118 / 146
SSS88『幻想庭園』
しおりを挟む
「ん…」
僕は少し身動きして目を覚ました。また疲れて眠ってしまったらしい。
真っ白い部屋の中、僕は全裸で横座りになっている。自分の体を見ると、ピンク色の皮膚に金色の産毛がぼんやりと輝いている。
昨日の神経の使い方は酷かった。ほとんど10ルーム分も働いた。気怠い。眠い。ベッド、と思う。ふわふわの羽毛の塊。ゆっくり頭の中で想像する。白い和毛、暖かさ、柔らかさ、触れるとまとわりつく羽根……イメージが固まってくると、目を閉じて両手を差し伸べる。指で空気を掴んで形作る。羽の感触。そう、こうだ。つるっとした表面、付け根部分の感じないほど儚いふわふわの和毛……空気がはっきりと『それ』になると、それを増やしてゆく。羽毛。羽毛。たちまち僕の周りに羽毛の散る感じ。よし、うまい。目を開けると、天井から30cmほどしたあたりで、ふっと羽毛が現れ舞い降りてくる。降り積もる。床に、膝に、肩に、腕に、頭に……鼻の頭に一枚。
「ふふっ…」
笑った僕は、次の瞬間、体を硬直させた。床から電気ショック。羽毛が消えていく。ショックは続く。金の髪が逆立ち、空中に蛇のようにゆらめき、伸ばした指先から青いスパークが散る。閃光、激痛、悲鳴、疲労。スパークが消え、僕は仰臥して倒れる。主人は気に入らなかったらしい。でも、何をすれば気に入るのか、あんまりよくわからない。時々、ガアガアとスピーカーが喚く。音だけ。意味はわからない。ショックの意味だけはわかる。青いスパークショックは「ヤメロ」。赤いスパークショックは「ヤレ」。
びりっと床が震えた。はっとする間もなく、赤いスパークが僕を包む。立たずにはいられない。立って……立って……「仕事」を始めよう。さあ…。
僕は倒れたまま、手を差し伸べる。雪。青い雪(ブルー・スノウ)。僕を埋めてしまう雪。感触は? 淡い、触れると消えそうな……青い青い氷の結晶。ふっと一瞬、手の間で何か溶けた。できた? できたらしい。目を開けると、白い天井から目にも鮮やかなスカイ・ブルーの雪が少し灰色に燻んで落ちてくる。もっと、もっとだ。雪が細かくなり、降りてくる量が増える。肌に落ちて、一瞬ボウッと蛍火のように輝いて溶けていく。いい出来だ。床に積もり、僕を覆っていく。淡い蛍光に照らされ、部屋が輝き始める。さあ、もう少しやってみよう。
今後は月光バラ(ムーンライト・ローズ)だ。指先に細い茎。その先に剣先型の葉が数枚。突端のしなった茎に指一本分の間を空けて、幾つか小さな薄紅色の蕾をつける。一本分は注意深く作り上げておく。あとは複製すればいいだけだし。蕾は? 綻かけている。少し慌てて目を開け、花を点検する。茎の色が薄すぎたかな……深緑の方が……青い雪(ブルー・スノウ)にはよく合うんだけど。
蕾がふうっと膨らんでいく。ああ、もう羽化の時期だ。体を起こして両手を高く差し上げると同時に、蕾が蛍光に照らされポーンと弾けた。きらきらと星粒が散っていく。背中に羽根を生やした、生まれたての小さな妖精達が、青い雪(ブルー・スノウ)の上に飛び降り突っ込み尻餅をつく。蕾は薔薇の形に開き、金粉銀粉の粉を撒き散らしている。その粉の一つ一つが種、落ちた所からすぐ芽が出、茎が伸び、蕾が膨らみ、蛍光の中で次々弾ける。妖精達の笑い声。花を散らせと叫んでいる。花が散り、その花弁を集めて妖精は着飾る。同じものを二度作ることは許されていないから、僕は彼らに別れを言い、次のものに取り掛かる。
少し変わったもの。細長い棒、金属製、煌めく冷たい……銃。そう、二つだ。手で抱えられる、けれど威力は強い。ボタン、二つ。一つは熱い光、一つは冷たい光。硬い。表面は滑らか。色はブルー・ブラック。目を閉じ、手にそれを感じる………途端に、青いスパーク。銃は手の中で消え失せたのに、青いスパークは引き続き僕を打ちのめす。茶色の、乾いた、荒れた大地。死に切った世界。その中央に銃が一つ転がっている。銃が荒廃と結びつく。岩が崩れる。その力は銃から来ている。川が破壊される。その力も銃から来ている。壁は白く、画像は失われる。ガアガアと言う声、ぱしっと宥めるような赤いスパーク。僕は綺麗な黄金虫を作ろうとし始める。小さく、すべすべ、愛らしい眼の……。
『どうかね、MAN307723012は?」
『まだ、戦いの記憶を捨てられないみたいです。本当に困ったものです』
『あんなに地球をメチャメチャにしたのになあ』
『いつまで、この洗脳法を実施しますか?』
『MANがもっと無邪気になるまで、だな』
MAN更生施設、「幻想計画」グループの責任者、DUCK12003250は、白い尾を振って答えた。
終わり
