『segakiyui短編集』

segakiyui

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『ドライなかすみ草』(1)

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 ピンポーン。
「はぁい」
 ベルが鳴って、裕子は玄関の扉を開けた。
 アルバイトらしい青年が、手に箱を抱えて立っている。
「お届けものです。ハンコ…」
「あ、はいはい」
 室内に戻りながら、裕子は故郷の母親を思い出した。三日後は彼女の誕生日だから、何か送ってくれたのかもと微かな期待に胸を膨らませて、小包を受け取りハンコを押す。扉を閉めるのももどかしく、小さなこたつ机に箱を乗せ、ぺたりと座り込んで包みを開けた。
「なあに、これ…」
 箱の中には白く柔らかい紙に包まれて、小さく花束に纏められた、かすみ草のドライフラワーが入っていた。側に薄い青色の紙が一枚、二つ折りにして入っている。
 裕子は眉をしかめながら、恐る恐るその紙を持ち上げ、広げてみた。PCのプリントらしい感情のない文字で『三日前から知っていた』とある。
「やだ……気味が悪い…」
 裕子は慌てて紙を箱に戻し、かすみ草も封じ込めるように蓋をして、部屋の隅に放り出した。

 翌日。
 カフェで待ち合わせて、裕子は恋人の和志に、奇妙な贈り物について話した。それからちょっと気を惹くように、
「ねえ、気になる?」
 尋ねてみたが、相手は手にしていた英字新聞に目を落としたまま、片手でコーヒーカップを探って答えた。
「いや、別に……ああ、もう昼休みも終わりだし…」
「もう行くの?」
 立ち上がった和志を不満そうに見上げる裕子に、苦笑いして答える。
「お前のところほど暇じゃないの。じゃ、な」
「うん…」
 レシートを掴み、さっさと店を出て行く和志に、裕子は少し切ない溜息をついた。
 付き合いだしたのは三年前、裕子がまだ花屋でアルバイトをしていた時の頃だった。始めの頃は和志の方が熱心だったと思うのに、近頃ではどちらかと言うと、裕子の方が振り回されている。もう潮時というやつなのかなと思う一方で、そんな和志の態度が寂しい自分もいて、裕子は最近憂鬱だった。
「和志一人が男じゃないし」
 強がって呟いて、裕子も席を立った。
 ふと、あのかすみ草のドライフラワーが脳裏を過ぎっていった。

「あれ……また?」
 勤めから帰った裕子はポストに入っていた紙に目を丸くした。急いで荷物を預かってくれていると言う管理人の所へ行き、やっぱり昨日と同じような小包を受け取る。
 部屋に戻って開けて見ると、白い柔らかな紙の中に、小さな花束にされたかすみ草のドライフラワー、青色の紙も同様だ。そっと開いて見ると、『謎かけはわかった?』と書かれていた。それともう一枚、一目見て花屋とわかる写真。
「これ…」
 裕子は気づいて思わず声を上げた。
 それは彼女がアルバイトをしていた花屋だ。でも、その花屋は、もう潰れてなくなっているはずだった。そうしてみると、写真はどこか古びた色をしている気がする。
「いつ……撮られたんだろう」
 そして、誰が。
 裕子は写真の中、店の奥で花をいじっている自分の姿を見つけて呟いた。
 小包は三日目、裕子の誕生日にも届いた。
 管理人から受け取って部屋に戻り、箱を開く。いつものように、かすみ草のドライフラワーの花束と青色の紙。その紙を広げると、『あの時の場所で』とあった。
「あの時の場所…」
 裕子は手紙の文字を穴が開くほど見つめた。そして、ふいに気がついた。
 この青色の紙をどこかで見ている。
 どこで、だろう。
 ゆっくり指先で揉んでみる。そうすると、ますますその紙に覚えがあるような気がした。そう、確か、裕子は同じ仕草をしたことがある。紙を指先で揉むのは苛ついた時にする裕子の癖だ。なぜ苛ついていたんだろう。
 裕子は必死に記憶を辿った。小包に入っていた青色の紙はしわくちゃになり、指の間でくるくる捩れた。じっと見つめていた裕子の頭に、突然蘇った場面があった。その途端、今まで気味が悪いとしか思えなかったかすみ草の花束が、よく知ったものとなった。
 そう、彼女は知っている、この青色の紙とかすみ草のドライフラワーが飾られていた場所を。
 それは和志の部屋だ。
「何の……つもりで…!」
 裕子は小包を抱えて部屋を飛び出した。
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