して叫んだ。
「走れっ、さとる!」
「あ、待て、こら」
 ルシュカの手を引いて走り出したさとるを、追いかけようとした男の脛を、ひろしは思いっきり蹴った。
「痛えっ! このガキっ!!」
「甘くみんなよっ」
 ひろしは言い捨てて、さとる達の後を追った。
 街の中を右へ左へ。いつもお菓子を買いに行く『しのや』に飛び込んだ。小さな小さな店だ。
「おやおや、すごい勢いだ」
 『しのや』のおばあさんが笑って迎えてくれる。
「今日は3人なんだね、何をしたの」
「変な男が居たんだ、少し、ここに居させて」
 息を切らせてことばも出ないさとるの代わりに、ひろしが答えた。
「いいよ、見てきてあげよう」
 おばあさんが表に出て行った。
 その間に、ひろしはアイスクリームの入っている冷凍庫に近寄った。ポケットを探って、小遣いの残りを出す。
 まだはあはあ言いながら、さとるもポケットから小遣いを出して、ひろしの手に載せた。
「ルシュカ、何がいい?」
「うんとね、うん、ぼく、ソーダがいい!」
「ソーダね、さとるはバニラだよな」
「さんきゅ」
「で、おれはソーダ、と」
 ひろしはアイスを取り出しながら、あれ、と呟いた。。また何か、思い出しそうだったのだ。
「表には誰も居ないよ」
 おばあさんが戻ってきて、ひろしからアイスのお金を受け取った。
「でもまあ、ゆっくり休んでおいき」
「うん」
 3人は店の中の椅子に腰掛けて、ゆっくりアイスを食べた。
 食べながら、ひろしは何度もアイスとルシュカを見た。
 何か、もう少しでわかりそうなのに、わからない。
「次はどうする」
 バニラを食べ終わって、ようやく落ち着いたさとるが、カップをごみ箱に捨てながら聞いた。
「うーん」
 今度は、ひろしがソーダアイスを口にくわえたまま、腕を組んだ。
「ぼく、どこにいたんだろう」
 ルシュカがしょんぼりと言った。
「その子がいた所を探してるのかい?」
 おばあさんが声をかけてくれた。
「うん。おもちゃ屋も行ったし、本屋も行った。でも、わからないんだ」
「花屋は行ったかね?」
 おばあさんは聞いた。
「花屋?」
「花の妖精かも知れないよ」
「そうか、そう言うこともあるな」
 さとるが立ち上がって、ひろしは残りのアイスを飲み下した。
 ルシュカも最後の一口を飲み込んで立ち上がる。
「ようし、花屋だ、行ってみよう」
「お待ち」
 おばあさんが奥から、黒い野球帽を持って来た。
「その子の髪の毛は、きれいすぎて目立ちすぎる。これを被せて行きなさい」
「ありがとう」
「後で返しに来ます」
「はいはい、またね」
 黒い野球帽を被ったルシュカを連れて、ひろしとさとるは、辺りを見回しながら花屋へ行った。
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