僕は少し身動きして目を覚ました。また疲れて眠ってしまったらしい。
真っ白い部屋の中、僕は全裸で横座りになっている。自分の体を見ると、ピンク色の皮膚に金色の産毛がぼんやりと輝いている。
昨日の神経の使い方は酷かった。ほとんど10ルーム分も働いた。気怠い。眠い。ベッド、と思う。ふわふわの羽毛の塊。ゆっくり頭の中で想像する。白い和毛、暖かさ、柔らかさ、触れるとまとわりつく羽根……イメージが固まってくると、目を閉じて両手を差し伸べる。指で空気を掴んで形作る。羽の感触。そう、こうだ。つるっとした表面、付け根部分の感じないほど儚いふわふわの和毛……空気がはっきりと『それ』になると、それを増やしてゆく。羽毛。羽毛。たちまち僕の周りに羽毛の散る感じ。よし、うまい。目を開けると、天井から30cmほどしたあたりで、ふっと羽毛が現れ舞い降りてくる。降り積もる。床に、膝に、肩に、腕に、頭に……鼻の頭に一枚。
「ふふっ…」
笑った僕は、次の瞬間、体を硬直させた。床から電気ショック。羽毛が消えていく。ショックは続く。金の髪が逆立ち、空中に蛇のようにゆらめき、伸ばした指先から青いスパークが散る。閃光、激痛、悲鳴、疲労。スパークが消え、僕は仰臥して倒れる。主人は気に入らなかったらしい。でも、何をすれば気に入るのか、あんまりよくわからない。時々、ガアガアとスピーカーが喚く。音だけ。意味はわからない。ショックの意味だけはわかる。青いスパークショックは「ヤメロ」。赤いスパークショックは「ヤレ」。
びりっと床が震えた。はっとする間もなく、赤いスパークが僕を包む。立たずにはいられない。立って……立って……「仕事」を始めよう。さあ…。
僕は倒れたまま、手を差し伸べる。雪。青い雪(ブルー・スノウ)。僕を埋めてしまう雪。感触は? 淡い、触れると消えそうな……青い青い氷の結晶。ふっと一瞬、手の間で何か溶けた。できた? できたらしい。目を開けると、白い天井から目にも鮮やかなスカイ・ブルーの雪が少し灰色に燻んで落ちてくる。もっと、もっとだ。雪が細かくなり、降りてくる量が増える。肌に落ちて、一瞬ボウッと蛍火のように輝いて溶けていく。いい出来だ。床に積もり、僕を覆っていく。淡い蛍光に照らされ、部屋が輝き始める。さあ、もう少しやってみよう。
今後は月光バラ(ムーンライト・ローズ)だ。指先に細い茎。その先に剣先型の葉が数枚。突端のしなった茎に指一本分の間を空けて、幾つか小さな薄紅色の蕾をつける。一本分は注意深く作り上げておく。あとは複製すればいいだけだし。蕾は? 綻かけている。少し慌てて目を開け、花を点検する。茎の色が薄すぎたかな……深緑の方が……青い雪(ブルー・スノウ)にはよく合うんだけど。
蕾がふうっと膨らんでいく。ああ、もう羽化の時期だ。体を起こして両手を高く差し上げると同時に、蕾が蛍光に照らされポーンと弾けた。きらきらと星粒が散っていく。背中に羽根を生やした、生まれたての小さな妖精達が、青い雪(ブルー・スノウ)の上に飛び降り突っ込み尻餅をつく。蕾は薔薇の形に開き、金粉銀粉の粉を撒き散らしている。その粉の一つ一つが種、落ちた所からすぐ芽が出、茎が伸び、蕾が膨らみ、蛍光の中で次々弾ける。妖精達の笑い声。花を散らせと叫んでいる。花が散り、その花弁を集めて妖精は着飾る。同じものを二度作ることは許されていないから、僕は彼らに別れを言い、次のものに取り掛かる。
少し変わったもの。細長い棒、金属製、煌めく冷たい……銃。そう、二つだ。手で抱えられる、けれど威力は強い。ボタン、二つ。一つは熱い光、一つは冷たい光。硬い。表面は滑らか。色はブルー・ブラック。目を閉じ、手にそれを感じる………途端に、青いスパーク。銃は手の中で消え失せたのに、青いスパークは引き続き僕を打ちのめす。茶色の、乾いた、荒れた大地。死に切った世界。その中央に銃が一つ転がっている。銃が荒廃と結びつく。岩が崩れる。その力は銃から来ている。川が破壊される。その力も銃から来ている。壁は白く、画像は失われる。ガアガアと言う声、ぱしっと宥めるような赤いスパーク。僕は綺麗な黄金虫を作ろうとし始める。小さく、すべすべ、愛らしい眼の……。
『どうかね、MAN307723012は?」
『まだ、戦いの記憶を捨てられないみたいです。本当に困ったものです』
『あんなに地球をメチャメチャにしたのになあ』
『いつまで、この洗脳法を実施しますか?』
『MANがもっと無邪気になるまで、だな』
MAN更生施設、「幻想計画」グループの責任者、DUCK12003250は、白い尾を振って答えた。
終わり
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる